第35話 ギレルのアドバイス
王都にきて3日。特段毎日何をするでもなく、ダラダラと過ごしていた。
街に一度出たいとアルスさんが言ってはいたが、騎士がつかまらないとかで却下をされて結局この3日間、魔道兵の宿舎に缶詰めの状態だった。
そんな暇を持て余していた日の午後。
コンコン
入るわよー
「いいぞー」
ベッドには寝転んだままゴロゴロとしているアルスさんと、ベッドの上で神聖のグリモワールを読んでいた僕らの部屋へナタリアさんが訪問してきた。
「アルス、ノエル、ギレル様がお呼びよ」
「かぁー・・・なんか用か?」
「行ってからのお楽しみよ。準備しなさいすぐに行くわよ」
パタリとグリモワールを閉じて、ベルトへ固定していく。ケープを頭からかぶり・・・まぁ一応ポーチはお金だけ着けておくか。あとメッセンジャーバッグもだ。
ナタリアさんについて行くのは3階の部屋。3階は基本ソーサラーという詠唱を6以上は覚えているという賢い人達の集まり。その奥の部屋にギレルさんの部屋があるというのだ。
だがギレルさんは基本はウィンザー城にも部屋を持っているそうで、こっちの宿舎にはあまり顔をみせないのだとか。
コンコン
「ナタリアです。アルスとノエルを連れてまいりました」
ナタリアさんが、一つの部屋をノックする。
「入ってよいぞ」
ナタリアさんが入っていく後に続き、僕ら続く。
ギレルさんの部屋は左右の面にびっしりと本が置かれた少し埃っぽさの匂いがする部屋だった。書斎のように部屋の正面に机があり、そこには本が積み重なり、何かが書かれた羊皮紙も散らばっている。
その机に、ギレルさんは何枚かの羊皮紙を手に持ち何か見比べている所だった。
その隣にはハイマーさんが、恐らくギレルさんが散らかしたであろう本や紙を片付けていた。
「おぉきたか、早速じゃがアルス、お主をメイジ2級へ昇格じゃ。ハイマー頼むぞ」
「え!?俺昇格ですか?」
「そうじゃ、バルグ砦の件でほぼ決まっておったが、ごたついたのもあっての遅くなったわ。ちと詠唱が心配じゃが魔道兵も減ってしまったからの、タイミングじゃな」
「よかったですね、アルスさん」
「あぁ!」
「じゃあ紋章をかしなさい」
アルスさんが紋章をケープごと渡し、ハイマーさんが押しつけた星型にはれてアルスさんはメイジ2級へと上がった。
「じゃあアルスは王都にいる間は、新しい魔法に励むじゃ」
「はい!」
「返事だけはいいのう。じゃがわしからのアドバイスじゃ。強い魔法は詠唱は長い、戦にて勝敗を決める要にもなるがの・・・詠唱が短い魔法が弱いというわけではない。短ければその分早く行使することも出来るのでな時と場合じゃ。人によっては魔法は詠唱が長いものを覚えてこそと履き違えるやつもおるがそうではない」
そこまでいったギレルさんの言葉で何をいいたいかは、想像がつく。
「長い詠唱はやめとけって話ですか?」
「まぁ簡単にいえばそうじゃ。正直お主の魔力量はわしからみても羨ましいぞ。じゃがそれを使いきれぬままなのは勿体無かろうて。まだメイジ2級じゃ、魔法を1,2個覚えて限界とは寂しじゃろ。火炎だけでも威力として申し分ないからの、小回りの利く魔法を何個か覚えた後に長い詠唱を覚えるのも手じゃと儂は思うぞ。よくナタリアと相談しながら決めるのじゃな」
「分かりました、よく考えて決めます。あと・・・俺ギレル様より魔力量おおいんですか?」
僕もそこが一番気になっていた。
「そうじゃ、儂は魔力は普通じゃ。ただちょっと賢いだけじゃなふぉふぉふぉ」
「そうか・・・俺ギレル様より魔力量が多いのか」
「おっアルス喧嘩をうっとるのか?魔法は魔力だけが勝敗を決めるわけではないぞ」
アルスさんが少し嬉しそうに言うと、ギレルさんも冗談まじりで返事をした。
