第2話 ダンジョンが1000超えたらどうなるの?
光が消えると俺はいつの間にか別の場所にいた。
「ん?ここは……」
俺はぼろぼろのアパートの一室で使い古されたベッドの端に座り、スマホを右手に握りしめていた。
「そういえば家でだらだらしていた時に突然異世界転移したんだったな。ここに帰ってくるのも5年ぶりだ」
この5年本当にいろいろあった。
異世界での暮らしは毎日厳しいものだった。
死にかけたことも何度もあったし、娯楽も全くない。
「それに比べたらこの世界は平和だな……」
俺はスマホの付けて、とある動画サイトを見る。
その動画サイトを知らぬ者はこの世界にはいない。
そのサイトでは様々な動画が毎日投稿される。
「やっぱりダンジョン配信は人気だな~」
その中でも群を抜いて人気なジャンルがダンジョン配信だ。
ダンジョンの中でも使える特殊なドローンを使って、実際に様子を配信しているのだ。
「おっ!『
ダンジョン探索者にはA~Fまでのランクがあり、Aランク探索者で唯一配信をしているのが『獄炎』という探索者パーティだ。
「久しぶりに見てみるか」
50000人に見守られる中、『獄炎』の5人がそれぞれ役割分担しながら魔物と戦っていた。
前衛のタンクが敵を引き付け、後衛の魔法使いが殲滅し、倒しきれなかった残りの魔物を剣士が狩っている。
その連携は完璧で、さすがはAランクパーティだ。
しかし……
「『獄炎』ってこんなに弱かったか?これがAランク?俺がいた異世界【ベータテトス】ならギリCランクってところだな」
異世界にも同じように探索者にランクがあった。
しかし違うのはその強さ。
「異世界に行く前はすごく強いと思っていたけど、今はそんな風には見えないな。俺だったら一瞬で全員殺せる」
そのまま何となく配信を見ていると、ボスを倒してダンジョンコアを破壊したみたいだ。
「やっぱりダンジョン配信は面白いな。自分は戦わなくていいからエンタメとして見れるわ」
毎日、命を懸けてダンジョンに行ってた時は面白いなんて一度も思った事はない。
早くこんな日々が終わって欲しいと考えながら戦っていた。
燃えるような赤い髪の女性がカメラを見て、微笑む。
・さすがはAランク探索者!
・マジ可愛い!
・獄炎強すぎだろ!
『獄炎』を褒め称えるコメントが飛び交っている。
『みんな今日も見てくれてありがとう。ダンジョンは今も増え続けて、私たちが崩壊させる数にも限界がある。だからみんなの力も貸してほしい』
・【1000円】もちろんです!僕も獄炎に憧れて今年から探索者になりました!
女性の言葉を聞いて、色の付いたコメントが流れた。
お金を払ってコメントすると色が付くみたいだ。
『ありがとう。そう言ってもらえると勇気をもらえるよ。一緒に頑張ろう』
・うぉぉぉぉ!!俺も頑張るぞ!
・俺も今からダンジョン行くわ
・俺にも【職業】があったらな……
何やら女性の言葉を聞いて、視聴者たちが感動しているみたいだ。
「俺は暇つぶし程度にダンジョンに行くことはあっても、もう前線に立とうとは思わないな」
今日はもう寝ようと思ってスマホの電源を切ろうとしたその時。
『私達は今月で三つのダンジョンを崩壊させた。でもダンジョンの数は増えるばかり……。私は近いうちにこのままダンジョンの数が1000を超えて全員死んでしまうのではないかと心配だ』
・確かに全然減っていませんね……
・現在863個みたいです
・マジであと137個増えたらみんな死ぬの?
俺は女性の言葉とコメントを読んで、大きく目を見開く。
「1000を超えると全員が死ぬ!?どういう意味なんだ……」
意味が分からない。
そんな話は異世界に行く前も、異世界にいた時も聞いたことがない。
俺はネットで『ダンジョン 1000を超える』と検索してみると膨大な数の情報が出てきた。
『200年前に突如出現したダンジョン。それをきっかけにほぼ全員が【職業】や【スキル】が発現した。それらを持った人間達は【探索者】と呼ばれ超人的な能力と技が使えるようになった。』
「俺は職業はなしだが、スキル【危機察知】だけが発現した。ここまでは俺も知っている」
俺は更に下にスクロールしていく。
『一番最初にアメリカに出現した【はじまりのダンジョン】の入り口には、【世界にあるダンジョンが1000を超えるとその星にいる全ての生き物は絶滅し、星が枯れる】と記されていた』
「こんな情報は聞いたことがない。本当に俺は元の世界に戻って来たのか?」
しかし獄炎の事やDanTubeは転移する前からあった。
違うのはこの情報のみだ。
「それにあと137個で1000を超えるって結構ギリギリじゃねえか!俺もダンジョン行かないとダメか~」
獄炎もあんな感じなら他のAランクも大したことないだろう。
さすがに世界が危機に陥っている時に自分だけのんびりする気分にはなれない。
現実を受け止めきれず、俺はがっくりと肩を落として大きくため息を吐く。
俺は全身の力を抜き、ベッドに背中を落として天井を見る。
「他に変わった事はないかな?」
俺はスマホで色々なことを調べてみる。
エンタメや常識、組織なども転移前と変わらなかったがダンジョンに関係する情報は自分が知っていたものと少し違う箇所がいくつもあった。
その時、ある事が目に留まった。
「ん?教育系ダンチューバー?」
ダンチューバ―とはDanTubeで動画や配信をする人達の総称だ。
教育系ダンチューバーは株や歴史などを解説していて、動画を見るだけで学べるみたいだ。
コメントを見る限り、動画を見て勉強できるのはかなり効率が良いみたいだな。
そこで俺はある事を思いつく。
「これって……、俺もこの人みたいにダンジョンに関する動画とか配信をして、他の探索者に教えれば俺だけが頑張る必要ないんじゃね?」
そうだ!異世界は文明が発展してないのでインターネットなんてものはなかったが、今は配信があるんだ!
俺の動画や配信を見てもらって他の探索者が強くなれば俺ものんびりできるし、お金は入ってくるしで一石二鳥じゃねえか!
「そうと決まれば早速明日からこっちのダンジョンに行って、攻略法を見つけないとな」
自堕落な生活を送れるかもしれないと期待に胸を膨らませながら、俺は眠りについた。
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