4話【悲劇は巡り】

「お兄様...!!イルミネーション、綺麗ですね!!」


「あぁ、そうだな...。」


「お兄様...?何かありましたか?」


「いいや?何でもない..。イルミネーション...綺麗だな!」


「はい!お兄様...ご一緒してくださりありがとうございます」


感謝するのは俺の方だろう。

前世でしか見れないと思っていたものをもう一度みれた。

それだけで何か救われた様な気がしたのだから。


「お兄様...!」


「ん?どうした。」


セシリアから呼ばれてイルミネーションからセシリアの方へと視線を移したとき。

セシリアの瞳はイルミネーションではなく、違うものを映していた。


「あの子...。」


セシリアが指を指した方向には、貴族風の身形をした小太りの男と、ボロボロの服を着た奴隷の少女がいた。


「先ほどからあの子の様子がおかしいんです。」


確かに、傍目から見てもこの男女の様子はおかしい。

少女は足が動いておらず、宙に浮いている状態だ。


一方ら貴族風の男は、首輪を引き付って連れて行こうとしている様だが、筋力がないのか、その場から動こうとしない。


こんな行為、前世では到底許されないことだ。

だが、この世界では、貴族や裕福層の人間が力のない人間を奴隷として扱い従わせる事のできる「奴隷制」というものが存在する。


「確かに...?!って、おい。まて!!セシリー!」


俺がセシリアに何と返答しようと考えている隙に、セシリアが飛び出して行ってしまった。

その小さな背中を追いかけて、俺は数歩遅れて地面を蹴る。


「あぁ。クソッ!」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おい!このクソ奴隷が!!この俺様が、お前みたいなゴミの世話をしてやっているんだ!!もっと早く歩けよ、このウスノロ!!」


「ご、ごめんなさい。」


「チッ!ごめんなさいごめんさい、うるせえぇなぁ!」


男が奴隷の少女を罵倒し殴る。

少女は痛がることもせず、ただごめんなさい。と小さく呟くだけだった。


「ごめんなさい。」


「ッ!ぶつぶつ薄気味悪い奴だな?このゴミ!!」



男が拳を少女へと振り下ろそうとした時、まるで柔らかさの上に怒りを含んだ様なそんな凛とした声が男の動きを静止させる。


「その手を下ろしなさい!」


「はぁ?!誰だよ?お前?」


金髪の少女は整った顔を憤怒に染め、男へ怒りの表情を向ける。


「その前にその手を下ろしなさい!!」


「フハハハハ。見たところ、ちょっとした裕福層の人間だろう?俺は貴族だぞ?貴族!!カーズ男爵家、次期当主。サリフル・カール様だぞ??お前のような一般の民が貴族の問題に口を出していいとでも思っているのか?!」


男は、奴隷の少女へと向けた拳を引き込め、金髪の少女へと平手を振りかざす。


「この愚か者めが!!」


「きゃっ!!」


パチンッ

男が金髪の少女へと向けた平手は、意図せぬ方向からの妨害によって威力を失う。

男はその自分の平手を受け止めた黒髪の少年に驚きが隠せない。


「おい、何をやっている。このクソ豚。」


またしても、自分の...貴族の威厳を妨害する者が現れたのだ。


「ッ?あぁ?俺はカール男爵家....え?」


許せない。男は憤怒の表情をその膨れ気味の顔に乗せるが、その顔は少年の身形を見て青に色を変える


「カーズ男爵家?それがどうした、続きを言ってみろ?」


「い、いえ...。貴方は...。」


「貴様に語る名など、存在しない。それよりも、今...私の妹に...何をしようとした?」


何故なら、その黒髪の少年が着ていたローブに、公爵家の家紋が入っていたからだ。

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