第1章 3ー3

次の日。二日酔いの炎珠(エンジュ)と師匠は頭を抱え座り込んでいる。鈴明(リンメイ)は元気一杯で、調子の悪い炎珠(エンジュ)に代わり、私の世話を焼く。

朝食の時、母に昼過ぎには温泉へ出発すると言われた。

私は、朝-から液体の石鹸を作り、それを鞄に詰める。母や宇航(ユーハン)様の分と鈴明(リンメイ)達の分も用意した。

使い方は、師匠と鈴明(リンメイ)に伝えておいた。

師匠はきっと宇航(ユーハン)様と入るだろうし、鈴明(リンメイ)達は私達の後に入るだろうと思ったからだ。

鞄は簡素なものだが、刺繍を習った時に余った布で作ってみた。簡単に縫っただけだが、肩に掛けられるし、杖をつく私には風呂敷を抱えるよりも、楽に荷物を運べる。

巾着やカゴの様な物は沢山あるのだが、貴族には基本、お付きがいるので、荷物を持つ習慣がない。

大きな物は、屋敷に直に運ばせるし、小さい物なら馬車で持って帰る。だから、お金を入れる巾着や香袋などの小さい物が多く、庶民はそんなに多くの物を買わないので、カゴで十分。旅には衣を風呂敷に包んで、先を結び背中に背負う。

