第4話 うっかりダンジョンを崩壊させてしまう

キーンコーンカーンコーン


「授業はここまでだ。しっかり復習しておくように」


先生がそう言って、教室から出ていく。

今日の授業がすべて終わり、生徒達は帰る準備を始めた。


「やっと終わった~。さて、ダンジョン行くか」


俺はカバンを持って立ち上がり、下駄箱で靴を履き替える。

校門の近くまで来ると、武器や防具を持った生徒がちらほらいた。


難易度の低いダンジョンの低層だったら弱い魔物しか出ないので、学生でも危険が少なく戦うことができる。


「どこのダンジョン行こうかな、とりあえず千葉にあるダンジョンでも行ってみるか」


俺はダンジョンの場所がわかるアプリを見ていると、後ろから聞き覚えのある声がした。


「おい、ゴミ川」


後ろを振り返ると、片桐が5人の取り巻きを引き連れて立っていた。


「そんな急いでどこ行くんだぁ~?」


片桐が肩を組んできて、スマホを覗いてくる。


「あぁ?お前ダンジョン行くのか?くははははっ!」


片桐が腹を抱えて、笑い始める。


「おい、見ろよ!こいつ職なしのゴミスキルしかねぇのに、ダンジョン行こうとしてやがるぜ!?俺達がレベル上げ手伝ってやろうか?くははははっ!」


片桐の言葉を聞いて、周りの取り巻きも一緒になって笑い始めた。

そんな様子を見て俺は大きくため息を吐く。


めんどくさ。さっさとダンジョン行きたいんだけどな……。

こいつらに構ってる暇はない、それに今日の夕飯代も稼がないといけないし。


「あっ!」


俺は空を指さし、声を出す。


「あん?」


それにつられて片桐たちはその方向を見た。


よし!今だ!


俺はその隙にジャンプして、校舎の屋上に着地する。


「何もねぇじゃねえか……って、どこ行きやがった!?」


片桐達はいなくなった俺を探して、キョロキョロと周りを見渡す。


「バレてないな。他に誰もいないし、ダンジョンまで瞬間移動するか」


そんな片桐達を屋上から見下ろし、魔法を唱える。


迷宮転移ダンジョンてんい


姿が一瞬消えて、俺はいつの間にか山の中にいた。


この魔法は一度行った事があるダンジョンの近くまで瞬間移動できる。

現代ではまだ発見されていない魔法だ。


「異世界で学んだ技術を使いすぎたら、有名になってしまうかもしれない。そうなったら自堕落な生活なんて夢のまた夢だ。これからダンチューバーをやるにしても正体がバレないようにしないとな」


俺は森の中を歩いていくと、大きな塔のような建物が見えてきた。

その塔の近くには塀があり、その入り口にはスーツを着た男が立っていた。


「こんにちは。『ダンジョンキャンプ』の中に入るには、探索者カードを提示してください」


その男に言われたので、駅の改札口のような機械に銅色の探索者カードを当てる。


「Fランクの探索者様ですね。どうぞお入りください」


男に言われて塀の中に入ると、中には仮設テントがいくつも建てられていた。


「うちのポーションは安いよ!」


「そこの兄ちゃん!うちの武器見ていってくれよ!」


塀の範囲も広く、まるで小さな商店街のように賑わっていた。

ダンジョンの周りでは魔物と戦うのに必要な道具や武器が売っているようだ。


俺は塔の近くまで来ると、入り口では10人ほど並んでいて、順番に係の女性と話していた。

ここで探索者カードを預け、注意事項等の説明をされてからダンジョンに入るのだ。


列に並んで待っていると、やがて自分の番が来た。


「こんにちは、ここは★1のダンジョンでございます。探索者カードを出して頂けますか?」


俺は探索者カードを女性に渡す。

塔の入口を見ると、入り口には★が一つ書かれてた。

ダンジョンには★1~10まであり、★が多いほどダンジョンの規模が大きく、魔物も強くなる。


「万が一、ダンジョンの中で命を落とした場合にその人の特定に使いますのでカードは預からせて頂きます。また出るときに声を掛けてくださいね、その時にお返しします」


女性にそう言われ、注意事項を伝えられる。


「では気を付けて、いってらっしゃいませ!」


俺はダンジョンの中に入ると、さっそく青色のゼリーのような魔物が跳ねていた。


「スライムか……、やっぱり★1ダンジョンといえばこいつだな」


【アイテムボックス】


俺のすぐ横の空間がゆがみ、ぽっかりと穴が開いた。

その穴に手を入れて、一本の剣を取り出す。


「この程度のダンジョンなら使い捨てのロングソードで十分だろ」


なんの特徴もない鉄で出来たロングソードを構える。

スライムとの距離を一瞬で詰め、真っ二つに斬る。


スライムの断面から白い煙が出て、体が少しずつ蒸発していく。

やがてスライムは消え、米粒サイズの魔石だけが残った。


「いつ見ても気味悪い死体の消え方だな……」


魔物は切っても血は一切出ず、傷からは白い煙が出る。

異世界ではその煙こそが魔力であり、魔物は魔力の塊という説があった。


「とりあえず魔石だけ回収しておくか」


俺は魔石をつまんで、袋に入れる。

すると突然目の前に半透明のパネルが出てきた。


【スライムを討伐しました。exp2】


「うわっ!何だこの画面!?」


初めて見る現象に俺は困惑する。


「こ、こんなの異世界にいた時も行く前にもなかったぞ!?それにこのexpって何だ?多分経験値の事だとは思うが……」


やはりダンジョンに関する事だけ、異世界転移前とは違う点がいくつかあるようだ。

もう少しダンジョンについて調べる必要があるみたいだな。


「★1だし、無くなったとしても誰も困らんだろ。とりあえずダンジョンコア破壊して今日は家に帰るか……」



ゴゴゴゴゴゴッ


「こ、この音は何ですか!?」


ダンジョンの外に立っていた受付嬢は慌てて、周りを見渡す。


「だ、ダンジョンが揺れてる……。まさかダンジョン崩壊!?」


塔が上から崩れていき、地面にがれきが散らばる。

がれきが白い煙を上げ、蒸発していく。


次々と中にいた探索者が外に現れた。


「ワープしたのか?」


「どういう事だ?せっかく気持ちよく戦ってたのに……」


探索者達は状況が理解できずに、呟いた。


「み、皆さん、聞いてください!たった今このダンジョンは崩壊しました。ダンジョンコアを破壊した探索者は今すぐ出てきて下さい!」


受付嬢の呼びかけに誰も反応しなかった。

受付嬢は蒸発していくダンジョンを見ながら、地面に膝を付く。


「そ、そんな……。このダンジョンは探索者の訓練用として残していたのに……」


「く、訓練用のダンジョンだったのか……。次からはダンジョンをしっかり選ばないとな。ていうか★1なんか魔物が弱すぎて訓練にもならんだろ」


その場にいた、とある探索者の小さな呟きを聞いた者は誰もいなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る