第45話 作戦と個人依頼

リコリア兵の撤退を助け、新しく防衛線をひいた第四王子の軍。


異教徒を対岸まで引かせる事が今回の王子の仕事のようだ。


その為にはそれなりに異教徒の数を減らすことが必要だとか。


だが、一番重要な事は敵の魔導士を討ち取ること。少なくとも2名は腕のいい4元素持ちの魔導士がいるとの見解だ。この2人をとればリコリアは当分は落ち着くのではという事を聞かされた夕食時。


魔道兵はリコリアにある砦の一室に集められていた。


「つまりじゃ、正面からくる異教徒をおびき寄せ魔道兵を討ち取らねばならん。相手は数も多く勢いもある」


カチャカチャと食器の音とギレルさんの言葉が並ぶテーブル。


「ただ闇雲に敵の数だけ減らしても、魔導士をなんとかせんかぎりまたすぐに人数を集めて攻めてこようとするじゃろうな」


ギレルさんの言葉を皆黙って聞く。兵士上がりが僕しかいないのもあってみんな静かというか、大人しいというか・・・悪いように言えば消極的だ。


「よろしいですか」


「うむ、なんじゃベルトリウス」


その中でもやはり一人ウィザードなだけはあり、ベルトリウスさんは発言をしている。


「おびき寄せるために何か作戦のような物はあるのでしょうか」


「もちろんあるぞ。戦の基本中の戦術、包囲殲滅で行く予定じゃ」


「包囲殲滅ですか・・・確かにおびき寄せるには有効でしょうが・・・」


包囲殲滅・・・言葉の響き的には何となく分かるだけ・・・質問したいけど・・・僕の手は上がらなかった。


「なにー?包囲殲滅ってー?」


そしてアンリさんも知らない様子で、質問してくれた為助かったと思った。


「・・・包囲殲滅も知らぬか、よくそれで英才教育を受け取ったな」


「すいませーん、私、詠唱覚えるだけでいっぱいいっぱいでしたので」


ギレルさんにもあの軽い態度をとれるアンリさんは大物なのか?と少し頭が混乱する。


「・・・まぁよいか。ノエルも知らないという顔をしとるからな」


「ぐふぅ・・・すいません」


ギレルさんに知らない事をバレており、丁度スープの芋を飲み込む時だった為少しつかえてしまった。


「ハイマー、包囲殲滅を簡潔におしえてやってくれぬか」


そして説明係をハイマーさんに代わり、ギレルさんも食事に手を付け始めた。


「包囲殲滅とは、字のとおり敵を囲い外側から徐々に内側にかけて殲滅していく作戦です」


そこからハイマーさんは基本的にどのように軍を配置し、どんな風に囲っていくのかを詳しく説明を始めた。

聞く限りでは確かに簡単に敵を倒せそう、かつ作戦が決まれば大きく敵を減らせ魔導士を誘いこめば必ず倒せるというものだった。


それに・・・この世界には魔道兵がいるからこそ、囲いこみが容易に出来るという利点がある作戦は、人数で不利な王国側でもいけそうな作戦だった。


「ですが、やはり作戦というものは完璧ではありません。対処方もあります」


そして包囲殲滅戦の対処方や穴となる部分の説明も受ける。

対処方もグリモワールがあるこの世界ならではの方法も聞くと・・・うまくいく作戦に思えた半面、敵の動き方次第で成功にも失敗にも変わるどちらに転ぶか分からなくなった。


「ご苦労ハイマー、わしが説明するよりも分かりやすいわ。どうじゃアンリ、ノエル、理解できたかの」


「はい・・・おおむね」


「えー、私全く分かりません。結局うまくいくのか行かないのかさっぱりですよ」


いやいや・・・そこはまだみんなも分かってないと思うのだけどと、アンリさんの言葉につっこみそうになる。


「まぁ作戦の成功率は7割ほどじゃろうか?敵に優秀な魔導士がいる以上、思いもよらぬところで魔法を放ってくるからの」


7割か・・・正直、ギレルさんの口からはもっと高い確率を聞きたかった。


だがギレルさんの魔法の効果を知っている以上、あれを対処されなければ包囲は簡単に行くのではと思えてしまうのも事実だった。


それからは夕食をつづけながら、ベルトリウスさんがギレルさんに質問し、ハイマーさんが代わりに答えたりともっと具体的にどのように包囲するのかを聞いていた。


食事が終わり、リーディアの人達が片付けを始めた頃。徐々にみな席を立ちあがり自室へと戻って行く。


さほど大きな砦ではないが、魔道兵には2部屋を貸し出され3人ずつで使用する事になった。3人で使用するには大きいとは言えない部屋だったが、屋根があるだけましなのだ。


僕も席を立ち上がり、今日は疲れたからすぐに寝ようと思ったが。


「ベルトリウス、ノエル少し話がある残っておれ」


ギレルさんが呼び止める。


「はい」


「ふぁい」


・・・噛んだ。ぎりぎりはいと聞こえていろと祈る。


だが呼び止められたのには、大方予想はついていた。傭兵の人を回復しにいった事だろう。


リーディア達がそそくさと片付けをする様子を見守っていると、この部屋にはギレルさん、ハイマーさん、ベルトリウスさんと僕の4人だけとなった。


「して・・・残された原因は分かっておるな」


「・・・はい、あの時俺が責任をとるといいましたのでノエル君に罪はありません」


