デルタのダンジョン教室~周りのダンジョン探索者が弱すぎるので、最強勇者の俺がダンジョン攻略法を配信したら死ぬほどバズった

壱文字まこと

第1話 異世界帰りの最強勇者

「はぁ……はぁ……これで俺の勝ちだ、魔王!」


 俺は地面に倒れている一人の男に剣を突き立て、見下ろす。

 お互いの体には無数の傷があり、魔王の腹には大きな穴が開き、そこから白い煙が出ている。


「まさか貴様のような若造にこの俺がやられるとはな……」


 銀色の髪に黒い角を生やした魔王は唇の端を吊り上げ、ふっと小さく笑った。


「ごほっ……貴様、ダンジョンをいくつ崩壊させた?」


「覚えていない……、たぶん800くらいだ」


「たった一人で800か、化け物だな」


「お前に言われたくねぇよ」


「『ダンジョンの種』はこの世界だけでなく様々な異世界に散らばった。ダンジョンがある限り俺のような魔王はいくらでも増え続ける」


「ただでさえ俺はこの世界に無理やり召喚させられて戦わされたんだ。別の世界の魔王なんざ俺には関係ない話だ」


「ふっ、それもそうだな……。もうじき俺も死ぬだろう」


 魔王が自分の穴が開いた腹にそっと手を当てる。

 するとダンジョン全体が大きく揺れ、壁や天井が崩れ落ちてくる。


「ごほっ……貴様、名前はなんだ?」


「……、ユウマだ」


「ユウマ、貴様のせいでこの世界にダンジョンは二度と出現しないだろう」


「そうか……じゃあ俺の役目はここで終わりだな」


 俺は小さく息を吐き、剣に着いた血を振り払い、腰に差す。


「いや、貴様にはまだ役目が残っている」


「お前は死んだ。これで終わりだ」


「いやこれで終わりではない」


「……、何故そんなことが分かる?」


「貴様はダンジョンに愛されている。一生戦い続ける事になるだろうな」


「勘弁してくれ。俺はもうゆっくり隠居生活したいんだけどな……」


「ふっ、そうか……出来ると良いな」


 そういうと魔王の体は塵となって、俺の身長の何倍も大きな魔石が出現した。

 俺はその魔石に軽く触れた。


「これでやっと元の世界に戻れる。早くしないとダンジョンの崩壊に巻き込まれるな」


 この世界は技術があまり発展していないため、現代世界で18年間育ってきた俺には不便で苦しい生活だった。

 早く戻って美味しい物を食べたい。


 俺は魔石のエネルギーを使い、ある魔法を構築する。


回帰転生かいきてんせい


 大きな魔法陣が足元に描かれ、俺の体が光になって消えた。


 ◇


「ん?ここは……」


 俺は上半身を起こして周りを見渡したが、自分がいたのは何もなく真っ白の空間だった。


「お疲れさまでした。皆川悠真みながわゆうまさん」


 後ろから女性の声がしたので振り返ると、そこには背中から真っ白の羽を6枚生やした長い金髪の女性が立っていた。


「フルネームで呼ばれたのは久しぶりだ」


 俺はゆっくりと立ち上がり、その女性を真っ直ぐ見る。


「5年ぶりだな。女神様」


「ふふっ、男らしくなりましたね悠真ゆうまさん」


 女神様は口元に手を当てながら、小さく笑う。


 異世界転移する前の俺は気が弱く、毎日学校でいじめられていた。

 その時と比べたら、今では全くの別人に見えるだろう。


「まあ、最前線で魔物と5年も戦ってたら気も強くなるさ」


「そうですよね。ごほんっ」


 女神は咳払いをすると、真剣な眼差しで俺を見る。


「改めてお疲れさまでした。これで私の管理する世界の人々はダンジョンから救われるでしょう。皆川悠真みながわゆうまさん、本当にありがとうございました」


 女神は長い金髪をだらりとたらし、俺に頭を下げる。

 それを見て俺は苦笑する。


「まぁ、最初はなんで俺が知らん世界を救わないといけないんだと思ったが、振り返ってみるといい経験だったと思うよ。人助けっていうのも悪くないしな」


「そう言って頂けると嬉しいです。やはりあなたのような人こそ『勇者』と呼ばれるのが相応しいと思います」


「そ、そうか。照れるな」


 俺は女神様に褒められ、むずがゆくなってしまう。


「さて、ここからが本題です。私が言った通り、魔王の魔石を使い【回帰転生】を使ったという事は前の世界に戻りたいという事でよろしいですかね?」


「ああ」


「本来この魔法は元の世界に転生するものですが、今回は特別にこちらの来る直前の皆川悠真さんに戻すこともできますがどうしますか?」


「なるほど、転生ではなく転移させてくれるという事か……」


 俺は顎に手を当てて、どっちを選ぶか考える。

 俺には親も姉弟もいないし、『皆川悠真』に未練はない。

 わざわざいじめられていた頃に戻るより、いっそのことやり直した方がいいような気もするな。


「たった5年で異世界のダンジョンを8割以上崩壊させたご褒美です!上司にも許可は取ってありますので安心してくださいね!」


