第53話 緩い勉強会
リコリアが落ち着き、王子の軍は別の地での異教徒制圧に向け進軍していた。
季節的にも春や夏という物は戦争、内戦が起きやすく戦シーズンだというだけありいたる所で戦は行われていた。
傭兵達も稼ぎ時という事で、荒野の風以外にも人員を補強していった第4王子の軍。
次に目指す場所は南東に位置する、カルパーシュ砦。リコリアを北に上がって行けばそこに行きつくという事だ。
カルパーシュ砦はすでに異教徒に落とされたと聞いたのは1週間前。伝令から聞くのは異教徒率いる魔導士が暴れ、砦はボロボロの状態で落とされたと説明された。
この事でその魔導士は僕らがとり逃した魔道兵ではないかという疑問が浮かび、王子の軍はその魔導士を討つためにそいつらの後を追う事になったのだ。
「そうです、魔法は手のひらの中心、ここから出るものだと思って狙いをつけた方がいいです」
「ふむふむ」
「魔法の種類によって多少バラつきはありますが、基本はここです」
行軍中、僕はグルームの馬の後ろに乗り移動をする事もあり、その度に魔法の事を教わっていた。
馬という物は最初は乗りずらく、ずっと乗っている事が苦痛に感じ10分ほどでギブアップしていたが今では1時間は難なく乗れている。
自分一人で馬に乗れるようになれたらなと少しグルームが羨ましい。
それでも自分で手綱を持ち、かける馬の上でグリモワールを持ち魔法を詠唱し、魔法を放つ時は両手を自由にさせるというグルーム達の技術は高かった。
「勉強になりますねー」
「次はノエルが話をしてください。前の続きを」
グルームからグリモワールの効果的な使い方を教わり、僕はギレルさんから指示されていたグリモワールを持つ者の責務の話をここ数日していた。
最初は取っ掛かりも無く、いきなりの話だったがグルームは真面目に聞いてくれた。少し話をするとグルームには逆に新鮮な話のようで熱心に聞いてくれたのだ。
こういう話はリーダーのアゲストが自由に生きている傭兵団の為に、自分達に関係のない秩序や自由を損なう縛りのような物を嫌っている為に最初のギレルさんからの提案をつっぱねたようだった。
グルーム自体にそんな様子はないのはまだ子供だからなのか、それとも僕との勉強というよりも会話の一種に捉えてくれているのか楽しく聞いてもらえている。
「そうですね、どこまで話をしましたっけ」
「グリモワールで街が一つ滅んだところまで聞きました」
「じゃあ次はその街を襲った一人の魔導兵がなぜそんな事をしたのか、から話ましょう」
僕はナタリアさんからの受け売りの話を始める。
・
・
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「その魔導兵は力に溺れました。自分一人で何でも出来る、自分の力は一国に匹敵するとさえ過信していたそうです」
「それは・・・大きくでましたね」
「そうなんです、正常な判断が出来ればそんな事は思いません。ですが、お金に権力という物が後押しした結果、まともな思考が出来なくなり街を滅ぼした後につかまり処刑されました」
「誰もその人を止める人は居なかったのでしょうか?」
「えっと・・・その人は他の魔道兵にも嫉妬や恨みという物をいだいていたと言われ、何人かの味方も戦場で殺したと記録があるそうです。そんな人を止めるとなるのは・・・」
グルームは熱心に話を聞いてくれる。受け売りの説明の為質問に上手く答えれない時も多々ある。そんな時だった。
「力を求めるあまり周りが全員敵に見えておったのじゃ。いい意味で勉強熱心、悪い意味では魔法の事以外に興味を示さぬ者での孤独だったのじゃ」
「うぇ!?ギレル様!?」
僕の代わりにその人を知っているような素振りでギレルさんは答えたが、あまりにもいきなりの事だったので馬の上でビクっと座ったまま飛んだのだ。
「あっノエル暴れないで!?」
「おっ落ちる落ちる!」
「ヒヒーン!」
鳴きながら、体を少し震わせる馬。
「どうどう・・・・大丈夫だよ・・・落ち着いて・・・もうノエルは~」
グルームは優しく馬を撫でると馬はじょじょに落ち着きを取り戻した。
「すいません・・・びっくりしたので」
僕が馬の上で動いた為に、グルームの馬が少し暴れたがグルームが落ち着かせると大人しくなった。
「なんじゃ、声を掛けたぐらいで驚きおって」
「ビックリしますよ、いつから聞いてたんですか・・・」
「途中からじゃ」
まったく気が付かなかったが、ギレルさんがここにいるのが珍しいから驚くのもしかたないじゃないかと、心の中だけで反論しておく。
「楽しそうに話をしておったからの、若者の輪の中にたまには年寄りも入れてくれてもいいじゃろ」
「あっえっとどうぞ」
「なんじゃ遠慮しおって・・・そっちのグルームとやらは何か他に聞きたいことはあるかの?」
ギレルさんがくると、今までの緩い会話の延長線上の話も少し堅くなった雰囲気になった。
「そうですね・・・・今の話の続きですが、その魔導士が街を滅ぼす一番のきっかけはなんだったのでしょう。」
「それはよき理解者がいなかったことじゃろうな」
「理解者ですか?」
「切磋琢磨し魔法に励むが・・・誰もがあやつの能力を認めてやることが出来なかったのじゃろうな。力を手にしても周りから評価されず、ならばと己自信で力を示そうとした結果じゃな」
「なるほど・・・」
ギレルさんはずっと昔の友の話をするかのように話、最後には遠い目をして何か後悔や思い出しているような表情をしていた。
「ノエルが固まっとるからの、そろそろ退散するか」
「い、いえそんな事は」
「じゃあもう少し儂もグルームと喋りたいのでな、ここにいてもいいのかの」
「えっいや~・・・」
「あっあははは・・」
ギレルさんの言葉に僕ら2人はイエスともノーともいえない返事をしたが・・・本心は見透かされていそうだ。
「全く、少しは気を遣うとかできないのかの最近の若い者は・・・まぁよいわ」
ボソっとそう呟くと、ギレルさんはパカパカと僕らから離れていく。
「あー・・・緊張した」
「グルーム緊張してたんですか?そんな風には見えませんでしたよ」
ほっと胸をなでおろしたグルームが以外にもそういう。
「ガチガチでしたよ。やはり高齢の魔導士、いえ魔道兵の方は迫力があります」
「迫力ですか・・・」
確かにギレルさんは喋ると砕けた感じだが、見た目は迫力があるか・・・
「それにあの方の魔法を一度、間近で受けているので少し怖いんです」
「あっ、あぁ~・・・なるほど」
グルームはリコリアに最初に着いた時の事を言っているのだろうな。
「まぁでも隊長がいうほど堅い人では無さそうなのは少し安心してます」
「そうですね、そこまで堅くはないですよ。どちらかというとその反対かもしれません」
「意外でした・・・ふふ」
その後ももう少し談笑すると、グルームは傭兵団の所へ戻っていった。
「結構いい感じにやれてるじゃないか」
「はい、普通にお話しているだけで、すね」
「そうかはぁー俺もグルーム君の方がよかったよ」
ベルトリウスさんはアスクさんとの交流を少し悩んでいる様子。
僕もアスクさんとは・・・上手く会話が出来る自信がないため、申し訳ないが今から相手を変えるという事は出来ないな。
そんな緩い行軍が1週間近く続いたのだった。
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