「・・・えっいや・・・えっと、僕は・・・」


ベルトリウスさんがかばってくれているが・・・なんといえばいいのか・・・いあ、ここは僕にも責任がありますと言うべき所か・・・


「ふー・・・別にの、おこっとらんぞ。まぁ少し予定は狂ったがの」


「申し訳ございません」


「すいません・・・」


あっ申し訳ございませんって言わなきゃいけないのか・・・


「わしもあの時、傭兵団を見捨てようとはしておらぬ。もちろん金が欲しいわけでもなかったぞ」


「・・・」


「・・・」


ではなぜという気持ちで僕らは黙って話を聞く。


「正直やつら、あの傭兵の2人は魔導士としてかなり優秀じゃ。それが実に惜しいし危なっかしくもある所じゃ・・・傭兵などと気ままに生きていると、いつか力か金に溺れる。その前に軍に加わる・・・いや、数週間だけでもグリモワールを持つ者の在り方を受けさせようと思ったのじゃが」


そういうとチラっとベルトリウスさんを見た。


・・・確かにあの時ギレルさんは何か言いかけていたなと思い出すと、この事を条件に出そうとしていたんだと分かった。


「・・・浅はかな行動を深くお詫びします」


「そうじゃな、ただ人の命が掛かっていたのも事実じゃからの。ベルトリウスの行動も己の信念に添っての行動じゃろう。まぁ次からは・・・まぁよいか」


「分かりました」


ギレルさんは口で言うほど、そこまで魔導士や傭兵を嫌っているというよりかは・・・数々のグリモワールに溺れた人を見てきたからこその言葉のように思えた。


それならと思い、僕も重い口を開く。


「べつに条件を出さずとも・・・すこしお話を聞いてもらうぐらいなら、できないですか」


「もちろん最初、雇う時そう進言したぞ。じゃがリーダーがすぐに断りおった。うちの魔導士に変な事を吹き込むなってじゃ」


「あっそうですか・・・」


だからあの時ギレルさん怒ってたのか・・・


「そう言う事じゃからの・・・まぁ責任をとるとベルトリウスも言っておるようじゃしの、ノエルと一つ頼み事を聞いてもらうかの」


「・・・何なりと申しつけください」


あっやっぱり僕もか。


「はい・・・」


ギレルさんはそういうと口角を上げてニヤっと笑った。


「別に頼み事じゃ、そう堅くなるな。あの傭兵の魔導士と仲良くなってくれぬかの。どの経緯でグリモワールを手にし、詠唱を習ったのかを聞き出してほしいのじゃ」


それとは別に、この話の流れ的には・・・


「ついでにグリモワールを持つ者の在り方もですか・・・」


「よぉ分かっとるの、まぁ今は傭兵じゃが敵に回ったら厄介そうじゃからの。出来るかの」


「慎んでお受けいたします」


「えっと・・・頑張ります」


ここで断る選択肢はなかった。それに傭兵の事も知れるのは少し嬉しい。


「ふぉふぉふぉ2人ならそう言ってくれると思っとたわい。まぁ2人は傭兵からしたら恩人じゃろうからな、うまくやれるじゃろう」


確かに傭兵の人達から感謝はされた・・・けど人と仲良くなるのって難しいと思うけど・・・


「・・・こちらの方もお考えもしていたとかではないですよね」


「ノエルには考えておったが、まさかベルトリウスもやってくれるとは思わなんだわ。ノエルだけではちと心配じゃったから逆によかったのかもなふぉふぉふぉ」


予定が狂ったとはそういうことか・・・


「僕は・・・最初からですか」


「ふぉふぉふぉ神聖持ちの宿命じゃな。命の借りという物は大きいのでな、今回でなくとも戦中にいつかは起きておったじゃろうからの」


傭兵のリーダーがギレルさんの事を食えない爺さんと言っていたが、あながち間違ってはいないようだ。


「ではの、タイミングなどは任せるのでな。よろしく頼むぞ」


「ハッ!」


「はい・・・」


「なんじゃもっと元気ださんか」


「はい!」


「ではの、下がってよいぞ」


ギレルさんの命を受け、魔道兵としてではない別の仕事が出来てしまった。


ただそこまで無茶な内容ではない為に、頑張れる気がした。


「すまないな・・・巻き込んでしまって」


「大丈夫です・・・僕も傭兵の人が気になるので」


「そうか・・・一応だが、アスクとグルームといったな傭兵の魔導士は」


「そうですね」


出来れば僕はグルームさんと仲良くなりたい・・・歳も近そうだし・・・正直アスクさんは怖い。


「ふっ分かってるさ。グルームは君に任せる、アスクは俺が上手くやろう」


「あっ、ありがとうございます」


そしてベルトリウスさんも、僕の心を見透かしたようにそう言ってくれるのはありがたかった。


「リコリアに攻めてきているやつらを退けたら、一度傭兵達の所へ行ってみよう。勝ち戦だと浮かれているだろうしな」


「分かりました」


少しフラグのように思えるベルトリウスさんの言葉だが、そこまで気にする事もなく僕は傭兵達と喋れる事にソワソワとすでにしていた。

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