四輪 平凡な修羅場 その4
「「………。」」
うわ気まずっ。ゴールデンウィークの最終日からボクと井上の他にも誰かいるのはもう分かっていた事とはいっても、流石にこれは…
「…貴女が残雪 唯様…ですよね?陽翠様から、名前だけは聞いてます。初めまして、私はプラネと言います。朝の鳥の唐揚げ…美味しかったです!!」
あっちがボクの事を気遣って先に自己紹介をしてくれたのは正直、有り難くはあるけど、何だか申し訳なくなるな。
「こちらこそ…その、初めまふぃて。」
し、舌噛んじゃった…マズイ。よりにもよってこんな時に限って…くっ、日頃のコミュ力の低さが仇となったか。中野さんと話すようにはなったと言っても結構最近からだし、そんなに変わらないのは仕方がないか。
「唯様?」
「……っ。」
反射的に、ボクは一歩後ろへ下がった。
あぁ。ボクを下の名前で呼ぶのが井上くらいだから、他人に言われ慣れてないのか…それにその様付け。ボクは別にどこかのお嬢様とかじゃないぞ。本家に生まれていたら、そうなってたかもしれないけど…んん?本家??ボクは何を考えているんだ?
「…ごめんなさい。何か気に障ったのなら謝ります。では今日はこれで。」
自身の行動と、女性の少し寂しそうな表情を見てボクは我に返った。
「違っ…別にそんなつもりじゃ…」
声が小さくて聞こえなかったのか、女性は牛乳を飲んだコップを洗ってから、すごすごと戻っていく。よく見るとその頭上には何か、車輪の様なものがカラカラと虚しく回っていて…
「あ…あのっ!」
「…えっと、どうしましたか?」
声を少し張り上げて、女性。振り向かせる事には成功した。けど、この場で何を言えば…
『ふぉっふぉっ…ちと付き合ってくれんか?』
とても優しい声色の僕の知らない老人の声が脳に響いて…ふと閃いた。
「…!ちょっとリビングで待っててくれませんか?」
「え…は、はい。」
困惑している女性を無視して、自分の部屋から物を色々持って来た。
「…こ、これは…ゲーム機?」
3世代くらい古くやった事はない筈なのに、何故か思い出深いゲーム達を床にずらりと並べて、ボクは女性…プラネのぐるぐるした目をちゃんと見据えて言った。
「少し…ゲームとかしませんか?」
リモコンでゲームのメニュー欄まで操作したボクはもう一方のコントローラーをプラネさんに手渡した。
「えっと…操作は…ボクが教えますから。分からない所があったら、教えてくれると。」
「…はい!!」
胡座をかいて座るボクの隣にプラネさんが正座で座った。
「!これは何をするゲームなのですか?」
「あ、それ確かそれ格闘ゲームだったと思う…このコントローラーを初めて使うなら、あんまりオススメできない…」
「大丈夫です!ゲームなら、最近やり込んでますから!!きっと勝ちますよぉ〜」
ほほう。言ったな…どうせ、井上の部屋にあるゲームは最近流行りのVRMMO『ラスト・イクリプス』に違いない。ボクは怖くてまだ手が出せていないけど。
「…なら、容赦しないから。」
「あの唯様…顔が少し怖いですよ?」
最先端で快適なVRゴーグルで、攻略見て短時間だけやってゲーマーを気取ってる若造如きに…セーブも出来ず攻略本なんてないバクと不具合が地雷原並に散布された数多のジャンルのゲームを隠しルートや裏ルート含めて踏破してきたこのボクが、ゲームのやり込みの楽しさとゲーマーの真髄をここで叩き込んでやる。
そんな情熱とは別に、謎に懐かしさを感じられて…ボクはプラネさんに気づかれないようにクスリと笑った。
……数時間後。
おれは自室のベットの上で目が覚める。
「ぁ…腹減ったぁ……ん?」
一階で誰かの叫び声や懐かしい雰囲気の電子音が聞こえて…体を起こしてゆっくりと階段を降りる。
ピコピコピコ…
「また…ボクの勝ち。そろそろ、晩御飯作らないと。」
「…っ。もう一度だけっ、もう一度だけ勝負しましょう!!次こそは絶対、私が勝ちます!!!」
そこには、不器用ながらもゲーム機を力強く持ち半透明の車輪を激しく回す半泣きのプラネさんと、心なしか得意げな表情を浮かべる唯が仲睦まじそうにテレビの前で古そうなゲームをしていた。
「…井上。」
「あっ、陽翠様…そんな所にいたんですね!」
なんか女子会みたいな雰囲気だったから邪魔しないように、ささっと忍び足で出て行こうとしたが…気づかれたぁ!?
「…晩御飯作るから。井上と遊んでて。」
「食事が終わったら、またやりましょうね!」
「う…うん。」
ゲーム機を丁寧に床に置いた唯がおれの側を通り過ぎる間際で呟いた。
「……いい人だよ。」
「……。」
(人というか…座天使なんだよなぁ。)
「…陽翠様、遊びましょう?」
「あ、ああ。」
唯に鍛えられたのかプラネに格闘ゲームでフルボッコにされながら、唯にどう言おうかと平凡すぎる脳で必死になって考えた。
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