第21話 打ち上げは必須

「ガラスのジョッキってあるんだな」


 ジョッキのビールを空けた後、シュガーがぷはぁと声が漏れた。


「ほら異世界物って、ポーションの瓶とかガラス窓とかあるのに、大抵は木のジョッキだろ?」


 子どもの見た目なのにシュガーは酔った様子も無く、淡々とツマミと酒を口に運んでいる。

 ダンジョンから戻った下見部隊は、迎えにきた家族や友人に中の様子を話している。興奮を抑えられないのか、身振りや話し声が大きい。

 冒険者ギルド長のフランツが、ギルドの前に椅子とテーブルを用意して、即席の打ち上げ会場が出来ていた。


 テッツオもユーリたちに迎えられ、屋台の串焼きを食べた。


「テッツオさんが帰ってくるまで、ユーリさんは食べるのを我慢してたんですよ」


 アンナが微笑んでそう言う。お祭りみたいなこの香りの中で、シュガーとアンナにも我慢を強いていたそうだ。


「てっちゃんはボスを倒したんでしょ?」


 ユーリがキラキラした目で話を聞きにきた。


「後から聞いた話じゃ、みんなどっかのダンジョンで倒したことある奴だったみたいだよ」


 テッツオがそう言いながらアンナを見ると、彼女も倒した事があるのか自慢げに頷いている。


「火に弱いと聞いていたので魔法で燃やしましたが、煙と匂いで大変でした」


 誇らしげにアンナが言う。火の魔法は派手で見栄えが良いが、狭い屋内では評判が良くなかろうとテッツオは心配してしまう。


 シュガーは、テッツオがテーブルの上に置いた木の杖を触っている。ブラックパインの杖を縦と横に伸ばして板状に変えて何を作ろうとしているのだろうか。


「しなやかだけれど丈夫な素材。おまけに燃えやすい。決めた、橋の素材はこれだ」


 土台になる部分は石材で作る事が決まっている橋の、上の部分は何で作るのかはまだ決めていなかった。


「でも、燃えやすいっていうのはあまり良くないのでは?」


 と、アンナが疑問を口にする。その問いに首を振ったシュガーは


「攻められた時に燃えやすい素材ってのは便利でしょ」


 と、答えた。彼は両岸の中央政府をまだ信用していないらしい。まぁ、ナパやサリーの中央政府への愚痴を聞けば、テッツオもしょうがないとは思ったけれど。


「おっ、テッツオ、ちょうどいい所にいた」


 そう言って冒険者ギルド長のフランツがテッツオの斜め前に腰掛ける。


「明日ダンジョンのエントランスの通路に柵を作ろうと思うんだが、手伝ってくれないか?」


 冒険者ギルド一のアイディアマンが、ブラッドリザード対策を何もしないとは思わなかったが、帰った翌日に作ろうとするとは……。

 そもそもダンジョンのエントランスの花道とは、高さは30〜40センチ、幅は2メートル、ドーム状の部屋の入り口から地下へ降りる階段への扉まで20メートルほど続いている道の事である。

 普段のおとなしいブラッドリザードなら超えてこない高さだが、血の匂いを嗅いで正気を失った彼らなら、容易に飛び越える高さだろう。


「じゃあ、ゆっちゃんとミアにも手伝ってもらわなきゃ」


 とテッツオが言うと、ユーリが嬉しそうに笑った。


「ついにわたしもダンジョンデビューだ」


 拳を突き上げるユーリに周りから拍手が起こる。テッツオはエントランスはダンジョンでは無いのではと思ったが、それは言わないことにする。

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