第3話 いじめっ子と美人クラスメイト
次の日の朝、ダンジョンよりも先に行かなければならない場所がある事に気付いた。
「学校か~、めんどくさいな」
異世界では15歳から成人だったので、学校は行かなかった。
5年ぶりだったので忘れていたが、まだ高校三年生だったわ。
俺の体は17歳だが、中身は22歳だ。
「まあ適当に授業受けてからダンジョン行こうかな」
そう思いながら、カップラーメンをずるずると音を立てながら食べる。
「異世界の飯と比べたらカップラーメンまじ美味いわ。でもこんな貧乏暮らしは早く抜け出しだして、もっと美味しい物が食べたい……」
食べ終わると割りばしとカップラーメンのカップをゴミ箱に向かって投げる。
カップと割りばしは吸い込まれるようにゴミ箱に入った。
俺は制服に着替えて鏡の前に立ち、ネクタイを締める。
「制服懐かしいな~。それより前髪邪魔だな……、少し切るか」
ハサミを使って、前髪や邪魔なところを切る。
異世界にいた時は自分で切っていたので、このくらいなら朝飯前だ。
「よし、これでいいな。それじゃあ学校行くか」
俺は鞄を持って、部屋の玄関に向かった。
◇
学校に行くのは久しぶりで道に迷わず行けるか不安だったが、意外と覚えていたので問題なく学校まで行けた。
俺は教室のドアを開けて、中に入る。
「あれみてよ」
「ゴミスキルのゴミ川君だぜ」
この感じも懐かしいな、俺いじめられてたんだったわ。
でも異世界の魔物に比べたら怖くもなんとも思わないな、最悪全員瞬殺できるし。
周りからクスクスと嘲笑いながら小さい声で話しているクラスメイトを横目で見ながら自分の席に向かう。
自分机にはバカとかゴミ野郎とか悪口の数々がびっしりと書かれていた。
「はぁ~」
俺は大きくため息を吐きながら、席に座ると後ろから強く押されるような衝撃を感じた。
「よぉ、ゴミ川ぁ~。俺に挨拶はどうした~?」
後ろを振り返ると、俺の椅子に向かって足を延ばした金髪坊主で体格の良い男がニヤニヤと笑いながら俺を見ていた。
「おはよう、片桐くん」
クラスのガラ悪い奴らを仕切っていて、俺がいじめられているのはこいつのせいだ。
「おはようございます。片桐さんだろうがぁ!」
片桐はもう一度俺の椅子を蹴る。
俺もさすがにこの態度には怒りが湧いてくる。
「おはようございます……片桐さん……。その足どけてもらえます?」
俺は青筋を立てながら、無理やり笑顔を作って挨拶する。
「あぁ?なんだよその態度は……、てめぇいつからそんなに偉くなったんだ!?」
片桐は自分の机を蹴り飛ばし、俺の椅子を足でグイグイと押す。
「お、おい……あれ」
「片桐君って確か、Dランクの探索者だったよね?」
「ゴミ川終わったな、殺されるぞ」
片桐の声を聞いて、教室に緊張が走る。
転移する前の俺なら漏らしていたと思う、でも今は全く怖くない。
「その汚ねえ足どけろって言ったんだ、このハゲ」
俺は低い声でそう言って、片桐を睨みつける。
「てめぇ、いつもみたいにもっとビクビクしろやぁ!」
片桐は勢いよく立ち上がると、俺の胸倉を掴んで座っている俺を引っ張って立たせてくる。
「ゴミ川ぁ、お前誰に何を言ったのか分かってんのか!?あぁ?」
片桐は俺に顔を近付け、声を荒げる。
「分かってるよ。悪かったな、ついカッとなっただけだよ」
ついつい言い返してしまったが、このまま喧嘩したらまためんどくさいことになる。
俺はとりあえず気持ちを抑えて謝ることにした。
「そんなんで許すわけねえだろうが!」
片桐は俺のみぞおちを殴ってくる。
それでも片桐のパンチは全く痛くない。
しかし、攻撃されたことで俺の闘争本能に火が着いた。
「あぁ?お前こそいきなり何すんだ。手、放せよ……殺すぞ?」
俺は殺気を飛ばしながら片桐を睨みつける。
「あっ……お、お前……」
すると片桐は胸倉を掴んでいる手を緩めて、後ずさりする。
片桐は顔を真っ青にしながら、足をぶるぶると震わせる。
「片桐、さっきの威勢はどうした?足震えてるぞ?」
俺をずっといじめてきた男の怯える姿を見て、少し楽しくなってしまう。
「片桐が手を放した?」
「なんだよあれ……皆川にびびってんのか?」
「お、俺まで皆川が怖くなってきた……」
それを見ていたクラスメイトも顔を青くしたり、体を震わせてしていた。
「く……くそぉぉぉ!!」
片桐が歯を食いしばり、拳を振り上げる。
それを見て、俺はニヤリと笑って自分の拳を握る。
「やめなさい!」
教室の雰囲気を切り裂くような女性の声が聞こえると、教室の温度が急激に下がっていき、教室のあちこちがパキパキと音を立てて凍っていく。
女性の声を聞いて、片桐の拳が俺の顔の目の前で止まった。
すると俺達に向かって、長い黒髪を揺らしながら一人の女性が歩いてきた。
「あなたたち、いつまでそんなくだらない言い合いをしているの?」
その女性は凛とした大きな目にぷっくりとした唇で、制服の上からでも分かる豊かな胸に細い体。その美しい容姿やスタイルは、誰もが思わず振り返ってしまうほど魅力的だった。
その大きな胸を、組んだ腕の上に乗せて俺達を鋭い目で見る。
「ちっ」
片桐は舌打ちをすると腕を下げ、自分の机を戻して席にふんぞり返るように座った。
よ、よかったぁ~。あのまま誰も止めなかったら確実に片桐を殺していた。
せっかく地球に戻って来たのに牢屋で過ごす事になっていたかも……。
ここは異世界ではない、もっと慎重に行動しなければ。
「さすがは氷室さん!片桐君を止められるなんて……」
「当たり前でしょ!?氷室さんはBランクの探索者なんだから!」
「それに登録者数50万人を超える人気ダンチューバーだしな」
高校三年間同じクラスで、いじめられていた俺を何度も助けてくれた女の子。
「助けてくれてありがとう、
「皆川君、喧嘩する相手は選んだ方が良いわよ?あなたは虫より弱いんだから、本当に殺されるわよ?」
「そ、そうだよね……あはははっ」
そして何故か助けてくれた後、いつも嫌味を言ってくる。
氷室さんは俺をじっと見つめてくる。
「な、なに?」
こんな綺麗な女の子に見つめられてドキッとしてしまう。
「髪、切ったのね」
「え?ま、まぁね……」
「ふん」
氷室さんは鼻を小さく鳴らして艶のある長い黒髪を揺らしながら、自分の席まで歩いて行った。
「氷室さんっていつも皆川を守ってるよね」
「ただいじめが嫌いなだけじゃないか?」
「氷室さんに助けてもらえるなら俺もいじめてくれ!」
さっきの喧嘩がなかったかのように教室の中は氷室さんの話題で盛り上がっていた。
「ちっ……恥かかせやがって。クソ川の野郎、絶対殺してやる」
片桐は俺を睨みながら、誰にも聞こえない程の小さな声で呟いた。
俺は普通の人より耳が良いんだ。聞こえてるぞ、片桐くん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます