3.こういう所は子供なんだよな
あのカミングアウトから二週間経った。案外、日常というものは壊れにくいもので俺はあれからずっとパフェカラ関連の事を調べていた。
ネット記事には話題作りのために過激なタイトルがつけられたものが多く、かといって新聞やテレビにはオモチャやグッズの広告しか載っておらず、ちゃんと調べるにはネットが一番早い。
パフェカラの歴代メンバーや自己紹介等が大半で、知りたかった情報ではない。俺が知りたいのは誰と戦っているかという所だ。
探していくうちに『敵対組織幹部まとめ』という何とも怪しいサイトにたどり着いた。幹部もまたパフェカラのメンバーと同じく少しずつ変わっているみたいだった。
化け物の写真は綺麗に撮れてはいるが、現役幹部の方はブレていてよく分からない。しかしよくまとめられていて、資料作りの参考にしたいほどだ。
(基本的には敵対組織のルーザードッグが作り出す化け物と対峙、そして倒して元通りか。政府公認団体だが警察のように逮捕権はないためルーザードッグの幹部を捕まえられない…これ変身道具持ってなくて夜道に襲われたら危なくないか?)
数年に一度、幹部が捕まるとメディアは大騒ぎするが、すぐに収まる。大体は捕まってしまえば後は司法で裁かれて豚箱行き。犯罪者の最後は大体そんなものだろう。
逮捕された過去の幹部の顔写真や名前、経歴等は全て晒されており、現代社会の歪んだ正義を感じる。
「ねぇー今日は撮影も何もかも終わらせてきたのに冷たくなーい?」
「今仕事中なんだよ」
「パフェカラの記事見るのが?」
後ろに舞菜の気配を感じて、咄嗟にパフェカラの公式サイトに飛んだ。別に隠すつもりはないが、見ても気分を害するだけだろう。
俺の首に腕を巻き付けて、後ろに彼女はいる。頭に柔らかい感触で包まれる。その時間が長ければ長いほど、心臓の鼓動は早くなる。
(ものすっごい乳圧を感じる……! 巨体巨乳のくせに自分のデカさ理解出来てないのか? こいつ)
「あ、それ前から欲しかったコスメ。やっぱかわいいなぁー」
冷静を装いつつも、適当にサイトを見ていくとネットショッピングの広告で化粧品が出てきた。クリックすると、よく使っている通販サイトに飛んだ。
無数の色数で、何に使うかよく分からないコンパクト型の化粧品だが、瞼の上に塗るものだろう。値段も学生には厳しいかもしれないが、社会人なら買える値段だ。
「何色がいい?」
「えっ、いいの!? マイ何かいい事したっけ?」
「社会人はこれぐらいなら出せる。パフェカラに選ばれたお祝いだ」
「マジでありがと! 大好き! この三番の乙女の瞬きにして」
「はいよ」
更に締め付けがキツくなった。彼女の匂いで頭が囲われる。柔らかい束縛が心地よかったが、同時に社会的地位が危ぶまれている。
(更に乳圧が……!)
「こういう事、他の奴らにもやってないだろうな?」
彼女の腕を掴んで、上を見た。ローアングルで見ると中々迫力がある。笑っていると尚更だ。
「そんなの女の子にしかしないに決まってるくない? てか嫌いな人にはしないし。だって嫌いな人に時間なんて割きたくないし」
(まだ俺の事を女だと思ってんのかな)
都合のいい女友達、そんな認識で居られては困る。
いや付き合いたいから等というゲスな考えからではない。世の中には性欲で動くカスがいるからこそ、こういった軽率な行動はよくないのだ。決して俺が嫉妬したわけではない。
そういや、この子には彼氏がいたんだ。だったらこんな行動やめさせるべきだ。そう、模範的なベビーシッターとしてはそうせざるを得ない。
「舞菜ちゃん彼氏いたよな。いるんだったら抱きついたりしない方がいいんじゃないか」
「えっ?……あーうん、それよりさぁ」
露骨に話を逸らしたな。彼氏と上手くいってないのなら好都合…ではない。傷つく所は見たくない。でもこんなに可愛いくて性格も良い子の彼氏なら同じ程度の人間と付き合っているはずだ。
あぁ、考えるだけで虫唾が走る。あの子の性格的に写真ぐらい見せてもいいはずなのに、見せないということはやはり上手くいっていないんだろう。少し愉悦に浸ってしまう。
俺はただのベビーシッター、都合のいい子守り役だ。一丁前に下世話な感情を持ち合わせるな。あぁ、考え込むのは悪い癖だな。
「あ、マイの動画今日アップされるから見てよ。最初にしてはめっちゃ良いって言われたの」
抱きつくのをやめて、彼女は横に来た。中腰の状態で俺の肩に手を置く。後ろで抱きつくのと距離感は変わらないが、あの乳で押しつぶされるよりかはマシだ。ちなみに言っておくが、俺は童貞ではない。
よく手入れされた指先がパソコンの画面をなぞる。反射的に動画をクリックすると、ヨーチューブに飛んだ。そしてパフェミステリアスの自己紹介動画がこの部屋に流れる。
薄い紫の長髪に、オッドアイの目。パフェカラ特有のネコモチーフのコンパクトと猫耳ヘッドフォン。見れば見るほど、人気が出そうな見た目だ。
舞菜とは違い、少しクールに振舞っているのは企業からの指示だろうか。ふとコメント欄が気になって、スクロールすると女児特有のひらがなだけのコメントや長文オタク等、様々なタイプが居たが、大体は賞賛や褒め言葉だ。
出だしは好調のようで安心したが、企業側が作為的にコメントを選んでいる可能性があるのも否めない。最新順にしても褒め言葉しかないからだ。
「パフェミステリアス好き〜パフェミステリアスかわいい〜パフェミステリアスのグッズ買いたい〜はは、ファンが多いようで」
「コメント勝手に読まないで! 田外さん的にはさぁ、この四人の中で…誰が好き?」
パフェミステリアスの他にも王道色のパフェカラのメンバーがいるが、どいつもこいつも典型的なキャラクターばかりで味気ない。正直、あまり興味はない。
「あー…そりゃあパフェミステリアスだろ。他のメンバーはまだろくに調べてないし」
そう言うと満足気な顔で、ニヤニヤしている。肩に置いた手で揺さぶられた。
「まぁ、当たり前だよね」
「何だその自信は。子供みたいだな」
「もう子供じゃないですぅ〜バイト辞めてパフェカラからの給料で生計立てれるし?」
大企業から貰う給料はさぞかし高いだろうが、その分税金に持っていかれることを想像すると少し可哀想に思えた。しかし、天狗になっているのはダメだ。
「マウント取ってる時点で子供だな」
「なっ! そんなこっ…」
「この化粧品、明後日に届くらしいぞ」
「え! マジ!? 早すぎ大好き〜!」
次は正面から抱きつかれた。俺は座っているので、顔の位置が……まぁ、その、なんだ。柔らかい脂肪の上に乗った焼き菓子色のカーディガンに埋もれる。甘い飴のような匂いがするが、香水だろう。
本気でこの子の行動が心配になってきた。
俺以外の男に、こんな行動してると勘違いされる。それで俺の事が好きだと思い込んで告白して、玉砕した奴に一生恨まれるか、オタク御用達SNSで愚痴を殴り書きされるかの二択。いや、両方か。とにかく心配だ。
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