だから、鞄を持つことはない。

自分の着替えと、心細いほど小さな布の体拭き3枚をそれに入れて、支度を完了する。

昼食が済むと、やっと立ち直った炎珠(エンジュ)が私を呼びに来た。

ここから1刻ほど、馬車に揺られるらしい。

鞄を肩に掛けると、見慣れない物に炎珠(エンジュ)が不思議そうな目を向けてくる。

「桜綾(オウリン)様。これは、何ですか?お荷物はどこに?」

そう!その反応が一番嬉しい。

「荷物はここ。全部入ってるから、炎珠(エンジュ)は自分の荷物を持って。」

炎珠(エンジュ)は私の鞄を覗いたり、触ってみたりしていたが、急に我に返り

「いえいえ、桜綾(オウリン)様に荷物を持たすなど、出来ません。私が持ちます!」

そう言って私から鞄を取り上げた。が・・・鞄のかけ方が分からないらしい。

私は笑いながら、炎珠(エンジュ)の肩に鞄を斜めに掛ける。

炎珠(エンジュ)はお役目とはいえ、その鞄を掛けることを喜んでいる。

綺麗な柄で鈴明(リンメイ)達にも作れば喜ぶかもしれない。

荷物を持たれ、手ぶらになった私は、馬車へ向かって歩き始めた。

途中、母と鈴明(リンメイ)に出会い、一緒に屋敷から出立する。

女ばかりの馬車の中は、私が作った鞄の話題で持ちきりになり、母が作り方を知りたいというので、帰ったら教えることになった。

おかげで揺れる馬車の中の時間もすぐに過ぎた。

馬車が止まると、そこは塀に囲まれており、門番に宇航(ユーハン)様が顔を見せると、すんなりと中へ入れた。

思っていた以上に広い。真ん中に仕切りがあるのは、男女を区別するための物だろう。

それでも、泳げる広さはある。

湯煙の奥に見えるのが脱衣所か。屋敷ほど大きくはないが、立派な建物のようだ。

その建物まで少し歩き、建物の全貌が見える。近くで見ると、間口は狭いが、奥行きがある。

中には、脱衣所だけでなく、内風呂があり、休憩するための茶室まであるし、その奥には宿泊できる部屋もある。

湯治に訪れる事もあるのだろうから、当たり前かもしれないが、その規模に驚きを隠せなかった。

「桜綾(オウリン)、せっかく来たのだから、今日はここへ泊まりましょうね。」

お母様は上機嫌だ。

「でも、私着替えを1着しか持ってきませんでした。どうしましょう。」

「大丈夫よ。炎珠(エンジュ)に言って持ってこさせてあります。」

母は始めからここへ泊まるつもりだったのか。

しっかりと準備している辺りは、抜け目ない。

荷物を炎珠(エンジュ)達が運んでいる間に、私と母は先に温泉を堪能することにした。

炎珠(エンジュ)から鞄を受け取り、布と石鹸を取り出す。

白の薄い衣を着たまま入浴するのが普通なので、私もそれに倣い、かけ湯の後に温泉に浸かる。

少し熱めのお湯で白濁の湯だが、開放感のあるお風呂にゆったりと浸かる。

母は、衣の上からは分からなかったが、随分と立派な体つきで、肌も綺麗だ。つい自分の体と見比べてしまった。

それを見ていた母が、クスクス笑いながら、

「桜綾(オウリン)はまだまだこれから、大きくなるわ。」

と励ましてくれる。

しかし、私の体は細いだけではない。傷が跡になって残っている部分もあって、決して綺麗な肌とは言えない。

以前なら気にもしなかったが、なぜ今はこんなに気になるのだろう。

「桜綾(オウリン)。本当に辛い思いをしてきたのね・・・女の子の体にこんな傷を付けるとは。さぞ苦しかったでしょう。朱有に帰ったら、母が傷を薄くする薬を探しましょう。心の傷は、私と旦那様できっと・・・」

そこまで言うと、母は泣き出してしまった。私の傷を見たことで、母の心を痛めてしまったのだ。

「お母様。大丈夫です。こんな傷くらい。お嫁に行けなくても、お母様とお父様の側にいられれば十分です。」

私が笑顔でそういうと、母は更に涙を増し、私を抱きしめる。

こんなにも母は私に優しい。

「お母様、せっかく石鹸が出来たのです。一緒に試しませんか?」

そう言って母の気を紛らわす。このままではずっと泣いていそうだ。

「そう、そうね。せっかく桜綾(オウリン)が作ったんですもの。ぜひ使ってみたいわ。」

母に温泉の岩場の平らな部分に腰掛けてもらい、作った石鹸を手に馴染ませてから、髪の毛と頭皮を洗う。

泡立ちはやはり少ないが、それでも髪の指通りは良い様に思う。そのまま母に体も洗ってもらう。

持ってきた布に石鹸を付け、背中部分だけは私が洗った。

母が体を洗っている間に、私も自分の髪と体を洗う。水だけの時に比べて、頭と体がすっきりした。

母の石鹸も洗い流し、感想を聞いてみる。

「これは本当に桜綾(オウリン)が作ったの?とても良い物ね。頭も体も何だか軽くなったようだわ。それに香りがいいわね。これはまだ作れる?」

よほど気に入ったのか、詰め寄ってくる。

「お母様、まだ試作段階ですが、作れますよ。何だったら、お母様の好きな香りで作れるかもしれません。お母様はどんな香りが好みですか?」

「そうね、桜や梅の様な優しい香りが好きだわ。きつい香りは苦手。この石鹸も香るけれど、あまりきつい香りではないから、この香りでもいいのよ。」

私が作った石鹸の香りを嗅ぎながら答える。

桜や梅は難しいかもしれない。確か、桜や梅は真空にしないと香りを取り出せなかった気がする。

でも、淡い香りの物を何か考えてみよう。

「本当に桜綾(オウリン)はいろんな物を作れるの?」

母が温泉に足を付けたまま、質問してくる。

「何でもと言うわけにはいきません。それに曖昧な物も多いです。でも、少しでもどんな物でも楽になることは悪い事ではないし、元々は私が楽をしたくて、作り始めた物ですから、人の役に立つかは、それを作って見てからでないと分かりません。師匠がいるので、何とか形になる物の方が多いかと思います。」

