第34話 王都にて

第四王子の軍が王都についたのはヨークを出てから10日後のことだった。その間雨は7日間降り続け、食料も底をつき2日間は何も食べていない状態がみな続いた。


雨もシトシトと降り続け、王都についたのは昼前だというのに、雨雲が上空に立ち込める王都の姿は暗い物だった。空腹も相まって、僕の気分は高揚しなかった。


もっときらびやかなイメージをしていたが、魔道兵の宿舎にいくまでの道のりに見た街並みの景色は自分が想像していた王都のイメージよりかはかけ離れていた。


レンガや木材を使い、明るい色合いの街並みを想像していたが実際には灰色の石づくりが多く、少し大きな街と変わりはなかった。


雨の薄暗さも相まって街全体がグレースケールをかけたように思える。


そして魔導士や兵士の宿舎の隣にある城。ウィンザー城。王都にある王様が住むお城とは思えない風貌。アルスさんからは要塞だと聞いてはいたが、本当に要塞のようだ。


街と変わらぬ石造なのだが城壁は2重。ここから見上げるだけでも塔が10はある。街を覆う外壁を合わせればこの城は3重の壁で覆われている事になる。


魔道兵に備えるという事は、このぐらいして万全のように思える作りだった。


兵士や騎士と別れ、ギレルさんを先頭に魔道兵の宿舎へと続いていく。大広間のような場所に通され、僕らは席につくとすぐに食事が並べられた。


パンと塩味のにんじんと芋のスープだったが、空腹の僕らにとってはご馳走だった。その時は英才教育組の人もがっついて食べていた。


僕らが食事をしている間にリーディアの人らの姿はなく、せかせかと動き。そして、食事終わりにギレルさんから指示を出された。


「7日後に、どの軍の所属になるか通達を流すからの。リーディアを向かわせるから各自部屋にいるように、詳しくは各自のリーディアに聞いてくれ。また都度分からん事はリーディアに聞いてくれるかの。みなご苦労じゃったわ、今日は解散とする」


これでこのメンバーで最後になるかもしれないが、あっさりとした挨拶で終わった。


「いいかしら?あなた達の部屋割を聞いてきたから、案内するけど」


バラバラと魔道兵同士も挨拶なく、リーディアに連れられて行く様子に僕だけが少し感傷に浸り寂しい気持ちとなる。


「あぁ行こうぜ」


「はい」


「おう、頼むわ」


そして僕らも誰にも声を掛けることなく、その場を離れて行った。


お腹が満たされた事により、やっと僕の目には宿舎の中を見渡せる余裕がでてきた。


魔道兵の宿舎というだけあり、外観は石づくりの質素な見た目に反し、中は壁や柱に装飾があり貴族が住んでいそうだと思えるロマネスク様式に似た感じ。いや実際に魔道兵やリーディアには貴族がいるのだから、貴族が住む場所なのか。


