第5話 始末
「踊れ【アルネブ】―――カルメン」
サラがそう宣言して引き金を引くと、構えたドラム式マシンガンが火を噴く。
もはや数えることがバカらしくなるほどの魔力弾が押し寄せる
数多の弾丸に貫かれた衝撃で、まるで踊り子の舞いのようにフラフラと揺れ動く敵たち。
それは自らの運命を決定づける死の舞踏。
森が静けさを取り戻し、立ち上がった砂煙が晴れたとき、そこには飛び散った鮮血と無数の肉片しか残されていなかった。
「ふう……」
「おっと、大丈夫かい?」
魔力を使い果たしてふらついたサラ。
それを戻ってきていたアルフレートが後ろから優しく支える。
「ア、アル……」
「さすがは【兎座】の
「当たり前でしょ?私がすごいだけよ」
アルフレートが素直にそんな感想を口にすると、頬を赤らめたサラが憎まれ口を叩く。
そんな態度は、どっからどう見てもサラの照れ隠しであったが、当のアルフレートだけには届かない。
「そうだな、やっぱりサラは得難い人材だ。俺はホントにサラと幼馴染みで良かったよ」
屈託なくそう誉めちぎるアルフレート。
その整った容姿から放たれた、老若男女誰もを虜にする優しい微笑みがサラの心を穿つ。
「うっ……ううう……尊い……」
「ん?」
思わず胸を押さえて身悶えするサラ。
その表情はとても幸せそうであった。
傍から見れば、イチャイチャしているとも思える馴れ合いであった。
そして、その様子を面白く思わない男がひとり。
言わずと知れたファンであった。
「いつまでもじゃれあってんなよ」
「ん?別にじゃれてはいないが?」
「そうよ、何を言ってるのよ。べ、べつに私たちが何をしててもいいでしょ!」
「そうだぞ。俺は心から称賛していた
軽い嫉妬心から邪魔に入ったファンであったが、まさかアルフレートからそんな身も蓋も無い言葉が発せられようとは思っていなかった。
そして、その言葉を聞いたサラも今までのご機嫌が急降下。
一転して不機嫌となる。
そして、その矛先が向かうのは当然……
「余計なことばかりするな!この陰険メガネ!」
「あ、いや……、その……」
「だいたいあんたは、さっさと撤収の指示をしてれば良かったでしょ!」
「それは、そっちのアルがすべきことで……」
「アルがそんな些細なことに気を回す訳がないでしょ」
「うん?」
「脳まで筋肉なんだから、そのあたりのことはあんたがチャチャとやりなさいよ」
「おいおい、それはさすがに……」
「何よ!アタシが間違ったこと言ってる?」
「いや……、それは……正しい」
せっかくアルフレートと楽しい会話をしていたのに、それを邪魔された怒りを爆発させたサラは、不満を一気にまくし立てる。
やり込められるファン。
そして、思い切り流れ弾を喰らったアルフレート。
なんとなく、いたたまれない雰囲気が漂い始めたとき、アルフレートの表情が一変する。
「ファン!危ない!」
★
戦場であるにも関わらず、つい気を許してしまったファンの頭上に影がさす。
急に日の光が遮られたため、不審に思ったファンが何気なく空を見上げると、自分に向かって振り下ろされる大きな爪が見えた。
―――マズい。
咄嗟に両腕で自分の頭を庇うも、おそらくは攻撃を防ぐことは不可能であろう。
チラッと見ただけでも、自分の頭ほどもある爪だ。
その本体ともなれば、人間よりもはるかに大きいはずで、その体から繰り出された攻撃は計り知れないほどの衝撃があるだろう。
とうてい、この二本の腕だけで防ぎきれるはずもない。
どこか冷静にそんなことを考えてしまうファン。
近づく爪を見つめつつ、彼はもう死を受け入れていた。
………………!?
だが、彼が爪に身を引き裂かれることはなかった。
突如として、ファンの身体が真横に突き飛ばされる。
死を前にして全てがスローモーションのように見える中、ファンはその光景を見る。
ファンを突き飛ばしたアルフレートの背中に何者かの爪が振り下ろされる瞬間を。
アルフレートのミスリル製の鎧が砕け散り、キラキラと光を反射しながら宙を舞う。
バキリと鈍い音とともに勢いよく地面へ叩きつけられたアルフレートは、四肢をダランと投げ出してピクリとも動くことはない。
「アルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
ファンの悲痛な叫びが大森林にこだまするのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★
一部訂正しました。
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