第20話 いきなりAランク探索者になりました
「ここがダンジョン協会の日本支部か……。近くで見ると大きいな」
俺は見上げるほど、大きいビルの前に立っていた。
ちなみに今は仮面とローブは脱いでる。
ビルの中に入るとスーツを着た人や装備を付けた探索者らしき人が大勢いた。
「おい!★4ダンジョンが他の国にも出現していないか調べろ!」
「★4の聖遺物だと?そんな情報どこから出てるんだ?」
「デルタとかいう配信者ってなんか胡散臭くないか?」
そんな会話が至る所で聞こえてきて、ビルの中の人達はなにやら忙しそうに作業していた。
「こんにちは!」
ビルの中にある受付の前まで行くと、しわのない制服を着ていて清潔感のある綺麗な女性が笑顔で挨拶してきた。
「あの~すみません。荒木さんっていう人に呼ばれてきたんですけど……」
「ええ!?し、支部長にですか?」
お姉さんは俺の言葉を聞いて、大きく目を見開いた。
きっとこんなどこにでもいる高校生が支部長に呼ばれるとは思ってもいなかったのだろう。
「まぁ、はい」
「しょ、少々お待ちください……」
お姉さんは内線で誰かと話し始める。
しばらくすると話し終わり、俺に『来客』と書かれた紐の付いた名札を渡してきた。
「お待たせいたしました。確認が取れましたのでこの名札を首に掛けて、あちらにありますエレベータに乗って最上階の42階までお上がりください」
「わかりました」
俺は首に名札をかけて、お姉さんに言われた通りエレベーターに乗って42と書かれたボタンを押す。
すると上から押さえつけられるような感覚があった。
『42階です』
しばらく乗っていると機械音声が聞こえて、扉が開く。
エレベーターを出て、辺りを見渡すと大きな扉が一つだけあった。
「ここかな?」
俺は扉を3回ノックする。
「はーい」
電話で聞いたことのある声が聞こえたので、部屋の中に入る。
部屋の中は大きな本棚が部屋中にあり、部屋の真ん中にある書斎机の前に一人の30代くらいの男性がニコニコしながら座っていた。
「やぁ、初めましてだね。ささ、こっちに来てくれ」
「ど、どうも」
床に本や資料が散らばっていたので、俺は踏まないように慎重に歩きながらその男性の元に向かう。
「どうぞ、座ってください」
「失礼します」
俺は椅子に座り、書斎机を挟んで向かい側に座る男性を見る。
その男性は黒髪の短髪で眼鏡をかけていて、優しそうな雰囲気だった。
「何か飲む?」
「いえ、結構です」
「そうですか……。では改めて、僕はダンジョン協会日本支部長の荒木健太と申します」
「初めまして、皆川悠真です」
椅子に座ったまま頭を下げると荒木さんも頭を下げた。
「実際に近くで見ると君があのデルタとは本当に信じられないね」
荒木さんは俺の様子を見て、苦笑いしながらそう言った。
「まあ、配信中は無理やりテンションを上げていますから」
「それもそうだが、強者が纏っている覇気?みたいなものが感じられないんですよね……」
「これでどうですか?」
少し殺気を飛ばすと、荒木さんは立ち上がって俺に向かって拳を構える。
荒木さんは顔を真っ青にさせて冷や汗を流し始めた。
やばっ!やりすぎた。
「すみません!冗談です」
俺は急いで殺気を止めて、両手を上げる。
「い、いえ……。でも今のでやはり君がデルタなんだと確信したよ」
荒木さんはハンカチで額の汗を拭き、椅子に座った。
「さて、それでは早速お話ししていきましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
すると荒木さんは10枚ほどの紙をクリップで留めた物を俺に向かって差し出す。
「一応これにまとめて書いておきましたが、大きく三つあります」
俺は資料を受け取り、目を通す。
「まず一つ目は我々ダンジョン協会は皆川さんに対して友好的な関係を構築していきたいと思っております」
まあそれは電話で聞いた通りだな。
「二つ目は皆川さんに対して特に強制は致しません。契約ではなくあくまで友好的な関係であるということです」