「桜綾(オウリン)は、楽しいのかしら?物を作るのは。」

「はい。今は楽しいです。喜んで使ってくださる方がいるので。」

作った物を使い喜んでもらうことで、自分の価値を得られた気がする。

生きるために必死だった時とは違う、自分の価値。

それをくれたのは今、私の周りにいる人達だ。

「そう。楽しいのならよかった。でも辛い事があったら、隠さず話して欲しいの。少しでも桜綾(オウリン)の力になりたいと思っているのよ。」

そう行ってくれる母を今度は私が抱きしめた。私の苦しさを喜ぶ人は大勢いた。でも今はその苦しさを思って泣いてくれる存在がある。それが嬉しかった。

その後も温泉に浸かったり、足湯をしたりして、おしゃべりをしながら、長い間、母と二人の時間を楽しんだ。




私達が温泉から上がると、今度は鈴明(リンメイ)、炎珠(エンジュ)、夏月(カゲツ)さんが温泉へ入る。

茶の間には先に上がった宇航(ユーハン)様と師匠が、お茶を飲んでいた。

「随分ゆっくり入っていたね。ここは怪我や打ち身にも効能がある。桜綾(オウリン)の足にも効果があると良いのだが。」

「ありがとうございます。母と楽しませて頂きました。」

師匠の前の席に座り、宇航(ユーハン)様に礼を言うと、

「いや、桜綾(オウリン)の作った石鹸のおかげで、こちらも清々しい気分だ。あれは、この前言っていた改良版のほうかい?」

「はい。元は固形・・・つまり固まった形の物を削ってお湯で溶かし、泡活草で泡が出るようにした物です。でももっと改良したいのですが。」

「これでも十分だと思うが・・・まだ改良するのか?」

「固形の状態でも、使うときに泡立つようにしたいのです。今は使用前に振ることで無理矢理、泡立てているような物なので、それに、固形にしてもまだ柔らかく、体や顔などに使う分にはいいですが、洗濯には向いておりません。」

結局、石鹸の話になる。

「固さが足りないので、油と灰汁のバランスや、出来た石鹸を干す日にちなどを変えながら、作って見るつもりでございます。石鹸として作用することは分かりましたので。」

いくら記憶の中にあっても、実際に作り出すことは難しい。記憶は記憶であって体験ではないのだから。

桜が経験していたことは、詳細にまねが出来るが、記憶は朧気なものもある。

それを活かして作り出すのは、私と師匠なのだから。

桜が得意なことは、書物を読み知識を得ること。それから編み物や裁縫、絵を描くこと。それくらいだ。

絵が得意なだけあって、図を書くことは簡単だ。鞄を作ることも。だが、記憶にある知識の方が遙かに役に立っている。

これから作る物も、きっと試行錯誤をしながら作ることだろう。

「所で憂炎、何か新しい物を作っていると鈴明(リンメイ)に聞いたが、できたのか?」

お茶をがぶ飲みしていた師匠は、急に話を振られて、驚いたのか咽せる。

「急に・・・ゴホっ話を振るなよ。桜綾(オウリン)に頼まれたやつだろ?柄の部分は出来たんだが、その後が詰まっている。布を取り外せるようにするには、部品を付けたり外したり出来なければいけないんだが・・・。桜綾(オウリン)、何か出来ないか?」

