第2話 不満

 若くして子爵位を賜る【ファン・デ・ループス】は、どうして自分はいつもいつも苦労をさせられるのだと不満を抱く。


「どうして、いつもいつもいつもいつもこう勝手なんだよ!」


 ゆくゆくは部下として支えるべき辺境伯の嫡男【アルフレート・ディラ・オフィウクス 】の背中を追いかけながら、ファンは何度も何度も自分の理不尽な立場を嘆いていた。


「糞ッ!相変わらずバカ早え!ごらぁぁぁぁぁぁ、糞脳筋!待ちやがれぇぇぇぇぇ!」


 大森林の中は、下草を掻き分けながら進まざるを得ないために馬は使えない。

 そのために兵士たちは、自らの足で森の奥深くまで進むのだが、生来から人を軽く凌駕するほどの身体能力を有するアルフレートは、まるで人なき広野を往くかのように軽々と森を進む。

 いくら精強なるオフィウクス辺境伯領軍兵と言えども、その背を追いかけ続けるのは能わない。


「だからアイツの面倒を見るのは嫌なんだよ!いつもいつも考えなしに動くから、ケツを持つこっちの身にもなれってんだ!」


 大声で主筋の不平不満を叫びながらも、草を掻き分けているファンを咎める者がいないのは誰もが皆、同じ気持ちを共有しているからの証左。

 むしろ、大騒ぎするファンを見て、周囲の者たちはまた振り回されてかわいそうだとすら思っていた。 


 辺境伯の片翼と呼ばれるループス家に生まれ、アルフレートの幼馴染みとして育った彼は生まれながらの世話係として自他共に見なされていた。

 それは、自由奔放な主に死ぬまで振り回されることが宿命づけられていたと言い換えてもおかしくはなかった。




 そして、ファンには面白くないことがまたひとつあった。


「アルが何にも考えてないのは今さらでしょ?いつまでもグダグダ言ってないで、さっさと進みなさいよ」


 大声で騒ぐファンの背中を強く叩くのは、もうひとりの幼馴染みのサラ。


 彼女はどこまでもアルの味方であり、おそらくはアルに恋心を抱いているのだろう。

 そんな考えがアタマを過ったとき、ファンの胸がチクリと痛む。


 超がつくほどに鈍感な男だから、まだ彼女の想いは伝わっていないが、ずっと少女を見つめて来たファンには、彼女のその気持ちは明らかであった。

 自分が密かに愛する少女の気持ちまでも持っていくアルフレートに、ファンは苛立ちを隠せずにいたのだった。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!糞アルがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 二重の意味でフラストレーションをためながら、ファンは遥か遠くに小さく見えるアルフレートの背中を睨み付けるのであった。




★★★★★★★★★★★★★★★★


 開始二話目にして主人公不在となりました(汗)



 みなさんの応援でやる気が漲ります。


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