第48話 リコリア戦2
ハイマーさんから聞かされた、包囲殲滅作戦を突破する方法は包囲を無視しそのまま前進する事。四方を囲まれているという事はその分正面は兵の数が薄いということ、勢いに任せて正面さえ攻めれば、数の差もある為突破される可能性があるという事だった。
だが、今異教徒はパニックに陥りバラバラとした指揮系統では、正面突破を試みるのはもう既に時遅し。
そして敵がとれる方法は絞られてくる・・・
◇
時間は遡り前日の夜。ギレルさんが僕とベルトリウスさんに作戦指示後に残れと言った時の話。
「よいか二人とも、作戦は頭に叩きこんだかの」
「はい」
「はい」
僕とベルトリウスさんは揃って返事をする。
「わしの読みではこの包囲殲滅は成功する。異教徒は元から指揮系統が上手く機能しとらん、数と勢いに任せて無暗に攻めておるだけじゃからの」
「お、私もそう思います」
「・・・」
ギレルさんは以前は7割と言っていたが、今ではそれ以上に確信をもって続ける。
「じゃがの・・・指揮官は無能でも敵の魔導士は有能じゃ。こっちの穴を迷わずついてくるぞ」
「包囲殲滅に穴ですか」
ベルトリウスさんは口に手をやり考えこむ。
「そうじゃ、どこか分かるかの」
「・・・」
「・・・僕ら左翼側」
ベルトリウスさんが考え込む中で、四方を囲んだ後の事を考えたら自ずと僕は答えが決まり呟いた。
「よう分かっとるの」
ギレルさんは頷き答える。そして言葉をつづけた。
「包囲殲滅に対処するには、大体3つであるのはハイマーが言っておったろう。一つはまず包囲されない事、二つ目は包囲される前に勢いで正面突破を試みる。最後に一点突破じゃ」
「その一点突破をしてくる場所が、私達がいる左翼だと」
「そうじゃ、後ろは騎兵がおる。歩兵では突破は無理じゃろう。そして右翼には儂じゃ、自分で言うのも何じゃがわしの魔法の中を突破しようと考えるやつはおらんじゃろうて」
ベルトリウスさんの質問で、僕も考えていた事をギレルさんが答え合わせをするように説明していく。
「残すは左翼と正面じゃな。正面は兵が厚く布陣されるからの、一度押していたにも関わらず押し返してくる様子に、正面は勢いがあると思われるな」
「なるほど・・・」
「・・・」
先ほどの自分の答えが間違っていたらよかったのにと思うほど、ギレルさんは着実に穴が左翼側だと答えに近づいていく。
「そして左翼じゃ。兵は薄く、儂の魔法に比べ範囲も継続力もない・・・となれば、異教徒の魔導士は自ずと左翼を狙ってくると思わんか」
「ですが・・・その1点突破も指揮系統がうまくいってないのなら、成功するでしょうか」
「魔導士の魔法によるの・・・じゃがかなり練度が高い相手じゃ。戦が始まり、こっちの思惑に気づいたなら魔力を温存しながら戦ってくるはずじゃ、最後1点突破を仕掛ける為にの。それが決まれば指揮がなくとも異教徒共も魔法を放ち王国兵が倒れこんだ中を突き進むはずじゃわ」
「・・・では、もとから左翼に兵を集めるのも手ではないですか」
「それは無理じゃろ。もとから人数差がある相手じゃ、それに相手が魔法を撃ちこんでくると分かっていて、兵をより密集させるわけにはいかん。被害が大きくなるだけならまだしも、包囲すら失敗するぞ」
ギレルさんのいう事は分かる。そしてベルトリウスさんも分かっているはず。
「重要なのは包囲を成功させ、相手に1点突破しかない状況においやる事が今回の肝なのじゃ」
「そして・・・その1点突破をする場所を呼んでいる為に、こっちもそれを討ち取る様に動くという事ですか」
「そうじゃ。ノエルが敵の攻撃を防ぎ、ベルトリウス、お主が魔導士をうつのじゃ」
ベルトリウスさんの結論に、ギレルさんは大きく頷いた。
「・・・俺達がそんな事をできますか」
「僕も・・・不安です」
「仕方ないじゃろ、予測じゃが十中八九あたるはずじゃ」
◇
昨夜のギレルさんの話が、周りで勇み足で喜ぶ魔道兵達の言葉でフラッシュバックしていた。
全てギレルさんの読み通りに戦は進んでいたのだ。
包囲は成功し、敵は魔力を温存し、一点突破しか打ち破る方法はないという状況まで追い込んだのだ。
そして今、僕らの上空に大きな炎の塊が3個降り注がれようとしていた。
「聖なる領域!」
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