つまり、雑巾を挟む部分に苦労しているのだろう。

「柄は図通りに出来たのよね?竹で作ったんでしょうね?」

「言われた通り竹で作った。」

「なら、その両端に穴を開けて押さえ棒の方の両端をそこの穴に通るくらいに削って、竹の反発力を利用して。取り外しが出来るようにしたらいいんじゃない?」

「すまん。お前の言っている事の半分も理解出来ん。いつものように図で説明してくれ。」

仕方なく近くにあった机から墨と筆を拝借し、紙に簡単な図を書いて説明する。

風呂上がりに墨など使いたくないが、確かに言葉だけで理解してもらうには難しい。

その様子を宇航(ユーハン)と母は見聞きしている。

一通り説明し終わると、師匠はやっと納得してくれた。

「こうやって物が出来ていくのね。で、これは何を作ろうとしているのかしら?」

図を見ても未知の物なのだから分からなくて当然。母にその使い方を説明する。

「それはいいわね。うちの侍女達も毎日大変そうだもの。完成したら、うちでも使いましょう!」

「そうだね。廊下などは砂もすごいから、これがあれば、誰でも掃除出来そうだ。」

二人ともノリノリだが、まだ完成していないし、まだ改良も必要になる。

きっと師匠のことだ。ここから帰ったらすぐに作業を始めるはず。そうなれば、近々試作品ができあがるだろう。

そこから使用してみて改良すれば、珠璃にいる間には出来上がるはず。

「完成したらお見せします。もしかしたら、思ったようにはいかない可能性もありますので。あまり期待せずにお待ちください。」

「桜綾(オウリン)、俺が作れないと思っているのか!それはちょっとひどいじゃないか!」

「師匠・・・だれも師匠が作れないなんて言ってないでしょ。私の図が間違っている可能性もあるって言いたいの。もう。一人で何怒ってんの。」

いつものように師匠と言い合いをしている所へ、鈴明(リンメイ)達が帰ってきた。

「また喧嘩してるの?せっかくいい気持ちで出てきたのに。全く。」

鈴明(リンメイ)が私と師匠の喧嘩を窘める。師匠も私も鈴明(リンメイ)には何故か逆らえない。

「領主様、夕食はどうなさいますか?こちらで召し上がるのなら、ご用意いたしますが。」

夏月(カゲツ)さんが宇航(ユーハン)様に確認を取る。

「いや、私は予定通り、もう少ししたら朱有へ向かう。他の物の食事の手配は済ませてあるから、桜綾(オウリン)達はゆっくり療養したらいい。」

来るときも去るときも、急に知らされる。

せっかくここで疲れを取ったのに、また疲れる帰路につくのかと思うと、心配にもなる。

夏月(カゲツ)さんは頷いて、領主様の後ろの席に炎珠(エンジュ)と共に座り、お茶を飲み始めた。

姉妹で並ぶと、どちらも美しいと再確認させられる。夏月(カゲツ)さんは冷静で凜とした美しさを、炎珠(エンジュ)は勝ち気で華やかな美しさを持っている。私なんかより、よっぽどお嬢様にふさわしい。きっと私と衣を交換したら、2人に求婚してくる男性は両手でも足りない数になるだろう。宇航(ユーハン)様と並ぶにふさわしい。

(そういえば、宇航(ユーハン)様は結婚しないのかな?領主なら選び放題だろうに。私的には夏月(カゲツ)さんが一番いいと思うけど。

夏月(カゲツ)さんが朱色の衣を着たら似合うだろうな・・・)

なんて勝手なことを考えながら、2人の姿に見入っていた。

「どうした?あの姉妹がきになるのかい?」

私が勝手な妄想を巡らせて楽しんでいたら、急に宇航(ユーハン)様に現実へと引き戻される。

「へっ?あっああ。いやあの、2人とも仲いいなと思いまして。その、私にも弟がいましたが、あんな風に仲良くはなかったので・・・しかもお二人とも綺麗だなと。羨ましく思っておりました。」

あまりに大きな声でしどろもどろに答えたので、夏月(カゲツ)さんと炎珠(エンジュ)は照れたのか、顔を赤くして下を向いている。

慌てて私も口を押さえたが、もう後の祭り。その場にいた夏月(カゲツ)さんと炎珠(エンジュ)以外の全員が笑っている。

扉の外の護衛さんまで肩をふるわせているのが分かる。

今度は私が赤くなる番だ。耳まで燃えるように熱い。いくら妄想を知られない為だからとはいえ、何てことを口走ったんだか。

「あはははは。夏月(カゲツ)、炎珠(エンジュ)。桜綾(オウリン)はお前達が憧れらしい。確かに二人とも綺麗だもんなぁ宇航(ユーハン)?」

師匠がまた軽口を叩く。

「夏月(カゲツ)も炎珠(エンジュ)も私の家臣だ。他意はない。姉妹の仲がいいことは認めるがな。」

(もう、この話題から離れてよ・・・・)

「領主様、そろそろ出立のお時間かと・・・」

(助かった・・・ありがとう、夏月(カゲツ)さん!)

