領地と領民
第14話 帰還
高らかと角笛が鳴り響くと、オフィウクス辺境伯領都【ラサルハグェ】の人々は歓喜に包まれる。
それは『勝利』の響き。
精強たる領軍兵たちが、またひとつ大森林からの脅威を打ち破った証左であった。
「やったぁ!また勝ったぞ!」
「さすがは領軍ね」
「おい、見に行こうぜ!」
「うん」
「あ~ん、待ってよぉ~」
領軍の帰還を知った人々は、老若男女、人種を問わず誰もが正門へと殺到する。
それは、勝利した領軍兵士たちの勇姿を拝むため。
そして、領軍がたたかいで得た獲物を確かめるために。
「お……おい、なんだよあれ……」
「クソでけえ蛇の頭だ……」
「蛇……なのか?」
「あんなに大きな蛇った見たことあるか?」
「いや」
「ムウ……あれが世に聞く【『混成竜』ペルーダ】……」
「知っているのかトゥルエノ……?」
普段は隊列を組んだ兵士たちが、獲物を山のように載せた台車を引いて領都の門をくぐるのだが、今回の凱旋はいつもと趣が異なっていた。
隊列の先頭を、屈強な5騎の兵士たちが進んでいる。
そんな彼らが高々と掲げた槍先には、5人がかりでようやく持ち上げられるほどに大きな、蛇の頭が突き刺さっていた。
やや演出めいた行進ではあるが、それだけの偉業だったということを知らしめるには十分な効果があった。
まさか、これほどの魔物が大森林に存在していたとはと驚く者。
未だ見たことのない大物を前に心を踊らせる者。
それを討伐した領軍兵たちへの憧れを抱く者。
それぞれの思いを持って領都の人々は、まるで英雄の凱旋とばかりに大歓声を上げる。
耳をつんざくほどの歓迎の声に包まれた一隊が領都の中央広場まで至ると、彼らは馬の足を止める。
蛇の頭を突き刺した槍を持つ5人が、さらに高々と槍を掲げると地鳴りのような雄叫びがあちらこちらから巻き起こる。
そんな大音声の中、人々の前に進み出たのは、今回の派遣軍で副官の立場にあったファン。
彼は周囲の人々をぐるりと見回すと、突然に大声を上げる。
「聞けい!東方不落たる領都ラサルハグェの人々よ!今回、
若き貴族家の当主の言葉に、何があるのかと興味を持った人々は耳を傾ける。
すると、それまで大騒ぎしていたのが、まるで嘘のように静まりかえる。
そんな雰囲気の中にあっても、ファンの口上は止まらない。
「だが、いくら精鋭たる我らであっても、Aランクの竜を討ち果たすに至らず。誰もが死を覚悟した…………」
話の内容が物騒なことになってきたために、周囲にざわめきが起きる。
ファンはこの時を待っていたとばかりに広角を上げると、胸を張って高らかに宣ずる。
「だが、そこにひとりの英雄が現れた!ペルーダをたったひとりで討ち果たした男!!」
ファンが領都の門へと左手を向けると、人々の視線がそちらに向かう。
ガリガリガリガリ…………。
するとそこには、小高い丘のような何かが見える。
ガリガリガリガリ…………。
「あれ?あんなところに丘があったっけ?」
「ホントだ…………って丘?山?」
「いや違うよ」
「動いて……来てる……?」
「まさか……」
「ええっ!?」
「えええっ!?」
「「「うおおおおおおおおおおお!!」」」
当初は、それが何であるか理解できなかった人々。
だがそれが、だんだんと領都まで近づいてくるにつれて人々のざわめきが大きくなる。
そして、それがたったひとりで山のように大きな甲羅を運ぶ男の姿だと分かると、人々の興奮は絶頂を迎える。
「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」
「あれは!」
「あれは!」
「あれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もはや狂喜乱舞とも言える雰囲気の中、ファンは誰よりも大きな声で叫ぶ。
「彼の名は、【アルフレート・ディラ・オフィウクス】!次期辺境伯だ!」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
竜の甲羅を運んでくる次期辺境伯……。
ちょっと見れば手の込んだ拷問にも見えるという……。
とりあえず、新章開始です。
今後ともよろしくお願いいたします。
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