第10話 驚嘆

 完全に守りに入った相手に、武器を失ってどうするのかと心配するファン。

 だが、当のアルフレートは幼馴染みのそんな心配は他所に自然体でペルーダと対峙していた。


「確か、亀はこうすると死ぬと聞いていたんだがな……」


 甲羅に籠って出てこないペルーダを見上げたアルフレートは、そんなことをポツリと呟るとゆっくりと歩を進める。


 やがて、ペルーダの目の前までやって来たアルフレートは、やにわにその甲羅の縁を掴むと大声で叫ぶ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 列泊の気迫を込めた叫び声が、空気を震わせると、その場の誰もが信じられないことが起きる。


 ズ…………。


 重さで言えば、ちょっとした屋敷ほどはあろうペルーダが、ゆっくり……ゆっくりと持ち上がっている。


「嘘……だろ……?」

「まさか……」

「アイツを持ち上げた?」


 ファンを始めとした領軍兵士たちが口々に驚きの声を上げる。


「おおっ、さすがにそう来るとは……」


 そして、この中ではアルフレートの能力をよく理解しているであろうジョエルも、引きつった笑みを浮かべている。


 アルフレートが甲羅ごとペルーダを頭上まで持ち上げる。

 すると、さすがに危険だと判断したのかペルーダが甲羅から手足を出してジタバタと暴れ出す。


 ―――が。


 ときすでに遅し。


「おおおおおおおおりゃぁぁぁぁぁあ!!」


 全身から滝のような汗を流し、リンゴマールムのように顔を真っ赤にしたアルフレート。

 そのはち切れんばかりに漲った背中の筋肉は、まるで怒れる神のかおにも見える。

 アルフレートは、全身の力を振り絞って、ペルーダを抱えたまま真後ろへ倒れ込む。


 ドガァァァァァァァァァァ!!


 近くに自生する木々を巻き込み、耳をつんざく轟音と、膝をつくほどの地震を伴ってペルーダが勢いよく地面へと叩きつけられる。

 巻き上がる砂煙は光を遮り、一瞬だけ大森林に闇をもたらす。


 やがて砂煙が晴れたとき、その場にいた人々はペルーダが甲羅を下にひっくり返されたことを知る。


 倒れ込んだ拍子に砂まみれになったアルフレートは、ゆっくりと立ち上がると、口に入った砂を吐き出す。


「ウゲェ、ペッ、ペッぺ。ペッ……砂が入って……、ウゲェ……」


 なんともしまりのない姿ではあったが、彼が行った奇跡は、兵士たちの度肝を抜くには十分。

 あんぐりと口を開けた兵士たちの視線は、大地にひっくり返されてジタバタ手足を動かしているペルーダの姿を捉えていた。

 


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


…………抱え式バックドロップ。

なかなかない決着の仕方かと。



みなさんの応援でやる気が漲ります。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューで評価していただけると幸いです。


  

 

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