間話-セシリア・フィンセントSide

突然だが、私には2歳年上の兄がいる。

兄の名はロベルト・フィンセント。


フィンセント公爵家の嫡男で、後継ぎだ。

私はそんな兄の事をあまり好きにはなれなかった。


それは、彼の性格や態度が原因ではなく、私自身の、劣等感と血が繋がっていないという負い目からきている。


私は、物心ついた頃、書斎で話している父と兄の話につい聞き耳を立ててしまった。

そこで知った。

私が実のフィンセント公爵家の人間ではないと。

最初は驚いたが、薄々そんな気はしていた。


何故だかは分からない。

違和感というものだろうか?


その事を知った私は、兄に辛く当たる様になった。

どうせ私は血の繋がっていない他人だ。


いつかこの家族の興味が私から無くなったら捨てられるに決まっている。

どうせ嫌われるのなら、最初から嫌われたままでいようと。


そう思っていた。


あの日、事件が起きて。

私はもしかしたら捨て駒にされるのではないだろうか?とそう、思った。


いや、父と兄の優しさは分かっているつもりだ。

そんな事はしない人達だと知っている。

それでも、彼らだって人間だ。


命の危機に遭遇した時、人間の本性というものは垣間見える。

人という生き物は残酷なのだ。


だけど、この人達は違った。

父は私の前に出て、私達を生き残らせる為、命をかけた。


兄は、私達家族を命がけで助けてくれた。

そこまでして、あの人達は私を守ってくれた。


嬉しかった。


今まで、この家族の事を嫌いだとは思った事は無い。

それでも深くあの人達と関わるのが怖かった。


いつか裏切られる、そういう疑心暗鬼の心が芽生えていたからだ。

あんなにも優しく接してくれていたのに、私に愛情を注いでくれていたのに。


それに気づけない私を義兄を許してくれるだろうか?


あの事件の後、義兄は2日間もの間、目を覚ます事は無かった。

医者の話によると魔力欠乏が原因らしい。


後2日もすれば目を覚ますとは言ってはいたが、このまま目を覚まさなければ私は私を許せないだろう。

私は、彼に謝らなければいけない事が沢山ある。


「早く起きてよ。」


ただただそう願う。


◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆


4日後、お兄様が目を覚ました。

最初、目が合った時、何を話そうか、何から謝ろうか。


そんな事ばかり考えていたせいか、顔が暗くなっていたらしい。


...お兄様とまともに話すのは何年振りだろうか?


それ程の期間...お兄様には辛く当たってきた。

償いきれる事ではないと思う。


それでも彼に、一言でも良いから謝りたかった..。

そう思い、言葉を紡いでいく内に、計り知れないなんとも言えない感情が溢れ出てきた。


自分でも何を言ったのかは覚えていない。

でも、そんな私にお兄様は...家族だと言ってくれた。


私が大事だと。

あんなに酷いことをしてきたのに。


我儘を言って、無視して、反抗的な目だって向けた。

それなのに...私が嫌いではない。大事だと。


彼の言葉で、今まで不安視してきたいろんなものが無くなった気がした。

まるで肩の荷が降りた様な...。


これから先、何が起こるかは分からない。

でも、向き合っていきたいと思う。


また同じ失敗を後悔を繰り返さない様に。

この人達...いや私の、家族と。

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