第15話 もう勇者と呼ぶのは勘弁してくれ

結局、昨日家についたのは深夜だった。

家についた後はシャワーだけ浴びて、そのまま寝てしまった。


「ふぁ~、眠っ」


俺は口を大きく開けて欠伸しながら、学校までの道を歩いていく。

学校の近くまで来ると、ちらほらと俺と同じ学校の制服を着た人がいた。


「ねぇ、昨日の配信見た?」


「凄かったよね!」


歩いてる生徒たちはみんなダンジョン配信の話ばかりしていた。


「やっぱりダンジョン配信は人気だな。まぁ俺は弱小配信者だから話題に上がることはないと思うけど」


そう呟き、大きなため息を吐いた。


俺は教室に入ると、氷室さんが大勢の生徒に囲まれていた。

そんな様子を横目で見ながら自分の席に座る。


「氷室さん、昨日配信見てたよ!大丈夫だった!?」


「ちくしょう!俺も配信見ていたらすぐ駆け付けたのに……」


突然変異イレギュラーってやっぱり強いの?」


四方八方から質問された氷室さんは困惑しながらも一つ一つ丁寧に答えていた。


「ええ。強いなんてものじゃないわ。何度も死を覚悟したわね」


やっぱり氷室さんって人気配信者なんだな~。

俺も昨日氷室さんの配信にちょっと映っちゃったんだよね。


正体をばらすわけにはいかないので、本当は自慢したいという気持ちをぐっと抑えながらニヤニヤと笑っていた。


「それよりも……今日氷室さんに一番聞きたいことがあったんだ!」


「あっ!俺も俺も」


一番聞きたいこと?何の事だろう。


俺はクラスメイト達の会話に聞き耳を立てる。


「あの人の事よね?」


氷室さんが待ってましたと言わんばかりに唇の端を吊り上げる。

するとクラスメイト達と氷室さんが同時にある人の名前を同時に言った。


「「「デルタ!!」」


「ブーーーーー!!ごほっ……ごほっ」


まさかの俺の事だったわ。


予想できない出来事に俺は思わず吹き出してしまう。


「デルタって何者なの!?」


「マジ強すぎだろ!突然変異イレギュラーを軽々と倒してたもんな!」


「もしかしたら日本初の『勇者』に選ばれるかもな!」


異世界で五年間勇者やってたんだ。もう『勇者』と呼ばれるのはこりごりだな、めんどくさいし。


『勇者』

この世界でそう言われるのはダンジョン協会が認めた最高の探索者に送られる地位だ。この地位につくことができるのは10人と決まっていて、世界中の探索者の中から選ばれる。


「デルタはその内、勇者に選ばれると思うわ。あの戦いを近くで見た私が言うのだから間違いないわ」


氷室さんは胸を張り、自信たっぷりにそう言った。


「日本には突出した探索者がいなかったからね……もしデルタが勇者になってくれたら嬉しいね!」


「本当!?日本から勇者が生まれるなんて最高じゃん!」


最高じゃねえよ!もう前線で戦うのは懲り懲りだ。


「そんな凄いやつなのかよ!俺、今の内にチャンネル登録しとこ!」


「私も!」


そう言うとクラスメイト達は次々と『デルタのダンジョン教室』をチャンネル登録し始めた。


俺はスマホで自分のチャンネルを確認する。


「えっ!!」


スマホに表示された数字を見て、思わず立ち上がって大きな声を出してしまう。


チャンネル登録者数110869人。


昨日の配信の再生回数は100万回を超えていた。


「う、嘘だろ……。バズってる!」


よし!これで俺の自堕落ライフに一歩近づいたぞ!


俺は拳を握り、ガッツポーズする。


「み、皆川の奴急に大声だしてどうしたんだ?」


「さぁ?頭おかしくなったんじゃね?」


それを見たクラスメイト達が若干引いていた。


「ちょっとどいて」


氷室さんは立ち上がって、クラスメイト達をかき分けて俺の方に向かってくる。


「皆川君、なんだか嬉しそうね」


「えっ!ま、まぁね……」


氷室さんが俺の顔をじっと見つめてくる。


「皆川君はデルタって知ってる?」


ギクッ!

な、何とか誤魔化さないと……。


「で、でるた?何それ……新作のデザートか何か?」


「ぷっ……違うわよ!」


あっ、笑った。


氷室さんは一瞬噴き出した後に、顔を真っ赤にして怒った。


「デルタ知らないの?世界で初めて突然変異イレギュラーを倒した男よ。まあそれ以外にも色々あるけど」


「そ、そうなんだ。帰ったら調べてみるよ」


俺は何とか笑顔を作ってそう言った。


「……。やっぱり皆川君って前と全然違うわね。なんかまるで別人みたい」


「そんなわけないだろ。俺は間違いなくいじめられっ子の皆川悠馬だよ」


「全ての言葉になんていうか自信?があるのよね……。前も教室で片桐君も威圧してたし」


「威圧してないよ!たまたまあの時は我慢できなくて……」


「あの時の皆川君の雰囲気は私も少し怖くて、思わず魔法を使ってしまったわ。本当はもの凄く強かったりする?」


す、するどい!

名探偵かよこの子!


「俺なんてどこにでもいるただのFランクだよ!」


「私、昨日デルタって言う配信者に助けられたのよ。物凄く強くて、思わず見惚れてしまったわ!」


「へ、へぇ~」


「それに声は違うけど、喋り方とか雰囲気がデルタと少し似てるのよね……」


『デルタスロウの仮面』には声質に対する認識を阻害させる効果があるが喋り方までは変えられない。


「ぐ、偶然だよ。偶然!」


「……、それもそうね。よかったら皆川君もデルタの配信見て欲しいわ。探索者として勉強になることも多いわよ」


「う、うん。気が向いたら見てみるよ」


それだけ言うと氷室さんは自分の席に戻っていった。

このままだったら正体がバレるのも時間の問題だな。



俺は家に帰って、現在のダンジョン数をニュースサイトで調べる。


「おっ!832個か……ちょっと減ってるな」


こっちの世界に戻ってきた時と比べると30個ほど減っていた。


「ん?★1ダンジョンブーム?」


そのニュースサイトの記事で少し気になる記事があったので、読んでみる。


『とある配信者が発信した、ダンジョンコアを魔石に変える方法を使って★1ダンジョンでも稼げる探索者が増えました。その影響で日本中の★1ダンジョンが急激に減ってきています。★1ダンジョンに行くなら急げ!!』


「これって俺の配信のことか?」


十中八九、俺の配信の影響だろう。


よしよし……順調順調。


そんな風に思っていると、突然地面が揺れ始めた。


「っ!!じ、地震か!?」


俺は隠れる所を探そうかと思い、急いで立ち上がったがすぐに揺れは収まった。


「この揺れは……まさか!」


俺はすぐに部屋のカーテンを開け、外を確認する。


自分が住んでるアパートから東に一キロくらいの所に、地面を突き破るように下から大きな城が出てきていた。


「この大きさはもしかして……」


【千里眼】


俺はスキルを発動し、目を閉じるとダンジョンの入口付近の景色が見えた。


「ついに来たか……★4ダンジョン!」


城の様な形をしたダンジョンの入口には★が4つ描かれていた。


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