「それだと俺があなた達に対して嘘付くかもしれませんよ?」
「確かにそうですが、契約だと嫌がるでしょう?」
「まあそうですね……」
「ですのでなるべく協力して頂いたら嬉しいです」
「分かりました」
自分がだらだらと生活するためなら協力は惜しまないつもりだ。
「そして三つ目、皆川さんがデルタだという事はダンジョン協会の中でも僕が信頼している数人しか知りません。そしてこの事を他国にも言わないつもりです」
それはありがたい。
正直、それを盾に脅されると思っていたからな。
「それは願ってもいない事ですが、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「詳しくは話しませんが、皆川さんにはそこまでする価値があると判断したからです」
「そうですか……。正直に言うと、俺が配信を始めたのは周りの探索者が弱すぎるからです。このままではいつか来る★10ダンジョン攻略は絶対にできません。探索者達がはもっと職業やスキル、戦い方まで色々な知識を付ける必要があると思います」
「動画で言っていましたが、本当に★10ダンジョンなんて物があるのですか?いや★4ダンジョンも発生してしまった今、信じられない話でもありませんが……」
「確実にあります」
異世界で散々★10ダンジョンに行ってたからな。
嘘偽りなく真っ直ぐ見つめる俺を見て、荒木さんは口を開く。
「一体どこでそんな情報を……。いえ、余計な詮索はやめておきます。この先、我々が信用できると思ったら話していて頂けたら嬉しいです」
「はい、わかりました」
「あと正体がバレないように魔石を売っていませんよね?こちらを渡しておくのでよかったら使ってください」
すると荒木さんは金色の探索者カードを出してきた。
「っ!!これは……Aランクの探索者カード!?」
しかもその探索者カードには俺の顔写真や本名ではなく、仮面を付けた俺の写真とデルタという名前が書かれていた。
「はい、私の独断で『デルタ』という探索者を作り、Aランクにさせて頂きました。これを使えば正体がバレずに★2以上のダンジョンにも入れますよ。あと今まで通り皆川さんの探索者カードも所持して、二枚のカードを適材適所で使い分けてください」
マジか!正直これが一番ありがたい!
これなら怪しまれずに魔石も売れるし、ダンジョンにも入れる。
美味しい物がいっぱい食べられるし、もっと良い所住めるぞ!
「私から言う事はこのくらいですかね……。あと何かありますか?」
「ないです!全力で協力させていただきます!!」
俺は荒木さんの手を握り、目をキラキラさせながらそう言った。
「探索者カードを渡してから、なんか反応が良いね……」
ここまでしてくれる人が悪い人なわけない。
最初は疑っていたけどもう少し信用してもいいだろう。
決してお金の為ではない。
「あっ、そうだった!できれば電話で言っていたアレを見せて欲しいんだけど……」
「あ~聖遺物ですね」
俺はアイテムボックスから★4ダンジョンで拾った聖遺物を机の上に置いた。
「おお!!こ、これが聖遺物か!!確かに剣から魔力を感じるよ!」
荒木さんはまるで子供のように目をキラキラさせながら聖遺物を見る。
「す、すばらしい……こんなものがダンジョンからドロップするなん――」
「荒木さ~ん、今いいですか?」
するとドアの方から女性の声が聞こえた。
ドアの前には20代くらいでピンク色の髪の女性が立っていた。
「荒木さん~!聞こえてますか……ってこれは配信に映ってた聖遺物!?私にも見せてください!!」
その女性は床に散らばった本や資料を踏みながら、急いで部屋に入って来た。
「荒木さん!ずるいですよ!私にも見せてくださいよ~」
「佐々木ちゃん!君は後だ、僕が見てからにしてくれ!」
二人は聖遺物を目の前にして、口論し始める。
「俺、帰ってもいいか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます