第9話 愕然
「マジかよ……」
ファンは目の前の光景を、あんぐりと口を開けてただただ見守っている。
『
ペルーダは紛れもなく強者である。
冒険者の討伐ランクで言えば、『Aランク』を下回ることは絶対にない。
おそらく、今回の
そんな凶悪な敵を、自分よりも小柄な男が圧倒しているのだ。
山のように大きなペルーダが人のアタマほどもある爪牙で攻撃してくるも、男はそれを簡単に受け止め、いなし、躱すのだった。
これは夢だと言われた方がまだ信じられるというものだ。
だが、そんな考えをペルーダの鳴き声がこれは現実だと吹き飛ばす。
ギャァァァァァァァァァァァ!!
ペルーダが上げている声は、威嚇ではなく悲鳴だ。
剥き出しになった身体には、無数の傷が走っている。
そしてついに、目の前の男に勝てないことを理解したペルーダが、亀のように甲羅の中へ頭や手足を引っ込めてしまう。
「……ふむ。こうなるとどうすればいいかな」
さっきまでペルーダを一方的に攻撃していたアルフレートは、甲羅に籠ってしまった魔物を見下ろしてそう呟く。
「とりあえず、これでどうかな?」
アルフレートは、手にしていたヒヒイロカネ製の長剣を大きく振りかぶると、ペルーダの甲羅に向かって渾身の力で振り下ろす。
大地が震えるような轟音とともに、半ばで真っ二つに折れた深紅の刀身が宙を舞う。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ヒヒイロカネと言えば、この世界でもアダマンタイトに次ぐ硬度を誇ると言われている。
それがペルーダの甲羅には歯も立たないばかりか、こうもあっさりと折れることに驚くファン。
そして、ヒヒイロカネの剣を折るほどの力を持った幼馴染みにも同様の思いを抱く。
「思ったよりも固かったなぁ……」
そう独りごちたアルフレートは、真っ二つに折れたヒヒイロカネの剣をポイと投げ捨てると、未だ甲羅の中から出てこようともしない魔物を見上げる。
「バッハッハ!さすがは若ですなぁ!どうしやす?俺の剣を貸しますかい?」
だが、これまでに何度も戦場を共にしていたというファンの父親は違う。
一切動じることもなく、呵々大笑しては自らの剣を差し出す。
ヒヒイロカネには及ばないものの、ミスリル製の上等な剣だ。
「ジョエル、ありがとう。でも、今は不要だ」
だが、アルフレートはその申し出を断る。
「じゃぁ、どうなさるんで?諦める?」
ずいぶんとあっさり引き下がったアルフレートの言葉を受けて、興味本位でジョエルはそう尋ねる。
すると、聞かれた本人は、その端正な顔に不敵な笑みを浮かべると、自信満々に答えるのだった。
「なぁに、ちょっと強引にいくだけだよ」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ようやく主人公の出番です。
さて、武器も失ったアルはどうするのか。
次回をお待ち下さい。
みなさんの応援でやる気が漲ります。
モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューで評価していただけると幸いです。
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