第5話 3000円は大金だろ!
異世界に行く前、一日にダンジョンで稼いだ最高金額は500円だった。
しかし今日、ダンジョンの中で手に入れた魔石を換金すると3000円になった。
身内もいないので、最低限の生活をしていた俺にとっては大金だった。
「めっちゃ稼げたぞ!今日はご馳走だ!」
それを握りしめ、電車に乗って住んでいる東京に戻る。
東京に着いたとき時にはすっかり夜になっていた。
本当はボスの魔石も換金したかったが、換金してしまうと俺がダンジョンコアを破壊した犯人だとバレてしまうのでアイテムボックスに入れたままだ。
「家に帰る前にダンジョンに関する本でも買うか」
俺は帰り道にある本屋によって、【猿でもわかる!ダンジョンの基本】という本を買う。
本を持って、本屋を出る。
本屋のすぐ横に牛丼屋があり、そこから出るいい匂いが鼻を刺激する。
「じゅる……牛丼か。しばらく食べてないな」
俺は今日の稼ぎから、本を買って残った2000円を見る。
「今日は大盛りいっちゃうか!」
鼻歌を歌いながら、牛丼屋に入って大盛りの牛丼を注文し、お金を払う。
「お待たせいたしました。牛丼の大盛りです」
席に座り、しばらく待っていると店員さんが牛丼を持ってきた。
な、なんて美味そうな食べ物なんだ!!
俺は5年ぶり、いや最後に食べたのはもっと前かもしれない牛丼を見る。
目をキラキラさせながら見ているだけで涎が止まらない。
「い、いただきます!」
一口食べたと思ったら、そのまま手が止まらず一瞬で食べ切ってしまった。
俺は先ほど買った本を取り出し、封を切る。
本を開いて、パラパラとページをめくる。
「なるほどな。やはり転移前と少し違うところがあるみたいだ」
具体的に違う所は
・ダンジョンは不定期で出現し、その数が1000を超えると地球が滅びる。
・半透明のパネルはダンジョンの中だけ出てきて、敵を倒した時の通知や自分のステータスを見れる。
・一定数経験値を貯めるとレベルが上がり、能力やスキルが増える。
・【
・ダンジョンの★は1~3までしか発見されていない。
主にこの四つだ。
「なんかRPGゲームみたいになってるな。それに★3までしかないか……。異世界ではダンジョンを崩壊させていくたびに★が増えていった。これから★3よりも難易度が高いダンジョンが出現すると見ていいだろう」
異世界では人類はダンジョンと共に発展したという文献が残っていたので相当古くからダンジョンがあったと思う。
この世界ではまだ200年だ。探索者がまだ弱いのも、★3までしかないのもそれが理由だろう。
「一番厄介なのが、1000を超えたら地球が滅びるというやつだな。やっぱり俺がだらだらと過ごすにはダンジョンの攻略法を発信して早くみんなに強くなってもらうしかなさそうだ」
出来るだけ他の探索者に頑張ってもらって、どうしても無理そうなところは手助けする感じでいいだろう。
「そうと決まればまず配信機材をそろえないとな」
俺はスマホで配信用ドローンを調べてみる。
「に、二十万!?」
どれも高い物ばかりで最低でも二十万はするみたいだ。
一番高い奴だと一千万円のドローンもあった。
「食費を切りつめても二十万は無理だ……、こうなったら★3のダンジョンに行って稼ぐしかないか」
低ランクの探索者は★3のダンジョンには行けないので、まずランクを上げる必要がある。
「じゃあまずはランク上げからだな!」
美味しい物を食べ、方針が決まったことで気合が入る。
俺は立ち上がり、店を出るとガラの悪そうな男に話しかけられた。
「あの~すいません!」
「え?」
「た、助けてください!追われてるんです!」
ガラの悪そうな男は焦った様子で俺の袖を引っ張る。
「一緒に来てください!お願いします!」
「い、いや!ちょっと!」
そのまま男に引っ張られ、路地裏まで連れていかれる。
「ここどこなんですか?それに追われてるって……」
するとガラの悪そうな男は不気味な笑みを浮かべた。
「お~い!連れて来たぞ!!」
男が叫ぶと、後ろからぞろぞろと武器を持った男が10人くらい歩いてきた。
その男達を掻き分けながら、見覚えのある男が俺の前まで歩いてくる。
「よぉ~、ゴミ川。会いたかったぜぇ」
「片桐……」
背中に大剣を背負った片桐が笑いながら、俺を見下ろす。
「学校ではどうやって俺達から逃げたのかは知らねえが、次からは逃げられると思うなよ」
片桐がそう言うと、取り巻きの10人が俺を中心に円を描くように囲んだ。
「ひひひっ、片桐さん。最近新しいスキル使えるようになったんすよ、こいつで試してもいいっすか?」
「俺も一度でいいから人間にスキル使って攻撃してみたいと思ってたんだよな~」
「俺が魔法で回復させられるから、瀕死になるまで攻撃してもいいぞ!」
取り巻きはニヤニヤと笑いながら次々と片桐に声を掛けていた。
「こいつはモルモットだ、好きにしろ。それにここなら誰も助けには来ねえ。俺を氷室の前で恥をかかせた罰だ。今から俺達のサンドバックになってもらうぜ」
「サンドバックねぇ……」
俺はアイテムボックスから鉄のロングソードを取り出す。
「なんだよ、その魔法は……。クソ川のくせにいつの間に魔法なんか使えるようになったんだ?」
片桐は眉間にしわを寄せ、俺を睨んでくる。
「か、片桐さん!職業も魔法も使えないザコじゃないんすか!?話が違うじゃないですか!」
一人の取り巻きが顔を青くしながら片桐に向かって声を荒げた。
「うるせえ!ボロボロの剣を一本持っただけじゃねえか!安心しろ、こいつは【危機察知】っていうスキルしか持ってない役立たずのクソ野郎だ」
「そ、そうっすか……すいません」
片桐は取り巻きを一喝すると、俺に向かって大剣を先を向ける。
「ちょっと魔法が使えるようになったからと言って何も変わらねえ。お前は俺の奴隷、そして俺はお前のご主人様だ」
俺は片桐の言葉を聞いて、思わず声が漏れる。
「くっくっく……」
「あぁ?」
「ふははははっ!」
声を出して笑う俺を見て、片桐は青筋を立てて顔を歪める。
「何笑ってやがんだ!クソ川!」
片桐はそう言って、思い切り足で地面を踏む。
地面のコンクリートは蜘蛛の巣状にひびが入り、その中心にはくっきりと片桐の足の形に凹んでいた。
片桐は腐ってもDランクの探索者だ。
コンクリートを砕く事くらいは簡単にできるだろう。
「何も変わらないだと?俺はこの5年間で変わったんだよ」
「5年?何言ってやがんだ、この状況で頭おかしくなったのか?」
片桐とその取り巻きは腹を抱えて笑い出す。
「おい、こいつにスキルでも魔法でも好きなように打っていいぞ!ただし威力は抑えろよ。すぐ死んじまうからなぁ!」
取り巻きの一人が俺に向かって手を突き出し、魔法を唱え始める。
俺は剣の柄を強く握り、唇の端を吊り上げた。
「誰も助けが来ない?それは好都合だな。今までのお返しをたっぷりとさせてもらおう。手加減はしない……」
そう呟いた俺は、過酷な戦場を幾度も生き延びてきた戦士の目をしていた。
「皆殺しだ」
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