「い、いえ全く!」
両手をぶんぶんと振り、全身で否定をしているアルスさん。
「ふん、まぁよいわ。次ノエルじゃな、ノエルをメイジ1級へ昇格とする」
「あっはい!」
「おい、追いついたと思ったのに、お前もかよ!やったな!」
とんと肩を叩いてくれるアルスさん。
「おめでとう、紋章を」
僕も同じようにケープを渡し、戻ってきたときには星が3個並んでいた。
「ノエルは特にいう事はないかの。適当に励むのじゃ」
「えっはい」
それはそれで少し寂しい気持ちもするが、認められているという事だと思う。
「じゃあ解散じゃ、アルスとナタリアは下がってよいぞ。ノエルは残っておれ」
そういわれ、アルスさんと見合わせるが僕も検討がついておらず首を傾げた。
「また後でな」
疑問に思いながらも、またポンと背中を叩きアルスさんとナタリアさんは部屋を出て行った。
アルスさん達が出ていくのを見送った、ポツンとその場にたたずむ僕へ
「古代のグリモワールの事、きになっとったじゃろ?」
「あっはい!」
あぁその事かと、ヤード砦で成果をだしたら見せてくれるという話だった事を思い出す。
「ここにはまぁまぁの資料がそろっとるからの、そこに積んでおるのが古代のグリモワールの事について記載されておるものじゃ。よな?ハイマー」
「えぇ、一応ここにあるもので読みやすいものを集めております」
「だそうじゃ。持ち出しは駄目じゃが、この部屋で見る分には自由にみていいぞ。儂はこの部屋にはあまりおらんがハイマーはだいたいこの部屋におるのでな、その時にみせてもらえ」
「えぇ!?ありがとうございます!」
「ふぉふぉふぉ、あとこれはじゃ」
ギレルさんは大きな本を取り出す。神聖や4元素のグリモワールよりも一回り大きい本。
「あの、それは?」
「わしが持っとる古代のグリモワールの一つじゃ」
「おぉ!?」
僕の古代のグリモワールに比べると、本当に古代のグリモワールは千差万別のようで大きさや色なども全く違う。
それを僕へ渡すかのように、両手で僕のほうへ突き出してくる
「ほれ、あまり見る機会がないものじゃろ。触ってよいぞ」
「よろしいのですか!?」
「よいよい、儂と繋がってはおるから開いてもどうもならんわ」
僕はその大きな本を両手で受け取った。
黒革の大きなグリモワール。両手でもっても重量を感じるその重みは正直戦場では使いづらいだろうなと思えるほどだ。
パラっと最初のページをめくるが、ギレルさんのいった通り繋がる感じはしない。だが詠唱の文字が日本語のルビとなって僕の視界に飛び込んでくる。
正しくこれはグリモワールなのだと思わされる瞬間。どんな内容なのか気にはなるが、読み進め怪しまれれも困る為、名残惜しいが返すことに
「ありがとうございます・・・すごいですね」
「じゃろ?こんな大きなグリモワールにどんな魔法が刻まれておるのか、気になってしかたがなかろう」
「・・・そうですね」
「ふぉふぉふぉ、ノエルがこの文字を解明してくれればよいがの」
「えっい、いやぁ~僕なんかが」
冗談かどうかは分からないが、ドキっとしてしまいどもり返事をする。
「じゃあわしは戻るのでな、ハイマー後は頼むぞ」
だが常日頃からよくどもり、噛むためにそのままスルーされてギレルさんは腰をあげた。
「ありがとうございます」
「よいよい、じゃが詠唱も怠ってはいかぬぞ。ではの」
ギレルさんはそのまま部屋を出ていった。
「ではノエル君、自由に読んでもいいが古い物もある。気を付けて呼んでほしい」
「分かりました」
そして僕は王都での暇を持て余した時間を埋める術を手に入れたのだ。
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