第52話 傭兵との交流

杯が打ち鳴らす音と笑い声、リュートの音色にボンゴが弾ける。


そんな中へ僕らは飛び込んでいった。


「すごい所だな」


「ですね、ここにいるだけで楽しい気持ちになってきます」


気分が落ち込んでいたことも忘れるぐらいの陽気な音たち。


更に野営地は基本暗いのだが、ここは無造作に明かりがついている事もあり一層雰囲気も明るい。


僕らの集団に気が付いた傭兵だが、いちゃもんをつける様子もなく歓迎されるかのように奥へと案内されていく。


軍という物は灰色の世界、そんな色にみえていた。だがここは色鮮やかな様が広がり軍とは別の場所にあるように思える。


「あっノエルさん!ベルトリウスさん!」


そんな鮮やかな人達の中では逆に浮いた存在となっている、僕ら騎士と魔道兵。すぐにグルームさんが僕らを見つけた。


「すまないな、招待してもらっていたにも関わらず中々うかがう事が出来ず」


「こんばんは」


ベルトリウスさんの後に続き、差しさわりのない挨拶を行う。


「いえ大丈夫ですよ!どうぞこちらへ!あなた達お二人は恩人なのでいつでも歓迎ですよ!」


グルームはそういうとベルトリウスさんの手を引いて奥へと向かっていく。それを騎士が制止しようとしたが、ベルトリウスさんが大丈夫だと一言いうと騎士も阻もうとした手を降ろした。


