第54話 崩れた砦

王子の軍がカルパーシュ砦に着いた時は見事に砦は壊されていた。


城壁は崩れ落ち、建物もボロボロと壁や天井はない。


怒りをぶつけるかのように魔法を放たれているような、やりすぎだろと思う光景。


駐屯していた人で生き残りのような者は残っていない。


兵士の死体はそこらに散らばり、それと同じように使用人たちも地面に伏せていた。


ハエが死体に群がり、砦全体が夏というのも相まって異臭を放つ。


目を伏せ、ここから直ぐに立ち去りたかったが、王子の軍は兵士の死体処理を始めた。


それも与えられた任務なのかとと思うほど、すんなりと死体を集めていく。


兵士達は口と鼻を覆うバンダナを巻き、苦い顔をしながらもせっせと一カ所に集めていく。


その間、魔道兵は水を用意したり火を用意したりと簡単な仕事だけをやるという、ここでも差別化を図っていた。



「はぁーこの匂いなんとかならないかしら」


「風よきたれ使ってみたらどうかな~」


「あら、いいじゃないあなた使いなさいよ」


兵士や傭兵の人達が働いている側で、汚れ仕事は一切せずにお喋りをしている僕らはどう彼らに映っているのだろう・・・


ヘンリーさんとアンリさんとは少し離れておこう。そう思い少し距離をあける。


するとグルームやアスクさんは傭兵の歩兵と混ざり、同じように死体運びをしているのだ。


フードで目元は上手く見えないが、グルームも僕を見つけ口角だけ上げて返事をしてくれたようだ。


僕は周りを見る。


魔道兵は腕を組み見ている者、座って休息している者、お喋りしている者そんな人達だけ。


途端に僕は恥ずかしくなった。いつも偉そうにグルームへ魔道兵とは何たるかというのを喋っているのに・・・彼らの方がよっぽど心得ているような感じがしてしまう。


「ノエル待て」


そんな僕の気持ちを察してかギレルさんから声が掛かる。


今にもグルームを手伝いにいこうとしたタイミングだった。


「えっはっい」


「お主の仕事はあっちじゃ、こういう事は適材適所という言葉があるのでの。死体が集まる場所は病気が蔓延するからの、向こうで具合が悪そうなやつらを見てやってくれ」


「わ、かりました」


僕が何か出来ないかウズウズしていたのを、ギレルさんには見破られていた。それでも僕も軍や傭兵の一員なのだと一緒の行動が出来ることで少しの罪悪感からまのがれる。


どんな症状だとか関係なしに具合が悪いのならとりあえずキュアを掛ける。医療知識がいらないのはかなり助かる事だ。


すぐにすぐ、みな体調がよくなるわけではないがそれでも魔法を掛けられたという安心感でその場を去っていく。


「はぁ~・・・いいか、治療を」


「あっアゲストさん。どうぞどうぞ」


次に現れたのは傭兵団のリーダーのアゲスト。


「熱毒っぽい気がするんだ、吐き気やめまいが・・・くそ久しぶりで・・・」


「水よきたれ。まずこれをすぐ飲んでください、それとこれをかじっていてください。詠唱するので」


僕は水を出すと自分の持つカップに注ぎ、塩を多く含むドライフルーツを一掴み渡す。


「あぁ・・・」


気分が悪い問いに固形物を食べるのは辛そうだなと思うが、ただの塩はもっていないので仕方ない。


そしてさっきの水を使い布を濡らすと、冷却で布をキンキンに冷やすとアゲストの首にかける。熱中症の対処方さえ詳しく知らないが・・・とりあえずこれでキュアを使えばいいかな。


適当な処置をした後に詠唱を始め、キュアを行使する。


「キュア、これで大丈夫だと思います」


「・・・悪いな。やっぱお前いいやつだな、兵士じゃなければ傭兵に誘うのによ」


「えっあぁ、お誘いはうれしいですが・・・」


「まぁ生まれた国が違うからしゃーねーな。じゃあ、行くわ。またグルームとも仲良くやってくれよ、最近のあいつ楽しそうにしてるからな」


「あっ僕も同じでっす、えと熱毒には水を多く飲んだら掛かりにくいとき、きました」


「水でか?まぁ信憑性は薄そうだが、おぼえとくわ」


リーダーのアゲストはそんな事をいい行ってしまう。


そしてアゲストで体調不良者の波は一度途絶えた。




僕が傭兵か・・・


アゲストに誘うという言葉を言われた時は突飛すぎて、何も考えれなかった・・・


傭兵団の生活を見ると、なんとも自由に生きている様子は羨ましくもあり、怖さもあった。


何も縛られない何にも属さないという事は何も自分を守ってくれる後ろ盾がないのだという事。


自由気ままに生きている彼らは僕にとって憧れ、だが自分がそうはなりたいかというと・・・僕にとっては軍のほうが向いているのだとグルームの話を聞くと常々思っていたことだった。




10人ほどにキュアを掛け、水や濡れタオルを進めているとカルパーシュ砦を立つことに。


足跡が北東へと続いている為に、異教徒はバラバラと南部を襲っていたようだが北上し数を固めつつあるのではないかという話になっているようだ。


そうなる前に各個撃破、小さいうちに叩きたい王子の軍の移動は早足になっていた。

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