第63話 グルームの場合5

「ノエル、僕の師匠はとてもカッコいいんだよ!」


「またその話・・・もう飽きましたよ」


リコリアでの戦が終わり、ひょんな事から魔道兵のノエルと仲良くなっていた。


元からいい子そうだと思ってはいたが、話をしてみるともっと面白い子だと分かり僕らは自然と仲良くなっていった。


それに師匠と同じような小さなメッセンジャーバッグをいつも着けていて、どこか親近感が湧いていたのもあった。


今は馬車の屋根が僕らの交流の場だった。


またミスライを追って北上していく最中で毎日顔を合わせ、グリモワールの使い方を教え、魔道兵とは何たるかという僕らとはまた違った思想を持っている事が面白く毎日話をしていたのだ。


「だってさ、詠唱って覚えるの大変でしょ?でも3属性と、古代のグリモワールも使いこなしているんだよ」


「それも何度も聞きましたって、でも結局その古代のグリモワールの魔法の事が一番気になるのに教えてくれないじゃないですか」


「それはね~・・・やっぱ秘密!絶対師匠に喋るなって言われているから!」


師匠が持つ古代のグリモワール。それは師匠が仲間の内からエスケープと呼ばれる所以の魔法。ただ公にするなと堅く師匠からの命令で僕も喋る事はない。


仲良くなったからと言っておいそれと喋ってはいけないのだ。でも、師匠のすごさを伝えるためにはどうしても喋りたくてウズウズとしていた。


「ほら~!結局それですよ!」


「機会があったら僕が師匠に合わせてあげるから、その時見せてもらいなよ」


「・・・そんな機会なんて・・・戦場で会うぐらいですよ。前もいいましたがその時は敵かもしれないんですよ」


「うわ~そうだった~・・・じゃあ仕方ないか・・・師匠グリモワールは~・・やっぱ駄目!」


「もう!」


僕らはこんな他愛のない会話を毎日のように飽きずにやっていた。





ミスライを追う中で、奇襲や道を塞がれたりと妨害工作をミスライは地形を活かすようになり、王国軍と傭兵は食料が尽きかけていた。


王国と傭兵合わせてフライトレスという魔物を狩り、食料補給をすることになった。


ノエルも参加をするという事で、僕らはともに行動する事に。


それに魔法の練習も兼ねれるという事で僕達は楽しく狩りをしていた。


師匠から教わった魔法の極を、ノエルにも教える。


ノエルは飲み込みが早く、教えているこっちも楽しくなってしまう為に僕もドンドンと知っている事を伝えていったのだ。


そしてフライトレスの群れが通り過ぎ去ると、トドメを刺しに回ることに。


最初は軍のお綺麗な魔道兵っぽい事を言ってはいたが、僕の言葉にノエルは観念すると同じようにナイフを貸してフライトレスへナイフを差し込んでいった。


「あれ、一番あばれているやつを仕留めて終わりにしよう」


「・・・あれ魔法を一発撃ったほうが早くないですか」


「はぁ~・・・すぐに魔法に頼るのは魔道兵の悪い癖なのかな」


「うっ・・・分かりましたよ。その変わり僕が押さえておくのでグルームがトドメを刺してくださいね」


「はいはい分かりましたよ魔道兵様」


「もう」


この時までは良かった。だが・・・ここから起きる出来事で僕らの運命は大きく狂ってしまったのだ。


ノエルには足を抑えて貰い、僕は頭を押さえつけナイフを突き立てる・・・そんな簡単な事のはずだった。


「このっ!暴れるな!・・・うわっうわっー」


思いのほかこのフライトレスは力がまだ残っていて、振り回す首の力に僕は負けて吹き飛ばされてしまった。


ズサーーーと地面を吹き飛ばされた勢いのまま滑る。


「く、くそ・・・あっノエルは!?」


頭を振り体を起こす、そしてそうだと思い出したのだ。僕が頭を押さえて居なければ・・・ノエルはあのくちばしにやられてしまう!と


僕は立ち上がりながら、パチっとグリモワールをベルトで止めているボタンを外す。