3階建ての作りの、2階へと案内される。リーディアや知らぬ魔道兵もすれ違う事がしばしば。


「だからお前の教え方が悪いんだろ、クズが」


「申し訳ございません・・・」


2階へと上がり廊下を歩けば、魔道兵に罵倒されるリーディアの姿が。そしてリーディアは一発お腹あたりを殴られ、魔道兵は歩き去っていく。


「なんだあれは・・・」


「・・・ここじゃ日常茶飯事よ。気にしない方がいいわ、足を止めないで行くわよ」


アルスさんが気になり呟くと、ナタリアさんはそういい、殴られうずくまったリーディアの人を横目に僕らは案内されていく。


「ここよ、この213がアルスとノエルの部屋よ。ウィリアムは隣の214よ。といっても王都にいる間だけだから、家具などの大きな私物は買わないでね」


「おっしゃー、一人部屋かよ!」


「違うわ、もう一人リネットが同じ部屋になると思うわ」


新しく魔道兵に任命されたウィリアムは大きく喜んでいたが、違ったようで肩を落とす。


カチャリとナタリアさんが扉を開けると、廊下と同じような装飾のついた内装に僕とアルスさんから声が漏れた。


「すげーな・・・」


「はい・・・」


口をポカンと開けながら、ゆっくりと見渡して中へと入っていく。


「お、おれ、隣の自分の部屋みてくる!」


「ちょ、ちょっとウィリアム!もう!」


後ろで何か言っているが気にならない。


ベッドが2つに机に椅子。それらを並べても狭いと思わないこの広さは10畳ほどの広さはあるだろうか。


ベッドの方へ歩いていき、手で押してみるとふわりとした触感。


「やわらかい・・・」


「何に使うんだ・・・この小さなテーブルは・・」


アルスさんも部屋を見て回り、家具を一つ一つ触りながらつぶやいている。


「ふふ、田舎者丸出しって感じね」


僕らの様子をみていたのか、ナタリアさんは笑ってそういった。


「何言われても気にならねぇ・・・なんだこの部屋は・・・」


「このベッド・・・藁じゃないですよ・・・」


僕らはひとしきり部屋を見て回り終えると


「もういいかしら?この宿舎内は自由に動いていいわ。でもグリモワールと紋章は必ずつけておくように、もし街に用事があるなら私か他のリーディアに言う事。簡単なおつかいぐらいなら代わりにしてあげることも出来るわよ」


簡単な説明をしていくナタリアさん。


「宿舎内ってこの建物内か?それとナタリア達は普段どこいるんだよ」


「そうね、演習場もあるけど使わないでしょ?私達は基本1階ね。1階にリーディアの部屋があるわ。じゃあウィリアムにも説明しなきゃいけないから、自由にしてて頂戴。着替えはそこの引き出しに入ってるからサイズにあったものを使いなさい」


パタリと扉が閉まる。


ナタリアさんは隣の部屋に行ってしまう。勝手が分からないがやはり魔道兵は自由には出来ないように釘をさされた。


「どうするよ、こんな広い部屋で放置されてよ」


「まずは・・・この濡れた服を着替えますか」


タンスから服を適当に出していく。


「アルスさんのもここ置いておきますね」


「サンキュー・・・脱いだ服はどうすんだよ」


アルスさんは既に服を脱ぎ始めていた。


一週間近く着続け、常に雨に濡れていた服を脱いでドサリと地面に置く。べちゃりと水をよく含んだ音が聞こえたが、この状態でご飯食べてたんだなと先ほど気にしなかった事がいくつも気になり始めていた。


「ケープも新しいのくれるんですね。紋章だけが特別なんですね」


「みたいだな、汚れがしみ込んでたから替えが出来てよかったぜ」


新品ではないかもしれないが、乾いた匂いの服に包まれると気分も落ち着いていく。欲をいえば着替える前にお風呂に入りたかったが、今は乾いた服に包まれるだけでも十分だった。


着替えを済ませ、濡れた革のポーチも中身を出して吊るすように干しておく。


「結構持ってるな」


「殺した魔導士のお金も、ヤード砦から貰ったお金も何も使ってないですからね。それに給金もでましたから」


並べたお金は小金貨が7枚に銀貨が5枚。あとは銅貨や鉄貨がバラバラとあった。残りは宝石のついた指輪に銀のネックレスが僕の金目になりそうな物だった。


「はぁ・・・今、思い出しても時計は惜しいな。あの時だけなんで背負い袋にいれてんだよって話だよな・・・いつもは服のポケットにしまってるのによ」


「多分・・・背負い袋のほうが安全だとあの時は思ったのでしょうね。僕も王都にいる間に時計を買おうと思いますので、その時一緒に買いますか?」


「いや・・・俺はもう小金貨1枚分ぐらいしかないから無理だな」


「それは・・・残念ですね」


「魔道兵になって金ってあんまりいらなくなったと思ったが・・・やっぱり街に来ると必要だな」


「使う場面が無かったですからね~」


コンコン


「ナタリアよ」


「ん?入っていいぞ」


「着替えは・・・もうすましてるわね。これ持っていくわよ」


「ん?要件はそれだけか?」


「そうよ、また洗ったら持ってくるわね」


・・・野営時よりもナタリアさんは世話係のように働く。それだけ言うと僕らが脱ぎ散らかした服をもって出て行ってしまった。


「なんか・・・俺は慣れないな」


「僕もです」


「・・・あっで話なんだっけ?」


「あー・・・お金の話ですね。使う場面がなかったから必要性をかんじられなくてと」


ナタリアさんの様子から、僕らはまだ魔道兵という立場に慣れずにいるのだった。

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