第11話 親子

「よいしょぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 楽しげなかけ声とともに、ガツンガツンとハンマーを振り下ろすような重々しい音が大森林にこだまする。


「ギェェェェェェェェェェェェェェェ!!」

 

 すると、それと同時に耳をつんざくような悲鳴が上がる。


 悲鳴の主は、ひっくり返されてもはや自力では起き上がることが出来ないペルーダだ。

 大森林の中でも上位にカテゴリ分けされるような魔物が、今やただ一方的に殴られ続けるばかりであった。

 そして、ペルーダを殴りつけている張本人が、つい先ほど人の限界を遥かに越えるバカ力を見せつけたアルフレートであった。 

 

 アルフレートは、天を向いたペルーダの腹の上に立ち、渾身の力を込めて一撃一撃を足元に叩きつける。

 まるで隕石が落ちてきたかのような轟音と、地震が起きたかのような大地の揺れが、その一撃がどれほどの威力が込められているかを如実に物語っていた。


 無防備な腹を殴りつけられているペルーダの悲鳴は、段々と弱々しくなっていく。

 その生命の灯火は残りわずかだと、その場の誰もが確信していた。


「そいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「「そいやぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「「「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」


 アルフレートのかけ声に、周囲の領軍兵士たちから笑いのこもった合いの手が入る。

 もはや、戦いの趨勢は明らかで、ちょっとした見世物と化していた。


「どうしてこうなった……」


 初の討伐軍の補佐として意気揚々とやって来たはずのファンは、目の前のお祭り騒ぎを見て頭を抱える。


「出発前からずいぶんと緊張してたのって、アルのことを知らなかったから?」


 そんなファンに呆れたように声をかけるのは、幼馴染みのサラであった。


「また意地を張って、おじ様ジョエル様の話を聞かなかったんでしょ?」

「……な、何でそれを」

「それくらい、見れば分かるわよ。ホントに仲が悪いんだから……」


 自分と父親の仲が悪いことを指摘されて、ややふて腐れるファン。

 父親を嫌っている訳ではないのだが、どことなく素直になれない。

 そんな年頃なのだった。


「……いなくなってからじゃ遅いんだからね」


 その言葉を聞いてハッとするファン。

 サラは幼い頃に父親と死別し、以後は貴族の責任として神器レリックを手に戦場に立っていたのだった。

 それゆえに、幾度も戦場を共にしてアルフレートの異常な力も知っていたのだ。


「…………すまない」


 サラも雰囲気を悪くしてまで、そんなことを言うつもりはなかったのだが、不器用な親子関係を見ていると我慢が出来なかったのだ。


 どことなく、ぎこちない空気が流れるふたりは、無言でアルフレートを見つめるのであった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


予定では次回で今章を終えるつもりです。

アルフレートの力の秘密について少々触れてみます。


みなさんの応援でやる気が漲ります。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューで評価していただけると幸いです。


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