第14話 最近話題の配信者 sideダンジョン協会

 ここは『ダンジョン協会』と呼ばれる組織の日本支部。

 そこの最上階のある部屋である男が頭を抱えながら、資料を睨んでいた。


「荒木さ~ん、いますか?」


 ピンク色の髪を後ろで縛った女性がドアからひょっこりと顔を覗かせる。


「ああ、いるよ」


「失礼しま~……って、なんでこんなに部屋が散らかってるんですか!?」


 部屋中には書類や本が足の踏み場もないほど散らばっていた。

 荒木と呼ばれた男は、机に置いてあるコーヒーを一口飲む。


「ああ、最近忙しくてな。部屋を片付ける時間もないんだ」


 荒木は目の下には隈があり、無理やり笑顔を作りながらそう言った。


「それで、急にどうしたんだ?佐々木ちゃん」


「アレの件ですよ!ア、レ!」


 目をキラキラさせながらそう言った佐々木はまるでおもちゃを見つけた子供の様だ。


「はぁ~またその件か……。そのせいで毎日電話は鳴りっぱなしだ」


 こうして話している間にも電話の音が部屋中に響いていた。


「ですよね~、ご苦労様です!でもどうしてダンジョン協会はあれほど強い探索者を知らなかったのでしょうか?」


「さぁね。でも例の探索者が言っていた情報を元にダンジョンについて書かれている資料を見てみたけど、そのような情報は一切書かれていなかったよ」


 荒木は両手を上げて、大きくため息をした。


 ★3以上がある、職業は進化する等の情報はどこの資料にも書いていなかった。

 普通は信じないような情報だが、その男がやった功績を見ると荒木はもしかしたら本当なのでは?という気持ちにさせられる。


「でも一般人が見られない機密情報とかにはもしかしたら書いてあるかもしれませんね?」


「それも全部見たよ。でもダンジョンコアを持ち帰ると魔石に変わるなんて情報どこにも書いてなかったよ」


 彼はその情報をどこから手に入れたのか。

 しかも彼の配信を見てみたが、明らかにコアを持ち帰る事に慣れていた。

 きっと過去に何度もあのような事をしていたのだろう。


「あの配信の影響なのか、今週に入ってもうすでに★1ダンジョンが7個崩壊しています」


「本当か!?それはいい事だな。僕も誰も行きたがらない★1ダンジョンの処理は困っていたんだ」


 ★1ダンジョンはあまり稼げないので高ランクの探索者はあまり行きたがらない。

 しかし、このやり方を使えば稼げると分かった探索者がこぞって★1ダンジョンを攻略しているのだろう。


「ええ。低ランクの探索者が★3でドロップする大きさの魔石を持ってきた事案がいくつかあるみたいですし、ダンジョンの数も減ってきています」


「最近は増える一方だったからな……。少し安心したよ」


 荒木はそう言って、口角を上げた。


「でも日本で一番偉いダンジョン協会の会長でも知らない情報を知っているなんて……さすが『デルタ様』です!」


「何がデルタ様だよ、全く……」


 荒木は目を細め、佐々木を見る。


「私デルタ様の配信を見てからすっかりファンになっちゃって~!あんな強い人見たことないですよ!」


 佐々木は両手を組んで、うんうんと頷く。


「まあダンジョンコアの件もあれだが、一番の問題はもう一つの方だね」


突然変異イレギュラーの件ですよね?」


 佐々木の言葉を聞いて、荒木は首を縦に振る。


 突然変異イレギュラーは倒せない。

 彼は200年掛けて作られた常識をたった一本の配信で覆した。

 しかも突然変異イレギュラーを誰も知らないスキルを使い、圧倒的な力で倒して見せた。


「ああ、世界中のダンジョン協会から問い合わせの電話が毎分かかってくるよ。あいつらも暇だよね~」


 ダンジョンのある国には必ずダンジョン協会がある。

 突然変異イレギュラーの魔石を手に入れられれば、他国に対して優位な立場を取れる。

 あの魔石にはそれほど世界中が注目しているのだ。


「ところで突然変異イレギュラーの魔石はどうするんですか?」


「もちろん回収するよ。情報によると『蒼氷そうひょう戦姫団せんきだん』のリーダーが持っているらしい」


「了解です!では私が交渉してきますね!いくらまで出しますか?」


「そうだな……、100億までなら出せるから上手く交渉してきてくれ」


「ひゃ、100億ですか!?」


「むしろ安い方だ。世界で一つしかない突然変異イレギュラーの魔石なんだから」


 魔石の使い道は様々だ。

 魔石に含まれるエネルギーは発電にも使えるし、装備を作ることもできる。

 これらは使い道のほんの一部で、魔石が実際に使われている所は無数にある。


「そうですよね……。了解しました」


 佐々木はビシッと慣れた動きで敬礼すると振り返って、ドアに向かって歩き出す。


「あっ!それともう一つ、デルタとかいう男の正体は分かったか?」


 佐々木は足を止め、荒木の方を向く。


「いえ、まだ分かっていません。でもある程度は絞れているみたいです」


「なるほど……、時間かかりそうか?」


 荒木はそう言い、コーヒーを飲む。


「どうでしょう?でも何人かいる候補の中で一番可能性が高い人がまだ高校生なんですよ」


 佐々木は斜め上を見ながら、頬に人差し指を当てながらそう言った。


「ブーーーーッ!!」


 それを聞いた荒木は、口からコーヒーを噴き出す。


「ごほっ、ごほ。こ、高校生!?」


「そうなんですよ!ありえます?」


 荒木は顎に手を当てて、話を聞く。


「しかもその子はまだ探索者登録して二年のFランクなんですよ。もしデルタ様が本当にその子はならどうやって★3ダンジョンには入ったんですかね?」


「なるほど……」


「だからその子は違うとは思いますけど、他の候補は――」


「いや、佐々木ちゃん。今度その子をここに呼んでくれ」


 それを聞いた佐々木は目を大きく見開く。


「えぇーーー!!でもその子じゃないと思いますよ?」


「いや、何となくだがその子がデルタのような気がする」


「何を根拠にそんなこと言うんですか!?」


 荒木は人差し指で自分のこめかみをツンツンと二回触る。


「勘だよ」


「はぁ~それを理由に呼ばれるこの子が可哀そうです」


「こう見えても探索者をやっていた時から勘だけはいいんだ」


「そうですか……ではそのように伝えておきます」


「ああ、よろしく頼むよ」


 佐々木は頭を下げ、部屋から出て行った。


く言う僕も、君がこれから一体どんな配信をしていくのか興味津々だ」


 そう呟いた荒木はコーヒーを一口飲み、ふぅと小さく息を吐いた。


「デルタ……。君が我々の救世主たる人物かどうか見させてもらうよ」




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