第32話 生き残った代償
「・・・う・・・はよう・・・おはよう!!」
「わ!?」
ナタリアさんの大きな声で飛び起きる。
「おはよう、疲れているとこごめんね。でももう朝よ」
「えっ・・・はい」
天幕の入り口からは光が漏れ、とても眩しい・・・
目を薄めに開き、ナタリアさんに続く。
「おっぐっすり寝てたな」
「・・・おはようございます」
アルスさんもすでに起きて、グリモワールを片手に顔を洗っていた。
「ノエルもいるか?眠気覚ましにもなるぞ」
「あっ・・・はい・・・」
起きて早々に体はすぐには動かないが、折角水をだしているならと自分もパシャパシャと顔を洗う
「ありがとうございます」
思ったよりもその行動に眠気がとれていき、頭が回りだす。昨日は暗くてよく見えなかったが、今いる場所は土で出来た広場のような場所だった。天幕が周りに6個、ポツンとポツンと農家が立ち並ぶ場所。
周りをキョロキョロしていると
「ノエルも起きたことだから、昨日の食事をした場所に行くわよ。ギレル様から通達があると思うわ」
「はー・・・昨日の夜にあんな騒ぎがあっても、魔道兵は通常どおりか」
「騒ぎがあったからこそよ、ほら行くわよ」
ナタリアさんの様子は昨日と変わり、いつも通りに戻っていた。
昨日の農家の前に魔道兵が4人集まっている。リーディアも2人。
「まだみたいね、ここで待っていましょう」
「砦はどうなってんだ?サイレンスの群れはどうなったんだ?」
「その話をこれからするのよ、黙ってまってなさい」
「・・・」
「・・・」
しばらくすると、ギレルさんがやってくるが集まっているのは魔道兵10人に、リーディアが7人。砦に着いた時よりも大きく数を減らしている。
「皆の者、おはよう。まずは昨日の騒ぎの事からかの・・・、すでに兵士や騎士が昨日のうちにサイレンスなる魔物を排除したようじゃ。何匹かは逃げられた様じゃがリーンからはいなくなっとる」
ギレルさんがくると、すぐに話が始まった。
「今朝がた、兵士や騎士、リーンの守備兵たちが行方不明者などの捜索を行い、砦内にも入って行ってな・・・残念じゃが、魔道兵も何人かは死体となって見つかったわ」
ギレルさんはそこから死んでしまった魔道兵の名前を口に出していく。
「ロッツ、ミシェル、ローランドとバーグランスの死は確認できておる」
「は!?バーグランスは死んだのか!?」
ギレルさんの言葉にウィロスがすぐに反応する。僕や隣にいるアルスさんも顔を見合わせ驚きを隠せなかった。
それとロッツさんが死んでいるという事が分かり、隣のナタリアさんから小さなため息のような物が聞こえた。
「・・・お主らが必死につれて戻ってきてくれたことには感謝しておるが、戻った時にはすでにこと切れておったそうじゃ」
「なんだよくそが!」
ウィロスは怒りを地面にぶつけ、ざっと地面を蹴った。
「・・・続けるぞ。アルテミア、ロングレンジとホーキンズ。それとリーディアのアンドレアとゲイルは行方不明じゃが・・・生きておる線は薄いの」
ギレルさんも淡々と説明をしているが、口にだしたい内容ではなさそうな顔をしている。
「今日の予定じゃが・・・昨晩の件で兵士が疲労しておるとのことでな、もう一泊リーンに滞在する事になったからの。今日は休日にあてよ、みな自由に過ごしてくれて構わんぞ。以上じゃ」
ギレルさんは要件だけ伝え、またどこかに行ってしまった。残された魔道兵10人もバラバラと散っていく。
ウィロスも
「なんだよ!生きてたじゃねーか!なんだよくそ!!」
「ウィロス、行きましょう」
今だバーグランスさんが死んだことが納得できない様子に、ラウンドさんに諭されながら歩いて行った。
「ウィロス・・・残念だなバーグランスさん」
「ですね、僕らが生き残れたのはバーグランスさんのおかげでもあったのに・・・」
「あぁ・・・礼でも言って、一杯酌み交わしたかったぜ」
「残念です」
ウィロスの様子をみて、やりきれない気持ちは僕らも一緒だった。
「あなたたち・・・今日はどうするつもり、街に行きたいなら手配するわよ」