その時、ノエルがフライトレスに刺される瞬間を見てしまっていた。


だが、フライトレスのくちばしはノエルのいつも大事そうに身につけているカバンへと突き刺さり中からポトリと何かが落ちたのが見えた。


それが逆に僕を冷静にさせた。直接ノエルに攻撃が当たってないのなら即死でなければ大丈夫だと。


そして短く素早い詠唱を唱えた


「・・・闇の矢!」


僕の放った魔法はフライトレスの顔を捉えて、魔法を受けたフライトレスはだらりと長い首を地面へと垂らした。


「よし・・・あっノエルは!」


ノエルの方を見ると、手を動かしている為に生きている事が分かりほっと胸をなでおろす。


そしてちょっと擦り傷をした為にゆっくりと歩いていく。


その途中でノエルのカバンから落とした物がある為にそれを拾った、ノエルに返してあげよう・・・僕はその時までは何も考えずにただ・・・拾い上げただけだった。


「よいしょ・・・と・・・」


拾い上げると同時にそれが小さな本、でも文字でグリモワールだと分かった。それと・・・見覚えがある物なのだと。


「えっ」


僕はちいさく呟く。


これは師匠が持っていた古代のグリモワールに酷似していたからだった。


通常のグリモワールよりも小さく、表紙が濃い紫色・・・正直古代のグリモワールは一つ一つが唯一無二の存在と思っていたが為に・・・どうしてもこれが似ているだけという気持ちだけでは処理が出来ない。


どうしてこれが・・・ノエルが持っているの・・・


僕は何が起きているのか・・・全く想像がついていなかった。


「グルームー、大丈夫?怪我はしてないです・・・・か?」


僕がグリモワール持ち、立ち尽くしているとノエルが後ろから声を掛けてきた。僕の気持ちとは正反対に僕の身を案じているいつもの優しいノエルの言葉。


だが、ノエルも僕が持っている物に気が付き言葉を詰まらせた。


そして僕がノエルの方を向き直すと、ノエルはいつも身につけているメッセンジャーバッグを確認していた。


・・・そのカバンはいつもこれを入れていて大事にしていたんだ。


それもまた師匠と同じ事、僕はノエルへの疑いの気持ちが膨らんでいく。


「これ、ノエルの?」


「あっうん、それがあったから致命傷をまのがれたみたい」


「これ古代のグリモワールだよね?どこで手に入れたの?」


「どこで・・・」


僕の質問にまた言葉を詰まらせ、目を泳がせた。


「いつの戦か忘れたけど・・・その時にたまたま拾った物だよ」


「・・・ふ~ん。どんな魔法が込められているのか知ってる?」


僕は淡々と説明をしながらノエルを観察し、今までの事をおもいだしていた。


ノエルが履いている靴、ノエルが使っていた銀のカトラリー全てが師匠が持っていた物に繋がるような感覚。


「ううん、拾ったものだからどんな魔法が出るのかし、知らないんだ」


ノエルへの質問なんてどうでもよかった。


これが師匠の物であるなら、師匠は今どうなっているのか今はただそれが気になっているからだ


「ちょっと、僕隊長の所に行かなきゃだから」


ノエルが師匠の物を持っているとしたら、ノエルのグリモワールも師匠の物の可能性がある。そしたら師匠は・・・既に死んでいる・・・。


「えっあぁうん。狩り楽しかったね、また後で」


ただ・・・僕は何が正解なのか分からないが、既にノエルへ憎悪の気持ちが生まれている事に気が付いていた・・・だからこそ、ノエルの変わらない優しい言葉が僕を混乱させる。


「・・・うん、また」


ノエルと離れて僕は隊長に使いか何かを出して貰う事にすぐに向かう。


混乱した頭でも僕は自分に確信のような気持ちがあった。


「気のせい・・・・じゃない」


僕はそう言葉を漏らし隊長の方へと走っていった。

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