第12話 先祖
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
アルフレートが裂帛の気合を込めて固く握りしめた拳をペルーダの腹へと振り下ろす。
地響きを伴う轟音と共に、腹の皮を突き破った拳がペルーダの心臓を穿つ。
「ギィ……ギェェェェェ……」
それが『混成竜』と称されたペルーダの最後であった。
弱々しく断末魔を上げたペルーダの瞳からは光が失われ、その手足はだらりと弛緩する。
大森林からの脅威を退けた瞬間、それを見守っていた領軍兵士たちから歓喜の雄叫びが上がる。
それは、アルフレートの打撃音にも勝るほどの歓声であった。
「竜を……。【
「うむ。さすがは若様だな」
ペルーダの巨躯の上で拳を天に突き上げるアルフレートの姿は、まるで物語の英雄かと見紛うばかり。
そんな現実離れした光景を呆然と眺めているのは幼馴染みのファンと、満足そうに頷くその父親のジョエルであった。
「クソ親父、あれは……、アルのあれはいったいなんなんだ……」
自分の理外の現実を前にして、ついに父親に頭を下げるファン。
それは明らかに彼の成長であった。
これまでならば、つまらないプライドに邪魔をされて必要とすべきことを為さずにいたであろう。
だが、目の前の規格外を前にして、ファンはそんなちっぽけなことに拘っている状況ではないと判断したのだ。
ジョエルは忸怩たる思いながらも、自分の助言を必要とした息子の成長を嬉しく思いつつ、自らが知り得るアルフレートについて語る。
「若は……先祖返りだそうだ」
「先祖返りぃ?」
「ああ、
「領祖様?確か……【リョウマ・ディラ・オフィウクス】様だったか?建国期にこの辺境伯を任されたという……」
「うぬ。そのとおり。その領祖様は、ずいぶんと神々に愛されていたらしい」
「神々の寵愛というヤツか?」
「そうだな。頑健な肉体と強大な剛力、膨大な魔力を与えられていたという。そして先祖返りの若は、そんな領祖様と同じだけの能力を有しているらしい」
「はぁ?何だそりゃ?そんな荒唐無稽なこと誰が言ってるんだよ?」
「【セバス】だ……」
「あン?ああ……そっか……、そうかよ……」
父親から告げられた名前を聞いて、それならばあながち間違いではないのかもと思ってしまうファン。
セバス―――【セバスチャン】は代々の辺境伯に支えている老執事だ。
金色の長い髪を背中で束ね、真っ白な顎髭姿の彼は、見た目は還暦を越えた老人なのだが、先々代が幼かったころから既にジジイだったとも聞く年齢不詳の男。
そんな不可思議なる人物が語るのならば、もしかするとそれが真実なのではと思うに至ったファンであった。
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