第17話 防具屋は街の楽器店みたいで

 翌日、テッツオは防具屋にいた。

 モントローズの冒険者ギルドの2軒隣の店である。


「ガーフィールド商会もどっかの門の名前狙ってるの?」


 テッツオの隣で色々アドバイスをするリオネルに、野次馬で着いてきたユーリが声をかける。


「さぁどうだろう?命名権オークションなんてものは初めてだから、父も兄たちも気が立って大変なんだ」


 昨日、命名権を売ろうと言い出したシュガーに、面白そうと悪ノリしたナパとサリーが加わってその場でオークションの大まかなルールまで決め始めた。

 オークションに参加するには一箇所につき一枚のチケットが必要で、命名権が得られなくても競売に参加するとチケットは無くなる。

 また、チケットは島への入居予定者に一枚ずつ配られ、そのチケットの譲渡や転売は可能、命名権を購入したあとの権利の譲渡も可能とした。


「権利を購入した後に貴族に貢ごうとしたり、金持ちにチケットを高く売り込もうとしたり、情報戦が酷いみたいだよ」


 リオネルはあからさまにぐったりしている。


「アンナも印刷したチケットの偽造防止の仕組みをどうするか頭を抱えてるわ」


 そう言ってユーリはリオネルと笑い合った。

 その横でテッツオは手袋を見ている。ダンジョンの下見を明日に控えて、無理矢理の参加となったテッツオは、急遽防具を見繕う事になったからだ。

 壁一面に盾や鎧が並べられ、店主は奥で皮に油を塗っている。少しだけ現代日本の楽器屋に見えて、テッツオはあっちの世界で聴いていたロックバンドの今を思った。


「前線には出ないだろうから、動きやすさ重視でいいよ。それより靴の予備とグローブ選びの方が重要だよ」


 皮の胸当てとグローブと靴、それに目を守るための帽子を買った。

 買い物袋に入れる前にユーリに軽くしてもらう。物静かな店主が物珍しそうに見ていた。


 初めて訪れた時に比べて、モントローズの街中を行く人の数が明らかに増えている。島の開発に関わる職人はもちろん、彼らが泊まる宿や立ち寄る食堂、道具屋、風俗店など、あらゆる業種の人々が多忙を極めている。


「12月ってのもありますけど、普段の倍は賑わってるよ」


 リオネルが嬉しそうに語る。


 昼が一番短い日に、新しい年を迎えるこの大陸の暦は、3本の大河を国境とすると取り決められた150年前のあの会議でともに決められたらしい。

 365日で1年、そこに12の月があり、7つの曜日がある。ついでに閏年もある。

 モントローズ侯爵夫人で異界人のナオミ様に言わせれば、この星は遠い過去で枝分かれした別の次元の地球らしい。だから1年の長さが同じなのだと。

『両手の指の本数が10本だから十進法なのはわかるけど、曜日が7つなのは明らかにおかしい』などと、シュガーが騒いでいたのを思い出して、テッツオはニヤけてしまう。


 リオネルとユーリの背中を追いながら、テッツオは夕陽に染まるモントローズの街を歩く。


 この世界に来て半月の日々は目まぐるしい毎日の連続だった。

 さらに明日、テッツオはダンジョンに行く。正確には、明日ダンジョンに入る人について行く。

 

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