第19話 世界初の聖遺物

肩で息をしているレッサーヴァンパイアに向かって剣を構える。


「ギャギャ!!」


レッサーヴァンパイアは俺に向かって飛び掛かってくる。

俺はそれをひらりと躱し、右足を切り飛ばす。


レッサーヴァンパイアはバランスが取れなくなり、地面にうつ伏せで倒れる。

さっきみたいに切れた足は戻らず、地面に転がったままだ。


「魔力がないので再生できないようですね」


・魔力を枯渇させれば有利に戦えそうだな

・でも魔力かなり多そうだったけどね


レッサーヴァンパイアはうつ伏せで、俺から逃げるように地面を這いずる。

俺はゆっくりレッサーヴァンパイアに近づいていく。


「これで終わりです」


俺は心臓に向かって剣を突き刺す。


「ギャァァァァ!!!」


レッサーヴァンパイアは大きな声で叫びながら、のたうち回っていたが、しばらくすると体が動かなくなった。

体から煙を上げて、溶けるように死体がなくなっていく。


「はい!これで★4ダンジョンの攻略終了です」


・世界初の★4ダンジョン攻略や!!

・デルタ強すぎ

・次のボーナス出たらスパチャ投げるわ


「一応ボスの魔石は持って帰りましょ……おっ!」


レッサーヴァンパイアの死体から出てきたのは魔石ではなく、赤色の刃の剣だった。


・えっ?剣?

・魔石じゃないじゃん!

・剣がドロップするなんて聞いたことないぞ


俺は剣を拾うと、半透明のパネルが出てきた。


血塗られたの赤剣ブラッディソード


吸血鬼系統の魔物に対して与ダメージ+20%


すごいな……。

名前だけじゃなく効果まで一目でわかるのか。

ますますゲームみたいになってきたな。



「これが今までの★3ダンジョンまでと大きく違うところです。★4ダンジョンからは低確率で『聖遺物』と呼ばれる武器や防具がドロップします」


・聖遺物?

・普通の武器と違うのか?


「このダンジョン由来の装備はまず耐久力が桁違いです。なのでこの剣で言えば、劣化もほとんどせず、硬い物を切っても刃こぼれは少なく、半永久的に使えます」


俺が異世界で使っていた装備は何から何まで全て聖遺物だった。

★4ダンジョンからの攻略は聖遺物は必須の装備と言えるだろう。


「そして何より重要なのは聖遺物には特殊効果というものがあります。ちなみにこの武器は吸血鬼系統の魔物に対して与えるダメージが少し上がるみたいですね。まあ簡単言えばこの武器を装備しているだけでスキルが発動するという事です」


・チート武器じゃん

・こんなの出回ったら鍛冶屋廃業するぞ

・それ欲しいので売ってください


「この武器はいらないのでその内売るかもしれないのでお楽しみに~」


・絶対欲しい

・1億までなら出します

・大富豪も配信見てるやん


俺は聖遺物をアイテムボックスに入れて、ダンジョンコアのある部屋に向かう。


「ダンジョンコアの管を切ってと……、ではいつも通りコアを持って帰りましょう!【転移】」


魔法を使うといつの間にか地上に立っていた。


「はい、帰ってきました――うわっ!」


★4ダンジョンの入り口にはマスコミや数多くの探索者がいた。


「あっ!帰って来たぞ!」


一人の男が俺に向かって指差すと、全員が俺の方を見た。


「デルタさんですか!?少しお時間いいですか?」


「デルタさん!世界初の★4ダンジョン攻略を達成した今のお気持ちを!」


「デルタさん、あなたは何者なんですか!?」


大勢の人達に囲まれた俺は、今の状況が理解できずに頭が真っ白になってしまう。


「あっ、えーっと……【飛行フライ】」


俺は飛び上がって、人混みの中を抜け出す。


「なんかすごい事になってるので、配信切りますね。良かったらチャンネル登録お願いします!それではさようなら~」


俺はドローンのスイッチを切って、アイテムボックスに入れた。


「デルタさん!降りてきてください!」


「ぜひ、お話を聞かせて下さい!」


「聖遺物とはなんですか?何故あなたはそんな事を知っているのですか?」


真下から大勢のマスコミ達の質問を聞いて、ため息を吐く。


「めんどくさいし、逃げよう」


俺は飛ぶスピードを上げて、適当に移動する。


「あっ!待ってください!」


「デルタさん!!」


マスコミを無視して、距離を取っていく。


「適当に人目の付かないところにでも降りるか……」


そんなことを考えていると、電話がかかっていた。


「はい」


『いや~どうもどうも。ダンジョン協会の荒木です』


「あっ、こんにちは」


電話の主は俺に★4ダンジョン攻略の許可をくれた荒木さんだった。


『まずは世界初の★4ダンジョン攻略お疲れさまでした。私も思わず配信を見入ってしまいましたよ。これで他国からも日本に対する探索者の見方も少し変わってくるでしょうし』


荒木さんは電話越しに嬉しそうな声でそう言った。


「そんなことよりあのマスコミは何なんですか!?いきなり囲まれてめちゃくちゃ質問されたんですけど!?」


『★4ダンジョンをそんなことより扱いですか……』


「まあ、★4ダンジョンくらいなら何てことないので」


『おお~、それは心強い』


異世界で毎日★9、10ダンジョンに一人で行ってた俺からしたら★4なんて片手間でできる。

マスコミに囲まれたのは初めての経験だ。びっくりしすぎて、心臓が止まりそうだった。


『きっと配信していた皆川さんは知らなかったのでしょうね……。その件もまた後でお話致します」


「そうですか……、どうして俺に電話を?」


『いや、ダンジョンに行く前に言った事をもう少し詳しく話したくてね」


「ああ~、あのお互い協力するとかなんとかって話ですか?」


『そうです。こういう話は出来れば早くした方がいいと思いましてね。ですので今からダンジョン協会の日本支部に来れます?』


確かにそういう事はなるべく早く話しておきたい。

ダンジョン協会も俺との協力にかなり前向きみたいだな。


ダンジョン協会の日本支部も東京にあったはずだ。

それなら帰る前に少し寄って行こう。


「分かりました」


『ありがとうございます、ではお待ちしております。あっ!』


「ん?どうかしましたか?」


『★4で手に入れたダンジョンコアと配信で言っていた聖遺物って持って来れます?』


「はい。持っていきますよ」


『本当ですか!?ぜひ見せて頂きたいので、絶対に持ってくださいね!!ではっ』


荒木さんは熱のこもった声でそう言うと、電話を切った。


「……。本当はそっちが目的だろ」


俺はそう呟き、飛びながらダンジョン協会に向かった。

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