第6話 勇者という名の人殺し ※ざまぁ回

俺が目を閉じると、異世界に行く前に片桐からされた数々のいじめが脳裏によぎる。


『おい!クソ川、目障りなんだよ。死ねよ』


『ご、ごめん。片桐君……』


ある時は理由もなく片桐に背中を蹴られた。


『新しいスキル覚えたからよぉ、お前で実験させてくれや』


『い、痛いよ!や、やめてください!お願いします……」


『おい、この事を先公せんこうにチクるんじゃねえぞ。まあこいつが回復させるかた証拠もなくなるけどな』


ある時は抵抗できない俺を一方的に半殺しにした。


『あ……あぁ……』


『おい見ろよ!ちょっと睨んだだけでこいつ小便漏らしやがったぜぇ!』


ある時は意味もなく威圧し、クラスのみんなの前で恥をかかせられた。


あの時の俺は片桐が怖くてしょうがなかった。

学校に行くのが嫌で、毎晩泣いていた。

やり返したくても俺には職業ない、あるのは役に立たないクソスキルのみ。


「覚悟はできたか?クソ川ぁ」


俺は目を開けて、片桐とその取り巻きを真っ直ぐ見る。


でも今は違う、俺はこいつらよりも圧倒的に強い。

こいつらを目の前にしても全く怖くない、異世界で戦ってきた魔物の方が何倍も怖かった。

むしろ今までの仕返しができると思い、気分が高揚している。


その時、後ろにいた男が俺の頭に向かって火の球を打つ映像が見えた。


「よし、出来たぞ!まずは俺からだ【火球ファイアボール】」


後ろから飛んできた火の玉を俺は振り返らずに首を傾けて、最小限の動きで躱す。

火の玉はそのまま俺を通りすぎて建物に当たり、壁が黒く焦げた。


「女神様からもらった【未来予知】の効果か。便利だな」


「う、嘘だろ……。俺の魔法を見ずに躱して……」


「ま、まぐれだ!他の奴もさっさと攻撃しろ!」


「くそっ!おらぁ!」


目の前の男が剣を振りかぶり、真下に向かって振り下ろす。


「は?き、消えた!?」


しかし男の攻撃は空を切り、俺がさっきまで立っていた場所には誰もいない。


「ど、どこに行きやがった!?」


さすがの片桐も今の動きを見て、偶然とは思わなかったようだ。

先ほどとは違い、額には汗をかき、その表情には焦りが見える。


「まずは一人目」


俺は先ほど【火球ファイアボール】を打った男の後ろにすばやく移動し、首に向けて横一線に剣を振った。


「え?」


男が小さな声を出した瞬間、頭が男を立てて地面に落ち、首から噴水のように真っ赤な血が噴き出した。

男の体は人形の糸が切れたように、地面にだらりと倒れた。


「ひぃぃ!」


「し、死んでる……」


「こいつ……躊躇なく人を殺しやがった!」


男の死体を見て、取り巻きたちが顔を真っ青にして後ずさる。


「片桐!どう見てもこいつ強いじゃねえか!てめぇ、騙しやがったな!!」


体の大きい取り巻きが片桐に向かって吠える。


「ク、クソッ!」


片桐が歯を食いしばり、か細い声でそう言った。


「お、俺は降りるぞ!こんな奴相手にしてたまるか!」


「お、俺も!」


取り巻き達が片桐を置いて、路地裏から唯一の出口に向かって走っていく。


土壁アースウォール


その出口のコンクリートを壊しながら土が隆起し、一枚の大きな壁を作った。


「な、なんだよ!この壁!」


「早く壁を壊せ!」


「この壁硬いぞ!」


取り巻きは土の壁を切るもその壁は傷一つ付かない。

魔力をたんまり込めたからな、その程度の攻撃ではびくともしない。


「全員ここから逃がさん。一人残らず殺してやる」


殺気を飛ばすと、取り巻き達は震えだし、武器を落として尻餅を付いた奴もいた。

俺は剣を持って、ゆっくり歩いて行く。


「ひぃぃ!」


