第7話 狡狐

 【神器レリック】による攻撃を弾かれたファンは、大きく体勢を崩して地面に倒れ込む。

 【『混成竜』ペルーダ】がそんな好機を逃すはずもなく、己が大きな身体で倒れる男へのしかかろうと前足を振り上げる。 


 絶体絶命。


 ファンが眼前に迫る濃厚な死の気配に身動きが取れずにいると、その耳朶にサラの焦った声が届く。


「何、ボケッとしてるの!逃げなさい!」


 ペルーダの横っ面を、サラの神器が放つ魔力弾が叩く。

 たが、彼女自身、魔力の残量に乏しく思ったような威力は発揮出来なかった。


 それでも。


 ペルーダの意識を逸らすには十分な効果があった。

 風のようにファンの背後に回った、彼の父親がその鎧を引きずって危険地帯からの脱出を果たす。


「放せっ!アルが!アルがぁぁぁぁ!!」


 九死に一生を得たファンであったが、再びペルーダに襲いかからんばかりに前乗りになっている。

 このままでは、また無謀な攻撃を仕掛けかねないと判断したジョエルが、息子の頭に拳を振り下ろす。


 ガン、という痛々しい音が響く。


「うわぁ……、痛そう……」


 横目で親子のやり取りを見ていたサラが、あまりにも痛そうな拳に思わず顔をしかめる。


「うごぉおおおおおおおお……」

「落ち着け」


 唸り声を上げながら、頭をおさえてゴロゴロと転げ回るファンに向かって、歴戦の戦士であるジョエルが吐き捨てる。


お館様オフィウクス辺境伯が、この状況を予想していないはずがなかろうに」


 【狡狐】との二つ名を持つ【ルーカス・ディラ・オフィウクス】辺境伯は、神算鬼謀の持ち主として国内外に知られている。

 大陸に覇を唱えるトレミー神王国において唯一の神器なき貴族加護なき家の当主として、その知謀をもってありとあらゆる戦いに勝利してきた。


 そんな男の命を受けて、【大氾濫スタンピード】の鎮圧にやってきた領軍兵であったが、その総員は二個小隊程度。

 ペルーダを見たファンが、もっと戦力があればと歯ぎしりしたのだが、父親はその必要はないと断言したのだ。


お館様オフィウクス辺境伯に間違いはない。我らには十分な戦力が与えられているのだ。今はときが来るのを待つ。それだけだ」

「ふざけんな!糞親父ッ、アルを……アルを助けられずに……」


 ファンは、自分の無力さに悔し涙を流しながらも、父親のその言葉に反発する。

 すると、父親のジョエルは、黙って戦場の一角を指差す。


「何があるってんだ?なっ…………」


 父親の指の先に視線を向けたファンは、そ

こで信じられないものを見て言葉を失う。


「いつつつつ……。お~っ、痛かった~」


 呑気にそんなことを呟きながら、ペルーダの背後でゆっくりと立ち上がるアルフレートの姿だった。

 鎧が粉砕されて上半身は裸ではあるが、その引き締まった肉体には



「どうだバカ息子。これで勝ったな、ガハハハハッ!」


 ファンの隣では、ドヤ顔で勝利宣言までした父親が呵呵大笑している。


「はあああああああああああああああ!?」


 顎が外れんばかりに大口を開いたファンが、ひときわ大きな叫び声を上げるのだった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ようやく主人公の出番です。



みなさんの応援でやる気が漲ります。


モチベーションにつながりますので、★あるいはレビューで評価していただけると幸いです。

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