二輪 平凡な修羅場 その2

や、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…ヤバいヤバいヤバヤバヤバヤバヤバヤバっ、ヤバっヤバっ…ヤバい!!!!!!!!!!!


このままだと『お見舞い』という名の家宅捜査で隠してある秘蔵の参考書も何もかもが没収されて挙句、目の前で焼かれちゃう!!!


あの先輩達は演劇部の広報担当でありながら、昼波高校で悪名高い『異端審問会』の幹部達だ。特に、議長である森先輩の逆鱗に少しでも触れたりしたら……うぅ。


おれは落ち着くまで、自分の右頬をグーで殴り続けた。


「……ふぅ、ふう……」


お、落ち着け…井上 陽翠…冷静に考えろ……


(今の時刻的にまだ…放課後になったばかりの筈だ。)


いくらおれの家と学校の距離が割と近くても…この時間では来れない!!


そうだ!案外、宅急便か何かかもしれない。それか、両親からの仕送りだろう…一昨日のメール曰く、まだ送れないって話だったけど。都合が変わるのはよくある事だ。


「……」


ドアベルの音が鳴る中、おれはすぐに距離を取れるように、ドアスコープを覗いて…すぐにロックを解除してドアを開けた。


ガチャ…


「お、おかえり…唯。家の鍵忘れてたのか?」


唯はおれを一瞥して、流れるようにテキパキと玄関で靴を脱ぎ、スカートのポケットから、ティッシュを取り出した。


「鼻血…出てるよ。後で床拭いといて。」


「…あ、はい。」


さっとティッシュを渡して、バックを置きにすぐに2階へ行ってしまった。おれは鼻血がボタボタと滴れているが気にする事なく、俯いてティッシュを軽く握りしめ…なんとも言えない喜びに打ちひしがれていると、少しして何故か灰色のジャージに着替えた唯が戻って来た。


「井上の先輩の人達…そろそろ来るからジム…行って来る。鍵、閉めといて。」


「……えっ?」


そのまま忘れていた家の鍵を持って、家を出て行ってしまった。



……………えっ?



おれは唯が渡してくれたティッシュは使わずにズボンのポケットに入れて、ダッシュでリビングにあるティッシュボックスで鼻血を止め、すぐに台所で雑巾をしぼって、床掃除を終わらせた…そして何とか、プラネさんをどこか安全な場所に避難させる時間を作ろうと階段を登って、2階についたが…



ガンガンガンガン!!!!……ガチャ…



「おいおい井上!!わざわざ来てやったぜ。つーか、玄関の鍵開けっぱなしだったぞ?防犯対策はしっかりしなきゃ駄目だろぉ〜!!!出てこいやぁ!!!!」


「ぁ。ぁぁぁぁあーーーー!?!?!?まさか…井上さんは…ぼ、僕の所為です!!僕ごときが愚かにも、1ヶ月前の14時15分48秒に井上さんに新しいアプリの入れ方を教えてもらったりした所為でもう2度と僕と顔を合わせたくないから、首を吊るために買い物をしているのではないでしょうか…?ええ!!絶対そうに違いありません!!」


「スンスン……ぶー。てっきり乱◯パーティかと思ってたっすけど、興醒めっす…帰りましょ、爛々らんらん師匠?」


「ええ。井上さん…丹精込めて…っ//作っ…んっ…///お粥は…そこの座間ざまが冷蔵庫に入れておきます。今日はこの後、乱ちゃんと先約がありますので…少々名残惜しいのですが、これでお暇させて頂きますね。では…ごきげんよう。」


「ちょっ!?面倒くさい事を押し付けるなでござるよ。チッ…これだからド淫乱女は。これ置いたら帰るでござる。森広報部長殿…拙者、谷口殿から貰った秘蔵コレクションの編集作業がある故。これにて失礼するでござる。」


「…私も含め3人もいれば充分だ。そっちは任せる。今日はあくまでも、演劇部の広報担当の活動内容のすり合わせに来ただけだからな。」


おれの部屋で色々と隠蔽工作をせずに…敢えて階段から少し離れた位置で黙って先輩達の声に耳を傾けていて正解だった。


おれの家に来たのは正直驚いたけど案の定、座間先輩はすぐに帰った。あの言動的に幸いな事に、相鎌あいかま先輩や爛々らんらん先輩も何やら用事があるらしく帰って行ったのが分かったからだ。


現状、おれの家の中に侵入した怪物…じゃなくて。先輩達は森先輩と巻牧まきまき先輩と詫錆わびさび先輩の3人のみ。


何よりも。森先輩の言葉が正しければ……



「…あ!森先輩…それに巻牧先輩じゃないですか!!」



こうして3人に目撃されれば、捜索する意味は失われる…2階にも…プラネさんがいるであろうおれの部屋にも行く事もない。


「ぁ……良かった。良かったですぅ……井上さんが生きて…ひぐ…生きてて…もし、いなかったら…僕…僕はぁ……」


巻枚先輩は滂沱の涙を流しながら、自前のカッターで手首を切って、綺麗にしたばっかりの床にポタポタと血を滴らしていた。


「あー巻牧先輩…また血で汚して。後でちゃんと掃除して下さいよ。」


「はい…はい!!!僕の汚い臓物を抉り出してでも…うひ、うひひ…」


それ…悪化してませんか?


「その表情…元気そうでなによりだ。今、冷蔵庫に入れて買って来た桃缶と、爛々らんらんが作ってくれたお粥を用意するから井上はリビングにゆったりくつろいで待っているといい。」


先輩達の日頃の行いからは到底考えられない発言におれは思わず、感動していた。


「も、森先輩…!」


「巻牧は4人分の飲み物の準備だ…頼むから、血は入れるなよ?」


「は…はい。命懸けでやらせて頂きますぅ。」



森先輩がリビングの電気をつけて、台所へと向かって行った。巻牧先輩はオドオドしながらその後についていく。おれは先輩方のお言葉に甘えて、席に座って待っていると、台所から声が聞こえてきた。


「森部長…の、の、飲み物が切れてます!!!でも少しだけトマトジュースはあります。こ、こうなったら…」


「待て、やめろ…トマトジュースに血を混入させようとするな!っ、井上…悪いが、巻牧を止めてくれ!!」


おれは、珍しく気分よく台所で揉めている先輩達の方へ向かい…暴れている巻枚先輩からカッターを取り上げている時、ふと気づいた。



(……あれ。詫錆先輩は?)































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