第8話 呆然

「おっ、おお。ファン、怪我はなかったか?」


 ペルーダの後方で立ち上がったアルフレートは、ファンの姿を見ると大きく手を振ってそう呼び掛ける。

 その屈託のない笑顔に、ファンは呑気な話をしてるなよと怒鳴りつけたくなる。


「バカッ!横だ!横を見ろよ!」


 アルフレートが無事だったのは喜ばしいことだ。

 だが、すぐ隣には立ち上がったアルフレートに気づいて威嚇を始めたペルーダがいることを分かっていない様子に、ファンは苛立ちを募らせる。


「早く逃げろよ!」


 ファンはそう叫ぶも、距離がある上に、隣でシャーシャーと煩いヤツがいるためによく聞き取れない。


「はぁ?何だって?」


 耳に手を当ててそんなことを言っているアルフレート。


「服?ん、あああっ!裸だぁぁぁぁ!!」


 すると、アルフレートはどこをどう聞き間違えたのか、自分の身体を見下ろしながらペタペタを肌に触れる。

 その結果、自分の鎧が砕け散って上半身が裸であることに気づく。



「違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!」


 そんなことを言ってるのではないと、ファンは苛立ちを隠せない。

 こんな状況で何をとぼけてやがると、アルフレートのもとへ駆け出すファン。


 しかし、その行動はわずかに遅かった。


 さっきから威嚇していたペルーダが、ついに堪えきれずに、アルフレートに向かって前足を振り下ろしたのだ。


「危ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ファンの叫びも虚しく、ペルーダの前足がアルフレートの頭上に迫る。

 今度こそアルフレートがペルーダに害されてしまうと幻視するファン。




………………………………………はぁ?


 だが、現実はそうならなかった。

 人の頭ほどの大きさがあるペルーダの爪を、アルフレートが片手で受け止めていたのだ。


「…………えっ?え?」


 思わず呆けてしまったファンに、父親のジョエルが追いつき、再びその頭に拳を落とす。


「ごあぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


 目の奥に火花が走り、耐え難い痛みがこれは現実だと物語っている。


「邪魔をするなと言っておろうが」

「ぐぅぅぅぅぅぅ……な、何を……」

「これが、お館様オフィウクス辺境伯が少数の兵士でも問題ないと判断した理由だ」

「はあ?」

「既に我々は一軍に匹敵する力を与えられていたのだよ」


 そう断言するジョエル。

 そんな彼に、アルフレートの声が飛ぶ。


「コイツ、ちょっと煩いんだけど、殺っても問題ないな?」


 すると、ジョエルは泣く子もさらに泣く凶悪な笑みで、大きく頷く。


「ご存分に」


 その瞬間、アルフレートが片手で抑えていたペルーダの前肢の爪が剥がれて宙に舞う。


 ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!


 ペルーダの怒声とも悲鳴とも判然としない声が周囲に響く。


 そんなペルーダに向き直ったアルフレートは、手に持った血塗れの爪をポイっと投げ捨てると、不敵な笑みを浮かべる。


「よしっ、いっちょヤルか」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


さあ、反撃開始。


みなさんの応援でやる気が漲ります。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューで評価していただけると幸いです。



 

 

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