「か、神に上司なんているのか……」


「あっ!あともし皆川悠真さんに戻るなら、年齢は17歳のままですが能力は今のまま引き継げますよ」


「マジで!?」


「はい!、今のすごく強い能力のまま戻った方がお得だと思いますよ!」


 確かにそれなら転生ガチャを引くより、元に戻った方が良さそうだな。


「じゃあ、元の皆川悠真に戻るよ」


 そういうと、女神様は満面の笑みを浮かべた。


「はい!では最後にもう一つ私からプレゼント致します!」


「プレゼント?」


「こっちの世界に来た時にあげたアレですよ~、ア・レ!」


 女神さまはウインクしながら、人差し指を言葉に合わせて二回振る。


「ああ~チートスキルの話か。それは太っ腹だな」


 俺は異世界に召喚された時に女神様からチートスキルを貰った。

 女神様が言っているのはそれをまたもう一つくれるという事だろう。


「まぁ、あなたにはまだやってもらいたい事がありますからね、このくらいはサービスしないと……」


「ん?なんか言ったか?」


「い、いえいえ!なんでもないです!それよりスキルはどうしますか?」


「そうだな……じゃあ俺が元々持っていた【危機察知】あるだろ?元の世界にいた時に散々馬鹿にされたゴミスキル」


【危機察知】は相手の攻撃やトラップに気付きやすくなるスキルだ。

 確実に気付けるわけではないし、相手が攻撃された後に気付けるので能力がなければ躱せないので、あくまでも戦闘を補助するスキルだ。

 俺は【危機察知】以外のスキルは持ってなかったので、持っていても意味がなかった。


「はい、それがどうかしましたか?」


「ゴミスキルとみんなには馬鹿にされたが、なんだかんだ言って【危機察知】には助けられた。それの強化をして欲しいんだが」


 自分で言うのもなんだが、今の俺は異世界で最強と言われたほど強い。

 そのレベルになってくると、死角からの相手の攻撃に気付けるだけでもかなり有利に戦える。


「【危機察知】の強化ですか……。確かに。しかし残念ながらそのスキルは進化先がありませんので上位互換である【未来予知】なんていかがでしょう?」


「【未来予知】!?」


 なんかすごそう。


「相手の敵意や攻撃が来る前に察知できるスキルですね。今のあなたにとっては十分チートスキルになると思いますよ。それに進化する可能性のあるスキルですので、使っていけばさらに強くなりますよ」


 確かにそれは戦略の幅がかなり広がるな……。


「じゃあそれにしよう」


「では、【未来予知】を付与して……」


 女神様はそう言うと俺に向かって両手の手のひらを向けると俺の体が一瞬だけ光った。


「はい、出来ましたよ!それでは元の皆川悠真さんの体に戻しますね!」


「ああ、ありがとな。色々気を遣わせて悪いな」


「いえいえ!気にしないで下さい。それでは転移を始めます。元の世界でもダンジョン攻略頑張ってくださいね!」


 俺は女神様の言葉を聞いて、苦笑いを浮かべる。


「いや、ダンジョンは金稼ぎ程度にするよ。もう疲れたし」


 異世界で5年間美味しくない携帯食料を食べながら毎日のようにダンジョンを破壊してきたのだ、もう一生分働いただろう。

 いい加減ゆっくり暮らしたい。


 それを聞いた女神様は口を開けて、固まってしまった。


「そそそそそ、それは困りますよ!あなたにはまだやってもらいたい事が……」


「やってもらいたい事?」


「い、いえ。口が滑りました……、でもさすがに被害が出るほどダンジョンが増えたら戦ってくれますよね?」


 ダンジョンはところかまわず出現し、ダンジョン内の魔物が増えすぎると外に出てくることもある。


「まぁ、それはさすがに力を貸すとは思うが……」


「そうですか……、わかりました!それだけ聞ければ十分です。では転移させます」


 女神様はそう言うと俺の体が光り出した。


「ああ、世話になったな」


「いえいえ、これからもお元気で!」


 光りが一気に強くなり、俺の体が消えた。


 ◇


 女神は大きな機械を操作しながら、大きくため息を吐いた。


「これでよかったんですか?」


 すると全身真っ黒な人型で、顔には無数の牙を生やした口だけの生き物が女神の後ろから出現し、歩いてくる。


「ああ、それでいい。よくやった」


「皆川悠真さんにはもうゆっくり休ませてあげたかったのですが……」


「くっくっく。あのような凄まじい才能を腐らせておくには勿体ない。あの男にはせいぜい死ぬまでダンジョンと戦ってもらうさ」


「ごめんなさい……」


 その大きな口から不気味によだれを垂らしたナニモノかを横目で見ながら、女神は一人の人間を思い浮かべて、そう呟いた。



―――――――――――

【あとがき】

新作です。

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