まだ赤い顔をしてはいるが、夏月(カゲツ)さんが宇航(ユーハン)様に出立を促す。

促してくれたのは助かったものの、もう宇航(ユーハン)様が帰られるのかと思うと何故か胸の辺りがチクッとする。

それでもそれは一瞬で治まる。

「桜綾(オウリン)、次は朱有で会おう。」

「はい。領主様も道中お気を付けてお戻りください。」

その会話の後すぐに、宇航(ユーハン)様と夏月(カゲツ)さんは去って行った。

最敬礼で見送り顔を上げると、そこに炎珠(エンジュ)が立っていた。

「桜綾(オウリン)様、何てことをおっしゃるのですか。仲がいいのはいいとしても、護衛に綺麗なんて言ってはいけません!」

「何故?綺麗な物は綺麗でしょ?褒めたのに怒られるなんて、おかしいじゃない。」

確かに大声で叫んだのは、はしたないが、頭で妄想していたことの方がもっと不敬だ。

「恥ずかしいじゃないですか。私の顔から火が噴きそうでしたよ。しかも、領主様の御前で褒めるなんて。」

(つまり恥ずかしすぎて、怒ってる?)

炎珠(エンジュ)は普段からそそっかしい所があるが、仕事に対して妥協をせず、きちんとこなす。他の下働きや護衛の人達からも信頼されている。

きっと炎珠(エンジュ)の魅力に気づいている男性も多いだろう。

それを誰も素直に口にしないだけだ。

「炎珠(エンジュ)は綺麗だし、鈴明(リンメイ)は可愛い。お母様は美しいし、お父様は凜々しい。師匠は・・・うん、賢い。」

「なんで俺だけ、詰まった上に外見じゃないんだ?俺だって十分にいい男だ!」

師匠はまたもむくれているが、ちゃんと褒めたじゃない!取りあえず放っておこう。鈴明(リンメイ)は嬉しそうにしているし、皆を褒めたことで、炎珠(エンジュ)の顔色は戻っている。ほっと胸をなで下ろしていると、

「では、宇航(ユーハン)様は?」

母が私の話に乗ってくる。

「領主様は・・・正直、表現出来ません。それでも敢えて言うなら、神々しいですかね?」

その答えに母は微笑みながら、

「宇航(ユーハン)様はきっと、桜綾(オウリン)にそんな風に見て欲しいとは思っていないでしょうね。気の毒に・・・」

そう言われたが、今の答えのどこが気の毒なのか、全く分からない。それとも失礼ということか?

「私、何か失礼になるようなことを言ってしまいましたか?」

恐る恐る聞くと、母はあきらめ顔で

「いいえ。何も。桜綾(オウリン)は素直なのね。良くあの環境の中、こんなに素直に・・・」

(あっこれ、また泣くな・・・)

「お母様、それより食事にしませんか?私、なんだかお腹がすきました。」

慌てて話を変えると、母はそうねと返事をして、炎珠(エンジュ)達に食事を運ぶように言う。

自分が泣くより、自分の痛みで人が泣く方が何倍も辛い。

だから、私の周りの人には笑っていて欲しい。

いつの間にか用意されていた料理が机に並ぶ。5人しかいないので、この際仕来りはなしにして、皆で食事をすることにする。

貴族様と食事をすることは、不敬にあたることと承知の上だが、母は私がそうしたいといえば、してくれる。

公の場では出来ない事は私も承知している。なので、皆から離れているときだけ、こうして皆でご飯を食べる。

お酒が飲めるようになった私は、師匠に付き合って、少しだけお酒を飲む。さすがに、母の前で炎珠(エンジュ)は飲むことはしない。

後で少し持って行かせようと一瓶取ってある。

こんななりでも、どうやらお酒には強いらしく、師匠の方が先に酔ってしまう。

酔った師匠を早々に部屋へ送り、母と父のなれそめを聞いたり、鈴明(リンメイ)のお気に入りの護衛さんの話を聞いたりと、女4人で話を楽しんだ。

夜も更けた頃、そろそろ各部屋へ戻るときに、そっと炎珠(エンジュ)に酒瓶を渡す。

思った以上に喜んでいたが、明日、体調を崩さないでねと釘はさしておいた。

今日も月が綺麗に浮かんでいる。

私も部屋へ入ると、柔らかな布団に包まれて、眠りに付いた。


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