「た、助けてくれ!」


「お、俺達はその男に騙されただけなんだ!」


取り巻き達は次々と武器を落として、俺にそう言ってくる。


「ダメだ」


俺は一番手前にいた男の腹に剣を突き刺す。

男の腹から血が噴き出し、俺の服や顔を赤く染める。


「恨むなら俺ではなく、片桐を恨むんだな」


俺はそう言って一人、二人と次々に取り巻きを斬っていく。


「な、何だよこれ……。どうなってんだよ!」


後ろでその様子を見ていた片桐が呟いた。

俺は顔を少し横に向け、横目で片桐を見る。


「少し待ってろ。お前は最後に殺してやる」


俺はそう言って、取り巻きを殺していく。


「ぎゃああああ!!」


「う、腕がぁぁ!」


「嫌だぁぁ!死ぬたくない!!」


そんな叫びを聞いた片桐は、大剣を落として両手で頭を抱える。


「ち、違う……。俺のせいじゃない!!だってこいつは……」


「よぉ、こっちは終わったぞ」


片桐は顔を上げ、地面に転がっている取り巻き達の死体を見る。


「あとはお前だけだ。待たせて悪かったな」


俺は振り返り、片桐に向かって歩き出す。


「ひぃぃ……」


片桐は顔を真っ青にして、震えながら俺から逃げるように後ずさる。


「お前こそ覚悟は出来てるんだろうな?特別になぶり殺しにしてやる」


「こ、こんなの俺が知ってるクソ川じゃねえ!お前は誰だ!?」


「俺は間違いなく、お前がよく知ってる無職でクソスキルしか持ってなかったクソ川だよ」


「だったら何でこんな事が――っ!!」


片桐は話しながら少しずつ下がっていくが、やがて壁にぶつかりこれ以上俺から離れられなくなった。

片桐はその場に四つん這いになり、俺を見上げる。


「お、俺はこれからAランク探索者に成り上がって、家族を見返さねぇといけないんだ!これからはもうお前に関わらないようにするし、学校も転校する!だから……こ、殺さないでくれ。頼む!」


「ダメだ」


「えっ?」


「昔、そうやって命乞いをした男がいた。その時の俺は人なんか殺せなかったし、そいつを見逃したんだ。更生したと信じてな」


片桐はごくりと生唾を飲む。


「でもその男は後から復讐するために俺の仲間を強姦ごうかんして、最後には笑いながら仲間の体を切り刻んで殺した。俺は怒りに身を任せて無我夢中でその男を探し、そして殺した」


バキッ


俺は異世界にいた時を思い出し、思わず剣を強く握ると剣の柄にひびが入った。


「俺は初めて人を殺したのに何も思わなかった。ただ残ったのは、あの時なぜ殺さなかったんだという自責の念と仲間がいなくなった悲しみ……。その時思ったんだ」


俺は上を見上げ、ふぅと大きく息を吐く。


「……」


そして殺すという強い意志を込めた目で片桐を睨みつける。


「俺に敵意を向けたやつは絶対に逃がさず、一人残らず殺してやるってな」


俺は片桐の右腕を切り落とす。


「うがぁぁぁ!!う、腕がぁぁぁ!」


片桐は泣きながら右腕の断面を押さえる。


「『勇者』っていうのは、正義のヒーローではない……」


次は片桐の左足に剣を突き刺す。


「暗殺、殺人、魔物退治。普通なら精神が壊れるような命のやり取りを強い勇気を持って戦うから『勇者』と言われるんだ」


「あぁぁぁぁぁ!!!い、痛い痛い痛いぃぃ!!」


俺は剣を大きく振りかぶる。


「や、やめろぉぉぉぉぉ!!」


「つまり俺は『勇者』と言われただけの『人殺し』だ」


剣が片桐に向かって、無慈悲に振り下ろされた。




――—―———————

【あとがき】


読者様の反応は必ず目を通しております。

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