第13話 嘆息

「ともかく、お前のすべきことはあのお方を補助して大望を成就させることだ」

「何だよ……その大願ってよ?」

「…………分からん」

「はぁ?」

「だが、セバスはアルフレート様のお力は、世界が……時代が、それを望んだからだと言っておった」

「世界?時代、だと……?」

「賢いお前のことだ。この国を取り巻く現状は理解しておろう」

「クソ国王の求心力の無さ。弱腰外交に上がり続ける税。汚職がまかり通る王宮……正直言って先が見えねえな……」

「だからこそ、時代の寵児が求められたのだ……と、セバスが力説してた」

「あの爺さん、どんだけ期待をかけてるんだよ……」

「どのみち、我ら古い世代は若には付き従うことは能わないだろう。せいぜいがその露払いをするばかり。後はお前らに任せるしかないってことだ……。せいぜい精進することだな」



 アルフレートの勇姿を見守りながらも、親子の会話は続いていた。

 息子は父親の勝手な言い分に、思わず怒りを覚える。

 結局のところ、アルフレートの常人離れした力の謎は一切解けていないばかりか、それをずっと補佐して行けと言われても、どう折り合いをつければ良いのかが分からないのだ。


「難しく考えるな。ただただ、その目で見たものを、その耳で聞いたことを信じていけばいいのだ」


 すごくいいことを言ったとばかりにドヤ顔をする父親を、氷点下の冷たい目で見るファン。

 要は行き当たりばったりに行けということだろう。


 あまりにも無責任な、父親の姿にファンは拳を握りしめる。



 そうこうするうちに、『混成竜』ペルーダを単独で討ち取った『竜殺し』の英雄は、ひらりと獲物の腹の上から飛び降りると、屈託のない笑顔を向けながらファンのもとへとやって来る。


「どうだ!見たか!」


 そう自分に得意気に呼びかけてくるアルフレートの姿を見て、ファンは内心でハイハイと雑な思いを抱く。

 確かにスゲェことだが、オレに心配をかけさせるんじゃねぇよ、と。

 もっとも、それは知らなかった自分が悪いのだが、自分の心の中で思う分には問題ないだろう。


(最初から、自分は大丈夫だから心配するなと言っていけ!!)


 それはあまりにも自分勝手な思いであった。


       ★★ 


 若くして子爵位を賜る【ファン・デ・ループス】は、どうして自分はいつもいつも苦労をさせられるのだと不満を抱く。


 どいつもこいつも、全て自分に後始末を押しつけて来る。


 屈託のない笑みを浮かべてこちらへと戻って来る幼馴染みを見ては嘆息するファン。



 父親に言われなくとも、ぼんやりとアルフレートについていくことは決めていた。

 自分は辺境伯家の下にある【辺境三家】の一、ループス小熊座家の嫡男だ。

 主家に侍るのは当然のことだ。


 適当に仕えて、適当に魔物を狩って、適当に……結婚をして、適当に後継ぎを残して、適当に死んでいく。

 そんな人生だと思っていたのだが、父親の言葉によれば、少々……否、かなり波乱万丈な道になるらしい。


 だが、どこかで、それでも構わないと思う自分がいる。


 どうしてそんな人生を良しとするのか?


 そう自分に問いかけたファンは、ここに至って、アルフレートの行く末を間近で見たいのだと自覚した。


 自由奔放で軽率短慮な男ではあるが、その性質は【善】

 世の中の不条理に怒り、弱気ものを助く。

 しかも、単なる配下である自分の危機を、身をもって守るほどのお人好し。


 そんな男の生き様は、きっと面白いのだろうと思ってしまったのだ。


 こうなりゃ、面倒事上等だ。


 俺はこの男に一生ついていくと、再び心に誓った瞬間であった。

 

 だが…………。


「クソアルッ!テメエ、血塗れじゃねえか!汚えッ!コラ、テメエ!チョッ……チョ、こっち来んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「えっ?別に、このくらい構わないと思うが?」

「血だらけなんだよ!テメエの身体はよ!血が……血が着くだろうが!」

「ハッハッハ。ずいぶんと気にするんだな?」

「テメエは、少しくらい気にしろ!って、ああああああああああああ、血がついたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 こうして、【アルフレート・ディラ・オフィウクス】という英雄に振り回される【ファン・デ・ループス】という男の苦労続きの人生が幕を上げるのだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


これで、一章は終わりです。

次回からは辺境伯領についてのお話です。



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モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューで評価していただけると幸いです。


 

 

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