「ノエルさんも行きましょう!」


「はい」


そして僕にも振り返り、見える口元は嬉しそうに笑っているように見えた。


既に騎士とデリックさんは少し置いてけぼり気味になりつつ、僕らの後に続いた。


グルームさんに連れてこられたのは、傭兵の野営地の中央。その真ん中に位置する大きなテントだった。


いや、大きなテントだが、それはテントを何個も繋げたように立て合わせて大きくしているようだ。


中がどんな風になっているのか、外から見てワクワクしてしまう。


テントの入り口を開けて、入口を抑えながら中へどうぞとグルームが促す。


騎士の一人が先頭に、ベルトリウスさん僕、デリックさん騎士の順番で中へと入っていった。


「おっ来たか!魔道兵!」


入口をくぐると同時に、リーダーのアゲストだ。


「すまないな、声を何度も掛けて貰っていたようだが、戦中だったのでな」


ベルトリウスさんの返事、何度も誘われていたというのは初耳だった。


「いいって、そっちのも楽しんでいってくれ。お前ら、この二人はイザベラの恩人だからな、丁重にもてなせよ!」


「おーーー」


アゲストの掛け声でカップを渡され、その中にドンドンお酒・・・と思われるものが注がれていく。


それは僕ら魔道兵2人だけでなく、騎士やデリックさんも同様にだ。


「私はいい、護衛が仕事なんだ」


「まぁいいじゃねーか飲め飲め」


騎士が酒を拒むが、傭兵達の軽い雰囲気と押しにカップをもってしまう。


「魔道兵もきたことだし、もう一度乾杯だ!勝利に!」


「勝利に!!」

「うぉーー!」


何を叫ぶことがあるのかと思うぐらい、その乾杯の音頭で傭兵達が弾けた。


僕もこの雰囲気につい口元をゆるめ、傭兵達がカップを上げているので同じようにした。


いきなり賑やかな歓迎を受けたが、これは彼らにとって日常茶飯時なのか乾杯をした後はバラバラとしていく。


ベルトリウスさんをみると早速、アスクと改めてカップを打ち合い乾杯していた。


すごいなもう溶け込もうとしている・・・僕も、えっとグルームさんは・・・


ベルトリウスさんに習い、僕もグルームをキョロキョロと探そうと周りを見渡すと


「ノエルさん」


「うわぁ」


すぐ真横にいたようで、ビックリしてしまった。


「えっごめんなさい」


僕が驚いた声を上げてしまった為、グルームはフードの裾を掴み顔を隠そうとしている。


「あっ、違うんです・・・グルームさんを探していた時だったのでつい・・・」


「あっ僕ですか?」


「はい、えっと・・・同じ年代の人って兵士には少なくて、えっと」


ここでも上手く説明が出来ない。簡単にお喋りしたいといいたいだけなのに、回り道回り道の言い方をしてしまうのは悪い癖だった。


「あっ僕もですよ!よかった、そう思って貰えて!あっちで話ましょう!」


ただグルームは僕が全てを言い切る前に、察してくれたのか元からそう思っていたのか知らないが、テントの隅に置かれたテーブルと机に案内された。


「どうぞ、座ってください」


「はい、失礼します」


騒がしい中に、テントの端という事で少し落ち着く。


「ぷっここはもっと気楽にしていいい場所ですよ」


僕のカチコチになった様子にグルームは笑う。


「そうですけど・・・」


「まぁそれよりも・・・では、改めて」


グルームがカップを持つので、僕も同じようにカップを持ち


「乾杯!」


「かんぱい」


コンッ


2人で小さい音を鳴らして乾杯をした。


そのまま一口、口に含むと・・・苦い・・だが、ひんやりとしたその飲み物は嫌いではなかった。


「ぷはー」


グルームもゴクゴクと飲むと、息を吐くようにそういうのが様になっている。


「初めてのみましたが・・・美味しいですね」


「あっそうなんですか?軍はお酒を飲まないのです?」


「いえ・・・葡萄酒は振舞われてましたが、渋くて僕には飲めなくて」


「あーやっぱり王国では葡萄酒が流通してますよね。僕らが住むイーリオではこっちのエールが盛んなんです」



「イーリオですか・・・名前だけで正直場所もあまり知らないんですよね」


王国の南部にあって中立国としか知らなかった。


「あっそうなんですか?イーリオは王国の南部に位置する自由国家です。傭兵業、冒険者業が盛んな国ですね」


「傭兵と冒険者業ですか」


「表面上では中立国ですが・・・国自体がお金さえ払えば、どこにでも着くっていう感じなんでしょうかね。僕もその一員です」


「えっあぁあっと・・・グルームさんは何歳なんですか?」


別に政治のような堅い話をしたいわけでは無い。


話を少し変えるように、まずは簡単な所からの会話を始まる。


「僕は17になったばっかりですね。ノエルさんは?」


「僕は16です」


「やっぱり同じぐらいだったんですね!ノエルさんはいつからグリモワールを?」


「あっ・・・えっとまだ半年もたってないですね」


「そうなんですね、上手く使いこなしているように見えたので小さな頃から教育を受けていたのかと」


「全然です。農家の生まれなので。グルームさんこそどこで魔法を習ったんですか?」


「僕は尊敬する師匠に教えて貰ったんですよ!」


「師匠ですか」


「はい!師匠はすごい魔導士なんです!4元素に神聖、深淵を使いこなす天才です!」


そこでグルームは待ってましたとばかりに、嬉しそうにその師匠が天才だという。


「3つもですか、それはすごいですね!」


そして、詠唱を覚えることが大変だというをすでに知っている身からしたら、その人も王国のウォルターさんやギレルさん並みに賢い人なのだと分かる。


「そうなんです!他の傭兵団に入っている為、最近は会えていないですがどこかできっと活躍をしていますね」


「傭兵・・・そんな人が帝国側や異教徒につかない事を祈りますよ」


そんな天才のような人でも、国が違えば傭兵として生きているという事に不安が広がる。


「あっ確かに!今、戦場で出会えば僕も敵同士になっちゃいます!」


だが、僕の言葉にオロオロとフードの上から頭を抱えたグルーム


「えっ今更ですか!?そういうのも考慮して傭兵をやっているんじゃ!?」


傭兵の宿命、今日の友は明日の敵。そんな関係はすでに承知の上なのだと思っていたがグルームは違っていた。


「どうしましょうノエルさん!?」


「えっ僕に言われても!?とりあえず2人で敵にならないように祈りましょう!」


「はい!お願いします!」


そこから僕はグルームと一緒に両手を合わせ目を閉じると


「師匠が敵になりませんように」

「グルームさんのお師匠様が敵になりませんように」


2人で言葉に出して祈りを捧げた



「・・・なんだお前ら?何やってんだ?」


リーダーのアゲストの声。


部屋の隅で2人して、お祈りをするように静かに目を閉じているのは、はたから見たら可笑しい物のようだ。


僕はゆっくりと目を開けていくと、グルームさんも同じように目を開けて行っていた。


そしてお互いに目が合うと


「プッアハハハ」


「アハハハ」


2人して今僕達がやっている事が、アゲストさんに声を掛けられて可笑しくなってしまい、吹き出した。


「なんだ?もう出来上がってるのか?」


「あはは、2人で何やってるんでしょうね」


「ですねアハハ」


「なんだ?よくわからねーやつらだな・・・」


アゲストは僕らの様子を見に来ただけのようで、そう言い残し首の後ろをポリポリとかきながら歩いて行った。


「ふー、笑いました。ノエルさんが祈りましょうなんて言うからですよ」


「えぇ!?でもグルームさんも真剣に祈ってたじゃないですか」


そこからは一気に、グルームとは打ち解けて行っていた。


グリモワールの話、出身地、好きなこと、色々喋った。


ギレルさんに言われていた事も忘れるぐらいに、軍とは関係のない話で盛り上がった。



「ノエル君そろそろ戻ろう」


だがそんな楽しい時間も無限ではない。帰ろうとベルトリウスさんからの言葉で現実に戻される。


ここに来る前に沈んでいた心は既に解消されていた。


ベルトリウスさんの後ろには顔を赤くした騎士も上機嫌そうに、傭兵の人と別れを惜しんでいた。


「あっ、もうそんな時間ですか。グルームさん今日はあ、りがとうございまいした」


「ノエル、またお話しましょう!」


「はい、ぜひ!あっそれとグリモワールの使い方も教えてくださいね」


「もちろんです!いつでも来てください」


グルームは僕にグリモワールの使い方を教えてくれることになっていた。


彼の精密なコントロールによる魔法の使いかたなど、魔道兵ではあまり教わらない部分を補えると思ったからだ。


グルームとはアルスさん並みに仲良くなれそうな予感がしていた。

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