第46話 作戦の肝
リコリアの防衛戦は徐々に後退し、王国側はドンドン追いやられているのが3日ほど続いた。撤退を繰り返し、追い詰めていると思われせて、本当は敵が追い詰められている状況をギレルさんの作戦通り順調に進んでいた。
だが撤退を繰り返しても、負傷兵はでる。
リコリアには魔道兵が3人しかおらず、神聖持ちは一人だった為、このおびき出し作戦中は僕とそのリコリアの神聖持ちのデクソンさんは負傷兵の回復に忙しい日を過ごしていた。
頭痛を耐えながらの回復に専念し、3日間のおびき寄せ作戦も終わり4日目に包囲殲滅作戦が実行されようとしていた。
「よいか、わしとリコリアの兵数人が右翼に回り敵を囲っていく。お主らは左翼に回り囲って行け。その間に、傭兵共と騎兵が敵の背後に回るのでな」
ギレルさんから作戦の決行を伝えられたのは昨夜のことだった。
陣形と自分が使う魔法、どの位置に魔法を展開するかなどを詳しく説明されていく。
だが、やはり僕には指示がないことは神聖はやはりバックアップ要員なのだと思わされる。
「最後にノエルじゃが、一緒に左翼に回り”聖なる領域”を常に待機させておくのじゃ」
「分かりました」
だが、またリコリア付近で負傷兵の回復かと思ったが、僕も作戦に入るようだ。
作戦を伝えられ、僕らは解散となった。
「ベルトリウス、ノエルよいか」
解散となるが、僕らはまたギレルさんに呼び止められる。
そしてなぜ呼び止められたのか理由を聞き、僕とベルトリウスさんはこの作戦の肝を説明された。
「・・・俺達がそんな事をできますか」
「僕も・・・不安です」
ギレルさんからの指示は、ベルトリウスさんでもすぐにはいとは答えれないものだった。
「仕方ないじゃろ、予測じゃが十中八九あたるはずじゃ」
「・・・」
「・・・」
「他の者には伝えておらぬ、知っとるのはお主らと数人の騎士だけじゃ。心構えも必要じゃが、不安の種をわざわざ撒く必要もないじゃろうと思っての」
・・・僕にも撒かないで欲しいです。
「なんじゃノエル?お主は咄嗟の時に対処できぬじゃろ」
そして心が読まれているのか、表情で読まれた様子。
「えっは、はい・・・」
「全く、兵士にはつくづく向かんやつじゃの。まぁそういう事じゃからのベルトリウス頼んだぞ」
「・・・全力をつくします」
そして僕らはこの作戦の重要になるであろうことを伝えられ、そのまま下がらされた。
「えっと・・・」
「ギレル様が言う事は、明らかだ。ギレル様や俺らがどうこうというわけではない・・・」
「・・・はい」
しっかりと不安の種が既に芽吹き出していたが、そのまま僕らは自室へと帰っていった。
兵士や傭兵は丘に作った野営地へと毎日帰って行っていたが、魔道兵と騎士らはリコリアに滞在していた。リコリアにある3人一組の部屋へと戻るとメイジ2級のヘンリーさんと、メイジ1級のセシリアさんが同室だ。
「戻ってきたか、いつも君たちは残されているな~」
「えっそうですね」
部屋に入るとすぐに声を掛けてきたのはヘンリーさん。この人は家が商人のようで気さくな人だ。兵士にも関らず少しぽっちゃりとした体形を維持できている。
「やっぱり君らみたいな優秀な人らは、ギレル様も目を掛けるんだな~」
「ベルトリウスさんはそうですが・・・僕は優秀ではないですよ」
その見た目も相まって、のんびりとした喋り方をする為僕も慌てずに受け答えが出来ている。
「ふんっ、神聖持ちが今は少ないからってだけよ。いい気にならないで欲しいわ」
そして柔和そうな見た目に反してきつい言葉を掛けてくるのは、貴族出のセシリアさん。騎士の家に生まれているがそれも親の代までとのことらしく、魔道兵として自ら功績をあげると意気込んでいる人。
「いい気になんて・・・」
「ギレル様も見る目がないわ」
僕が答える前に、そう捨てゼリフを吐くように僕らに背を向けたセシリアさん。
「まぁ気にすることはないさ」
「えっえぇ、そうですね・・・」
魔道兵でも十人十色。色んな人がいるために、今まではアルスさんとナタリアさんとだけ関わっていたらよかったが、今はそうもいかなくなってしまっているのが今の僕の悩みだった。
それにみな全員年上で元の生きていた階級でさえ違う。みながみな腹の探り合いではないが、上にのし上がろうと必死になっている様子に、ここには信頼できる人は限られていた。
なぜなら、メイジからウィザードに上がるのにはかなり大変だとナタリアさんが言っていた。魔法の詠唱はもちろん、それなりに功績をあげる必要があるしウィザードやソーサラーという階級には席が決められているそうだ。
メイジ3~1級はグリモワールを手にし、魔法さえ使えれば誰でもなれる。だがウィザードの席は3~1級の間で200席しかないそうだ。ソーサラーにいたっては全部で30席となっている為に今は空きがないと聞く。
その為優秀だからと言って誰しもがウィザードに上がれるわけではない、上に上がろうとしている人には他の魔導兵は邪魔な存在に見えるのだろう。
そして第四王子の軍にはソーサラーの席はギレルさんで埋まっているし、ウィザードは4人までとまた狭き門となっているのだ。
僕は今の暮らしに満足していた。ギレルさんか声が掛かるのも神聖持ちが増えれば少なくなると踏んでいる。
仲良しこよしをするわけではないが、このギスギスとした魔道兵の中ではすでにウィザードとなり余裕のあるベルトリウスさんぐらいしか、今の僕の気の許せる相手はいなかった。
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