「あー・・・どうするかな」
「僕は・・・暗い気持ちはありますが、お腹はすきました」
「だな、飯食って・・・軽く街みたらダラダラ過ごすか」
「・・・分かったわ、食事ならここに入ればくれるわ。私は騎士の手配しておくから」
ナタリアさんは僕らの返事を待たずして、いう事だけ言って出かけて行った。
「あいつ、大丈夫か?」
「僕らは生きてましたが、ロッツさんが亡くなったのでショックなんでしょうね・・・」
「はー・・・とりあえず飯くおうぜ」
家の中に入り、昨日と同じスープを貰う。昨日よりも煮込まれたスープが芋がとけてどろっとしていたが、それも美味しかった。
食事を終わらせると、2人の騎士とセラさんがナタリアさんの横に立っていた。一人はまたグリンデルさんだ。
「セラとグリンデルさんとリビングストーンさんが護衛してくれるから、まぁこの街は安全だと思うけど一応ね」
「ん?ナタリアは行かないのか」
「えぇ・・・やることがあるの、じゃあセラ後は任せたわ」
「はい、アルスさんノエルさん行きましょうか」
「えっお、おう」
ナタリアさんはそそくさと街の方角ではない方へ歩いて行き、僕らもリーンの街へブラブラと行くことになった。
正直、楽しい気分にはなれない為に僕らの街探索は早々に終わりを見せ、アルスさんが部屋に残してきた荷物を取りに行きたいという事で僕らはその足で、バルグ砦へと向かっていく。
「全部、お腹を割かれてますね・・・」
丘を登る道中、サイレンスは何匹もお腹から真っ二つに裂かれている。
「獲物を丸のみにする魔物だ・・・死体を探すにはこうするしかないしよ、グリモワール探しも兼ねてるだろ・・・」
「あっ・・・そういう事ですか・・・」
「・・・俺も兵士の頃に魔物相手にはやってた。まるで宝探しをするかのようにな」
「・・・」
立場が変われば見方も変わる。アルスさんも昔の事を思い出しているようだった。
サイレンスの切り裂かれた死体の隣には、兵士や魔道兵の死体が置かれている。
まだ片づけの最中だったようだが、兵士達は意気揚々に死体から装備をはいだり、騎士だラッキーだと嬉しそうな声を上げていた。
丘に並べられた無数の魔物と味方の死体。この中には僕らが連れてきたせいで死んだ人もいるのかと思うと、罪悪感から早足で駆け抜けたくなる。
目を伏せみがちで、直視しないように登っていった・・・
だが僕は見てはいけない物を見てしまった。
足を止めて何度も瞬きをし、目を見開き何度も違うそうじゃないと言い聞かせても、僕の頬には涙が伝わっていく。
「おい、どうした・・・ノエル?」
「あ、あるすさ・・ん・・・うっ・・・うっ・・・・・」
僕は一つの死体に指さした。
特徴のあるアルスさんと同じ、港町生まれで強い日差しを浴び続けていた焼けた肌に、色素が少し抜けた赤毛の髪。それに頬にはチャームポイントだと言っていた縦に入った特徴的な傷。そんな彼の死体は上半身から下がなかった。
「す、すないぷ・・・」
「うっ・・・うっ・・・」
スナイプさんが死んでいた。
「嘘だろ・・・こんな・・・うぉーーーー」
アルスさんはスナイプさんの死体の前で泣き崩れた。
ドンドンと何度も地面を叩く。
アルスさんは結局、スナイプさんとはまだ折り合いが着けれていなかった。だが、そろそろスナイプさんも次会う時には連れてきてくれと言っていた時だったのに・・・
それも叶う事なく彼は死んでしまった・・・
「くそ!おれが・・・俺が引き連れていったばかりに・・すまん・・・スナイプ、すまん・・・」
アルスさんの言葉は僕にも当てはまる言葉だった。アルスさんだけのせいではない・・・自分が生き残るために僕らはあの砦から脱出して・・・
「すいません・・・・」
僕もアルスさんの隣でスナイプさんに謝った。いや、スナイプさんだけではない・・・ここに倒れている兵士や騎士達全員に対しての言葉だった。
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