第2話 悪役令嬢は

「ァ...!!」


視界が揺れて、身体の重さが寝ているだけでも分かる。

だが、自分が生きている、という事実だけは認識できた。



ん?寝ている?


「...!お兄様!!」


セシリアの声で脳が覚醒する。

見慣れた天井、愛用のベッド。

自室だ。


「...。」


「良かった!!本当に...!」


そこまで心配することだろうか、と思ったが、悪い気はしない。

逆に、嬉しいまである。


「おいおい、泣くなって。ちょっと眠ってただけなんだから。」


「ちょっと?」


「え?」


なんだその反応は。

まるで俺が俺、仮死状態か何がだったみたいな。


「4日ですよ!4日も眠られて...。もう起きないかもって。」


「えっ?!」


体感では、さっき気絶したような感覚だったんだが。

そんなにも寝ていたのか。


「おいおい。泣くなよ、セシリア。」


「だってぇ...」


セシリアの瞳から流れる涙に、俺は動揺を隠しきれない。


「大丈夫だって。ほら、身体ももう大丈夫だ。」


とてつもない筋肉痛の様な痛みが体中に走るが、お兄ちゃんパワーで強がってみせる。


「本当に?」


「あ、あぁ。」


「良かったぁ...!」


何でまた泣くんだ...。

やはり年頃の女の子は分からん。


「ほら、見てみろ。セシリー!」


俺は手のひらの上に、擬似花火の様なものを魔法で作り出しセシリアに見せる。


「わぁ...!」


良かった。

少しは落ち着いてくれた様子だ。

だが、俺の為にこんなに泣いてくれるなんて、今までのセシリアの態度からは想像がつかない。

もしかしてセシリアって、ツンデレってやつなのか?


「どうだ?綺麗だろ?」


「はい!とっても...!」


まぁ、可愛いのでなんでも良い。


「フッ。あぁ、そうだ。みんなは無事か?」


「...はい!お義兄様のお陰で。」


「そうか、良かった。」


セシリアの言葉を聞いた時、俺の感情は何ともいえないもので埋まっていた。

皆が助かったのは良かった、が。

負けた。

完膚なきまでに。

どれだけ力量に差があるのか分からない。

それだけの高みにアイツはいる。


「お兄様、、、あの」


「ん?どうした?」


「その...!!」


「ん?」


どうしたんだろうか?

いつにもなくセシリアの顔が暗い。


「セシリア...?」


「お兄様...。私!今まで、お兄様に嫌われていると思っていたんです。」


「へ?どういう事だ?」


いきなりの事につい腑抜けた声が出る。

俺がセシリアを嫌うなんて無いに等しいというのに。


「私が、お兄様とも、お父様とも、血が繋がっていないという事は知っています。皆さんは私に本当に優しく接してくださっていますが、本心では、私の事が邪魔なのではないかと...そう思っていたんです。」


「...。」


セシリアの言葉を脳が上手く処理しきれていない。

何故、セシリアがそのことを知っているのか。


「なので...どうせ嫌われるのなら、初めから嫌われてやろうと。物心ついた頃から、お兄様には様々な心労をおかけ致しました。今更、許されようとは思っていません...。それ程、私はお兄様が不快な思いをされる様な言動や行動を取ってきたと思います。ですが、そんな私をお兄様は助けてくださいました。その...私、嬉しかったんです。」


「ま、まてセシリア?何を...。」


「上手く言葉にはできません。ですが...その今まで申し訳ありませんでした。そして...私を救っていただき本当にありがとうございました!」


セシリアの目には涙が潤んでいた。

自分から人に嫌われるように接するなんて、相当追い詰められていたのかもしれない。


確かにセシリアは、8年前。

俺が5歳の頃に公爵家の門の前に放置されていた捨て子だ。

当時のセシリアは今では比べられない程に痩せ細っていて、門番が見つけなければ死んでいただろう程に憔悴しきっていた。

そんなセシリアを不憫に思った父さんの計らいによって、セシリアは公爵家の養子となった。


なるべくセシリアには気付かれない様、父さんも俺も十分注意してきた。

何処でバレたのか。


いやそんな事は後回しでいい。


「セシリア...お前は俺の家族だ。」


「お兄様...」


「血なんて関係ない。一緒に過ごして、話して、見て、笑って...喧嘩もした。一時期話さない時だってあったよな?でも、家族なんだしそれくらいはするさ。ていうか、セシリアは優しいからさ...自分は悪く見せてる様でも、俺からしたら可愛いもんだったよ?嫌いになる事なんて無かった。てかならない!」


「...!」


「それにさ、俺は嬉しかったんだよ。セシリアが俺に我儘言ってくれる時とかさ?」


「な...なぜで..すか。」


「んー、上手く言葉にはできないけど...嬉しかったんだ。」


「なんですか、それは。」


「フッ。まあ気にすんなってこと、血なんて関係なく俺達には家族として一緒に生きてきた時間がある。それだけで良いんじゃないか。」


「は...い...。」


「それにもっと俺を頼れ、相談しろ、一人で悩むな。セシリアには俺も、父さんだっているんだ。沢山味方がいるんだよ。一人で悩む事なんてない。だろ?」


「はぃ...」


「よし、じゃあ。今度一緒に買い物にでも行くか。」


「えっ?」


「俺の奢りで、な。」


「そんな...私は...」


「強制だぞ。」


「グスンッ。じゃあついて行ってあげます。」


「ふっ。決まりだ。ああ、それと敬語はやめろ。」


「えっ?」


「俺に対して敬語なんか使わなくて良いよ。」


「じゃあ、どうすれば...」


「普通で良いんだ。」


「普通...」


「あぁ、ゆっくりでいいけどな。」


「は、い。分かりまし...分かった?」


「ふっ。良し!じゃあ、寝るか~。」


「また寝る...の?」


「あぁ。セシリアももう部屋に戻って良いぞ。」


「う、ん。」


セシリアはベッドの傍に置いてあった椅子から立ち上がる。


「おやすみなさい。兄さん。」


「ああ、おやすみ。」


ガチャン、という音と共にセシリアの姿が暗闇に消える。

どこでセシリアが出生については聞けなかったが、この公爵家にセシリアの事を悪く思っている人間はいないはずだ。

ならば、外部からの情報か、どこかで小耳に挟んだのかはわからないが、少し調べてみる必要がある。


そんな事を考えながら眠りにつく。

最後に浮かんだのは、セシリアの笑った顔だった。

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