3話【王都へ】
今日は快晴で、空気も美味い。
それに体調も大分回復した。
ということで俺は現在、フィンセント公爵領から片道約30分。
王都までの道のりを馬車に揺らされながら移動している。
セシリアと一緒に。
「なぁ、セシリア?そういえば護衛はどうしたんだ?見当たらないんだが...。」
「えぇ。護衛達は、お父様に兄さんがいるから大丈夫って言っておいたの。」
「そ、そうだったのか...。」
俺たちは一応、公爵家の人間なんですが。
大丈夫なんでしょうか?
まぁ、非公式だから大丈夫な事は大丈夫なんだけども。
それにしても、あれだけ貴族の尊厳に厳しい父さんがセシリアのお願いだとしても、護衛なして王都に行かせるとはね。
俺なんて、あの事件の次の日「何故あんな無謀なことをした」って一日中怒られたんだよ?
まあ、あれは言葉の足りない俺も悪かったが。
「兄さん、外を見てください!」
セシリアに言われて外を見てみると、そこには黄色が目立つ広大な花畑があった。
ヒマワリに似た花が何処か前世を思いださせる。
この世界に来て早13年。
長くも短くもあった。
「おお!綺麗だな?」
「はい!」
真正面に座っているセシリアは余りお目にかかれない絶景に、いつにもなく上機嫌だが、俺の心中はそれどころではなかった。
何故か。
それは、この馬車、とてつもなく乗り心地が悪いのだ。
「そういえば兄さん。」
「ん?」
「さっきから、顔色が優れないけど、大丈夫?」
「あぁ...大丈夫だ。」
全然大丈夫ではないが、ここは強がっておく。
後、数十分の辛抱だ。
「そういえば、兄さんって魔法が使えたんですね。」
「まあ、一応な。」
「私にも教えて?」
「えっ?」
「ダメ?」
セシリアさん?貴方どこでそんな上目遣いという高等技術を習ってきたのかしら。
「あぁ。分かった。」
「やった。」
セシリアの満円な笑みとは反対に、俺のお尻は馬車が揺れるたびに悲鳴を上げ続ける。
とりあえず、速く着いてくれ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お~い。着いたぞーセシリア」
「ハッ?!お、はよう?」
「おーい、よだれ垂れてるぞ~。」
「へっ?」
こんなセシリアを見る機会はそうそうない。
今のうちに脳内に保存しておこう。
「ご、ごめんなさい。」
「ふっ。大丈夫だ。」
ちゃんと脳内に記憶したから。
「よし、行くか。」
「う、ん。」
俺は馬車から降りて手を差し出す。
セシリアはまだ脳の活動が停止しているのか、半目で揺れながらも俺の手を取る。
「おーい。起きてるかー。」
「起きてる...!」
意外と寝起きの悪いセシリアについ母性のようなものを感じてしまう。
なんだ、この生物は。
「お、あそこのベンチでちょっと休むか。」
「うん。」
強引に連れて行くのは可哀想なので、目が覚めるまで少し休ませることにした。
なんて良い兄なのだろうか。
ーーーーーーーーー
「よーし、行くぞー。」
「ねぇ、兄さん。」
「よーし、いくぞー。」
「兄さん!!」
「ん?どうした?」
「私、よだれ垂らしてませんでした?」
「大丈夫だ、大丈夫。」
「なんですか、その反応...」
ベンチに座ってから10分ほどで、セシリアの脳は覚醒を果たしたようで、さっきからずっと無表情で同じ質問をしてくる。
何か新しい扉が開きそうなので、辞めてもらいたいところだ。
「それにしても、見ろよ、あれ!」
「もうっ!」
こういう時は強引に話の矛先を変えてしまえばいいのだ。
俺は丁度いいところで開かれたショーを指さして歩き出す。
「行くぞ。セシリア。」
「...。」
歩きながらも、ぷく顔で背中をツツいてくるセシリアを気にも留めないふりをして、俺は一直線に街中に入っていく。
それにしても、王都というだけあって大分賑わっている。
前世でいうUS○を街に投影したかのような背景に、街道は道の奥まで続く出店やちょっとした魔法ショーらしきものを行っていた。
そんな光景を目にして、舞い上がる俺とツンツン攻撃を辞め、ソワソワしているセシリア。
「何から回る?」
「兄さんに任せるっ!」
どうやら機嫌を直してくれたらしいセシリアと共に、前世では見られない、魔法を使ったショーや魔法具店。
それに雑貨屋やアクセサリー店など、時間が許されるまで回った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「楽しかったか?セシリア?」
「は...うん!楽しかった!このネックレス...。ありがとう。」
途中の意外にもセシリアのセンスは大人びていた。
いや、魔加ルビー
「あぁ。喜んでもらえて嬉しいよ。」
「俺も買いたい物が買えたし、そろそろ帰るか?」
魔道具店で、今後の魔法改良に関わる魔道具が買えた。
それだけで、この王都に来た意味は果たせただろう。
「すいません、お兄様。少し我儘を言ってもよろしいでしょうか?」
「おぅ?いいぞ?」
「あの、イルミネーションという物を一緒に見ていただけませんか?」
「イルミネーション...。」
イルミネーションといえば、前世の記憶が蘇る。
イルミネーションの輝く中、突然の告白。
驚く彼女、笑う俺。
まぁ、テレビの外から笑ってたんだけど。
「どうかしましたか?お兄様?もしも見たくないのであれば...」
「いや、見よう。イルミネーション!」
「お兄様!ありがとうございます。」
まさかイルミネーションをセシリーと見ることになるとはね…。
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