第43話 野営地にて

リコリアまですぐそこという所で第四王子の軍は拠点を構えるために、いつもの野営用ではなく大掛かりな設営を始めた。当分はこの地を拠点とし、南部各地で暴れる異教徒を鎮圧していくそうだ。


台地のようになっている、見晴らしのいい丘に拠点を構えるため、少し傾斜になっているところにテントを張るのは大変そうだなと兵士達の様子を見ていた。


前は僕も木を切ったりして簡易の柵を作ったりしたなと、懐かしい気持ちになると同時に、アルスさんやスナイプさん達の事を思いだしそうになり、顔をブンブンと振り弱気になりそうな自分に喝を入れる。


魔道兵も野営地も一画に作られて行き、また兵士達とは別の隔離された場所を作り始めていた。


6人のリーディア達がハイマーさんの指示のもと、天幕を建てていく。行軍中の野営時のテントと違い大きいものを何個も建てていくために、リーディア達が協力して建てていくので僕は今回は見ているだけだ。


手伝うと進言したが、丁重に断られてしまった為暇をもてあそぶ


「誰か水と火を頼めないか」


新しい料理長のデリーさんが、お手伝いに呼びにきた為、暇な僕はかってでようと思った


「あっ」


「俺が行こう」


だが、僕よりも早くベルトリウスさんがすぐに反応した。・・・ベルトリウスさんのは4元素だ。仕方ないかと思い僕は何もすることが無く、あたりを歩く事にした。


魔道兵や騎士、指揮官たちの天幕は丘の頂上付近に建てられている。


丘の上からは軍の全体が見渡せそうだ。その中で下をみると兵士達は特段テントを張ったりはしないが、一画にテントを張り始めている所がある。


恐らく傭兵団の人達の物かな?


なぜか兵士達の銀や灰色の塊の中で、その一角は色とりどりに溢れているようで異彩を放っている。


「・・・全く呆れたやつらじゃわ、戦という物が分かっとるのか」


「えっ・・・あっそうですね」


丘から下を見ていると、ギレルさんに声を掛けられる。ギレルさんも傭兵団の事をみているようだ。


「金さえあれば、敵にも味方にもコロコロと変わるやつらじゃ。ノエルも用心しておくのじゃぞ。決して手の内を見せてはならぬからな」


「分かりました」


ギレルさんの言葉は冷たいものだった。僕はどんな暮らしをしているのか気になっていたが・・・釘を刺されてしまった。


敵にも味方にもなるか・・・確かに危うい存在ではあるんだな・・・


ギレルさんが用心するという言葉に納得はできる・・・


「ギレル、あまり若い兵に無暗に吹き込むものではないぞ」


そして思慮をしている時に僕らの後ろからまた、別の誰かが声を掛けていたが一瞬僕の反応は遅れてしまった。


「陛下、あやつらは何をするか分かりませんぞ・・・先に異教徒に雇われておる可能性もあるのですからな」


「へ、へいか!?」


僕はなんて反応が遅いんだ!?と自分を罵倒しながら片膝をつく


「ノエル、楽にしろ。余が勝手に話に入って行ったのだ」


「ハ、ハッ!」


王子にそう言われ、ゆっくりと頭をあげて立ち上がる。


王子も暇なのか騎士を3人ほど連れて、散歩の様子。


「また同じ軍だなノエル。それに・・・もうメイジ1級か」


「えっは、はい!ギレルル様やリーディアのかたたちによくして、いただだいているので!」


「ブフォッ・・・誰じゃギレルルという者は」


僕の発言にギレルさんは噴き出した。


「・・・余はそんなに緊張する相手かの、ギレルよ」


王子が頬をかきながら、少し困った表情をする。


「いえ、そんな事は・・・こやつが小心者すぎるのですかな」


鼻で笑うようにそう言い放つギレルさん


「う・・・」


何も言い返せず、固まっていると王子とギレルさんの会話がはじまった。


「そうか・・・まぁよいわ、そのうち慣れよう。でだ、傭兵の事を疑いすぎるのも良くないと思うぞ」


「ですがの~・・・傭兵という連中はどうも好かんのですじゃ、これはもう性分ですな」


「ほれ見てみろ、楽しそうに騒いでいるではないか。お前も堅くなりすぎず、あのぐらい砕けてはどうだ」


「・・・堕落しとるとしか見えませぬな」


「生粋だな」


「陛下もあのような者たちに毒されぬか心配ですな」


「毒か、毒にかかったとてノエルに治してもらうわ。のう、ノエル」


「え?は、ひゃい!」


いきなりの事に声が裏返る。


「くくく、そこまでか。まぁギレルの言い分も分かるがな、金で動く連中だ。使い捨てとは言わぬが、難しい仕事を任せれるのも事実、有効活用するに越したことはないだろ」


「有効活用できほどのやつらには見えませぬが・・・陛下には何かわしとは違う物が見えておいでのようですか、わしからはもう何もいいませぬ」


「ギレルぐらいなら、余が考えつく事は同じように考えついているだろ。今回の南部の鎮圧は長くなりそうだ、そのうち人でが足りなくなるのは見えておろう」


「そうですがな・・・はぁ~・・・陛下にはかないませぬな」


口達者なギレルさんが、王子との会話で言葉をなくしている様は以外で少し面白かった。


「おっ、なんじゃノエルその顔は。いいたい事があるならいってみよ」


「い、いえいえいえ、何もないです!」


口角が上がっていたか、にやけた顔を見られたようで必死に手と首を振る


「ハッハッハ、ギレル脅すな」


「陛下がおるからつけあがりおって・・・こいつ」


コンっとノックをするように、頭を小突かれた。


「うぅ・・・」


「まぁ次からは魔導士がいない傭兵団を受け入れるようにするぞ、今回は余の判断に任せておいてくれ」


「・・・わしもそこが一番重要ですからな、頼みますぞ」


結局ギレルさんは傭兵というよりかは、魔導士が嫌いな様子だ。


「では余は戻る。ノエルもまたな・・・とその前に水を一杯くれぬか」


「はっはい!すぐに!」


この、この!いつもはすぐにベルトから外れるのに、こういう時に焦ったらすぐには外せないんだよな!


少しもぞもぞとしたが、すぐに水よ来たれを唱える


「冷たくて旨いな。ではな」


「ハッ!」


王子は水を一口含むと、行ってしまった。話をしている間に王子の天幕も建てれたようで、王子が歩いていくのを目で追うとそのまま天幕に入って行ってしまった。


「まぁそういう事じゃ。王子は傭兵をうまく使おうとしとるようじゃからの、やつらが何か悪させんように目を光らさせておくかの」


「はい」


「不穏な動きがあればわしにすぐ報告するのじゃぞ」


「分かりました」


「うむ」


ギレルさんは軽く頷き、王子と同じように行ってしまう。


「すごい・・・メンツだった・・・報告以外で話をしたの初めてだったかも・・・」


王子は行軍中でや野営でもたまに見かけてはいたが、親しく喋る間柄でもなくそこれこ魔道兵とて一兵士なのだから王子との距離は遠い物。直接かかわる事はないだろうと思っていたからこその不意打ちを受けた形だった。


王子が僕の名前を憶えてくれているという喜びもあるが、それよりも緊張したなといまだに心臓がバクバクといっている。


歳はアルスさんと同じぐらいなのに、やはり貫禄がある佇まいをしている為に、ギレルさんのようには喋れそうになかった。


そしてギレルさんが言っていた事を思い出しながら、僕は一人丘の下から聞こえてくる陽気な歌と音楽に耳を傾け、傭兵たちを見下ろすのだった。

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