第18話 ★4ボス レッサーヴァンパイア

 レッサーヴァンパイアはグラスに入った赤い液体を一口飲むとグラスを目の高さまで持ってきて、中の液体を回すように手首をひねる。


 きっとあの液体の正体は動物の血だろう。


「吸血鬼とヴァンパイアは同じようで違います」


 ・服装以外ほぼ一緒なんだが

 ・でもこいつの方が賢そう


「吸血鬼はヴァンパイアの眷属で、基本的には能力も知能も低いです。それに比べてヴァンパイアは真祖ヴァンパイアの力の一部を使える為、身体能力も知能も高いです」


 ・身体能力?ステータスが高いってこと?

 ・鑑定スキルでレッサーヴァンパイアのステータス見てみたいな


「か、鑑定スキル!?そんなものあるのか……」


 ・鑑定スキル知らないとかwww

 ・ダンジョンの事詳しいのに何でそれは知らないんだよ


 異世界では鑑定スキルなんて便利なものはなかった。

 きっとステータスというシステム?ありきのスキルなのだろう。

 帰って調べてみるか、出来れば習得したいし。


「ごほんっ。それは一旦置いといて……。吸血鬼とヴァンパイアをしっかり見分けないと、『吸血鬼だと思って油断したら実はヴァンパイアでパーティ全滅!』という事もあり得るので注意して下さい」


 ・デルタ先生!どうやって見分けたらいいですか?


 デルタ先生……、良い響きじゃないか!!


 俺は先生と呼ばれて、思わず唇の端を吊り上げた。


「一番わかりやすいのは……」


 レッサーヴァンパイアはグラスに入った血をまくように降る。

 すると血が空中にぷかぷかと浮かび、それが一つの玉になった。


 レッサーヴァンパイアが手を前に出すと、その血が手の前までゆっくり移動して剣の形状に変化する。


「ギャ……」


 レッサーヴァンパイアは剣を握り、俺に向かって構える。


「このようにヴァンパイアは血を操るスキルを持っています。吸血鬼は、このスキルを持っていませんのでこれを使ってきたらヴァンパイア確定です。それではあいつもやる気みたいなので、戦闘開始ですね」


 俺は剣を構え、レッサーヴァンパイアの様子を伺う。


「ギャァ!」


 レッサーヴァンパイアは声を上げて、斬りかかってくる。

 俺はそれを剣で受け止めると、レッサーヴァンパイアはニヤリと笑う。


 するとレッサーヴァンパイアの赤い剣の真ん中が伸び、鞭のようにしなる。

 伸びた剣は俺の首元を突き刺しにくるが、俺は素早く後ろに下がって躱す。


「今の技は初見殺しです。剣で受け止めたと思ったら、伸びた剣に後ろから刺されて死んだという話を何度も聞いたことがあります。皆さんも気を付けてください」


 ・あの赤い剣は変幻自在なのか……

 ・俺だったら今ので死んでた

 ・新種の魔物なのにどこでそんな話聞いたんだよwww


 俺は素早く距離を詰め、レッサーヴァンパイアの右腕を切り飛ばす。


「!?」


 足元に落ちた自分の腕を見て、レッサーヴァンパイアは大きく目を見開く。


 ・相変わらず速すぎ

 ・配信巻き戻しても動きが見えなかったわ

 ・もっと高いドローンに変えろ


 しかし、レッサーヴァンパイアの腕の切り口から血が糸のように伸び、切り落とされた腕の切り口に向かう

 切り落とされた腕はその血に引っ張り上げられ、体とくっつくいた。


「このように吸血鬼と同じでヴァンパイアを倒すためには、基本的には頭を切り飛ばすか、心臓を潰すしかありません」


 アンデッド系の魔物は非常に厄介だ。

 それぞれ特定の倒し方があり、まずその倒し方を見つけなければこっちの体力を消耗させられるだけだ。


「ギャギャギャ!!」


 腕を切られたレッサーヴァンパイアは怒ったのか、声を上げる。

 すると自分の腹に剣を突き刺した。


 ・は?魔物が自殺した!?

 ・こいつ自滅してない?

 ・デルタ様さすがです!


「いや、俺は何もやってないし、これは単なる自傷行為ではありません」


 レッサーヴァンパイアの腹から大量の血が出てきて、その血が空中に浮かんでいた。

 しばらくすると、腹に刺さった剣を引き抜いた。


 上を見上げるとボス部屋の天井の半分を占めるほどの血が空中にとどまっていた。


「さて、大技がきますのでよく見ておいてください」


 大量の血が小さく分離して、無数の細長い棘の形状に変化した。


「この棘は一見弱そうに見えますが、一つ一つが鉄のように固いので、中途半端なスキルや魔法で防御してもすぐに貫通してしまうので要注意です」


 ・こんなの避けられねえよ!

 ・これが★4ボスの大技……

 ・これが降ってきたら確実に死ぬ奴じゃん


「と言われてもよくわからないと思うので、習得難易度が簡単な魔法をいくつ使ったらあの攻撃を止められるのか実験してみようと思います。その方が勉強になると思いますので!」


 ・は?

 ・遊びじゃねえんだぞ!?

 ・デルタ、頭おかしい……



石の壁ストーンウォール


 俺が魔法を唱えると、俺をドーム状に取り囲うように20個の石の壁が地面から出現した。


「はい!というわけで、20個重ねた石の壁をどこまで貫通してくるか検証してみましょう!」


 ・こいつやばすぎる……

 ・魔法を一瞬で20回唱えたのか!?

 ・デルタって職業魔法使い系なの?


 ちなみに俺は【詠唱破棄】というスキルを持っているので、10回だろうが100回だろうが一瞬で詠唱できます。


 ドドドドドドッ!!


 すると外から棘が地面に突き刺さる音が聞こえた。

 石の壁が俺の周りを上から下まで囲ってるので、その様子は全く見えない。


「攻撃が始まったみたいですね!」


 ・何で楽しそうにしてるんだよ

 ・でもちょっと気になる

 ・デルタは頭おかしいけど勉強になる


 しばらくすると音が静かになった。

 俺が見えている石の壁は綺麗なままだった。


「さすがに20個の石の壁は貫通できなかったみたいですね。さあ、結果発表です」


 俺は石の壁を殴って、壁の中を進んでいく。

 すると棘が突き刺さっていた石の壁を見つける


「おっ!ここは……13個目ですね!なかなかの威力でしたね」


 ・13個も貫通してくんのかよ……

 ・威力やばいな……

 ・鳥肌立ったわ


 俺が石の壁から外に出ると、肩で息をしていたレッサーヴァンパイアと目が合った。


「さっきの技でほとんどの魔力を使い切ったみたいですね。ここまで追い込めればあとは倒すだけですね」



 ・なるほど、一回耐えればチャンスはあるのか

 ・あんな技何回も撃てるわけねえだろw

 ・★4ボスもデルタの手に掛かれば楽勝だったな


「あっ!ちなみにもっと★が多いダンジョンに出てくる吸血鬼はこの100倍の規模の技を連発してくるので、今の内に対処できるようになっておきましょう」


 ・……

 ・俺、探索者辞めるわ

 ・人類オワタ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る