三輪 平凡な修羅場 その3

ガンガンガンガンガンガンガンガン……


「開かねえなぁ…三重に鍵がかかってやがる。もう面倒だし、これで焼くとする…」


「ちょーーーっと待ったぁ!!!!!」


おれを見て詫錆わびさび先輩は目を丸くする。


「…おっ。井上じゃねえか。何か用か?」


こ、こんな状態でもシラを切るつもりなのか。この先輩は。


「詫錆先輩。何でガソリンが入ってるタンクとライターを持って、空き部屋の前で立ち尽くしてるのか…説明してくれませんか?」


おれの隣に位置している空き部屋…というか今はもう唯の部屋なのだが。でもそれを言えば、確実に話が拗れるので、ここでは何も言わないでおく。


「…ガソリンじゃねえよ。ただの灯油だが?この家クソ寒いから、これぶっかけて井上を温めてやろうとな。そうすりゃ、風邪もすぐに治るだろ??」


前提としてまず、おれは風邪を引いていないし今日はそんなに暑くもない…寧ろ心地いいくらいだ。百歩譲って、仮におれが風邪を引いていたとしても、そんな事をしたらおれは死ぬ。というか、そんな事したら誰だって死ぬよな。


「…遠回しにおれに対して、殺害予告を出さないでくれませんか?」


「殺害予告ぅ?ただ、俺は井上の事が心配で心配で仕方なかっただけなんだよ…これも俺なりの愛として。受け取ってくれよな?」


家ごと焼き尽くすような愛とか…マジで怖すぎて、正直御免被りたい。それを選ぶ位なら、おれとしては平凡でかつプラトニックな感じの陳腐でコンビニに売れ残った様な愛とかで全然構わない。


「まっ、冗談だけどな!!森部長も巻枚ももちっと時間稼いでくれりゃあ…なぁ。チッ…あとちょっとで開けられたかもしれないのによ。」


「……。」


そう…おれはついさっきまで、見事に森先輩の策略に乗せられていた。もう少し気づくのが遅かったらまたもや、この家は焼き尽くされていたかもしれない。性格上、巻牧先輩は加担していないのは間違いないとして……


「…次やったら卒業どころか、退学になるかもしれませんよ?」


「そーかもな。でも愛しい少女達の為に殉じられるのなら、それもアリだ。爛々らんらん先輩も自分の在り方を貫いて、2浪目だしな。」


「……。」


「うわぁ。マジ手に負えねえ」とおれは頭に手を当てていると、後ろから声が聞こえた。


「井上さん…食事の用意が出来たと森部長が…あれ?お取り込み中でしたか?もしそうなら…邪魔した責任をここで…清算します!!!」


「…あっ。待って、やめて!?分かりましたから、それを仕舞ってください巻牧先輩!!あの…詫錆先輩も手伝って…」


「パスだ、詫錆!」「よし、受け取ったぜ☆」


いつまで経っても助けてくれない詫錆先輩に文句の一つ言おうとして…固まった。そこにはある筈のない…


「…少女系以外は全て滅ぶべし。禁書…処すべしぃぃぃ!!!!!」


「は?…っ!?や、やめろぉぉぉぉーーー!!!!!!!!」


おれの魂の叫びは、家中どころか…近隣の家々にも響き渡った。


……


「……今後の方針については以上だ。質問はあるか…井上?」


「………ありましぇん。」


参考書の中でも最高品質の秘宝(燃え滓)を抱えておれは何とか口を紡ぐ。


「…いやぁ、いい仕事したぜ!!これでまた、世界は平和になった!!!今日はよく眠れそうだぜ☆」


平和か。ははっ(笑)コイツ〜……いつか殺す。


「詫錆もよく私の意図を瞬時に読み取れた。これで部室で話した極秘ミッションは終了だ…また明日会おう。」


森先輩…あー何でだろ。もうやられすぎて、怒りとか全く湧かないなぁ……クソがっ!!!


「だ、大丈夫ですか?良ければ、これ使いますか?体を傷つけば…少しは気が晴れますよ。」


善意で言ってるんだよね。うん…ありがとう巻牧先輩。でも今のおれにカッターを渡すと…おれさ。多分、2人を殺した殺人犯になっちゃうんだ。


それをやんわりと断り、3人が家から出て行って鍵をかけてから、おれは玄関前で燃え滓を持ってうずくまり静かに我慢していた涙を流した。


……



帰り際、井上の先輩の人達が何やら家に行こうとか話してたからそれを考慮して、ジムに行ったらまさか中野さんがいるとは…夕方まで長居してしまった。


「ただい…ま。」


「……」


井上か黒い炭みたいな物を持って蹲っているのだが…どうしよう。何となく想像はつくけど、これは何か言ってあげた方がいいのだろうか。


「秘蔵の…おれの…本がぁ…燃え…燃えてゆく……ぐぅ。」


「………。」


仕方ない…今日は、井上の好きな料理にしてあげよう。一応、居候している訳だからそれくらいはしないといけないだろうから。


とりあえずボクは靴を脱いで…寝ている井上を何とか抱えてベットに寝かせてから、黒い炭を適当なタッパーに入れて机の上に置いておいて、とりあえずジムやさっきの肉体労働で汗ばんだ体をシャワーで洗い流す前に水を一杯飲もうと、台所へ向かうと…



「……あ。」



クリーム色の癖っ毛がわずかに湿り気を帯び、茶色いぐるぐる目をした20歳くらいの女性が台所で牛乳を飲んでいてボクに気がついたのか、その目を見開いていた。

























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