第31話 ハフハフッ

怪我人がいるぞ!

道をあけてくれ!

魔道兵!治療師はいないのか!


飛び込んだ僕らは、下り坂を全力疾走したためにその場に倒れこみ息がきれていた。兵士達が救護をしてくれようとしている為に僕らは任せるしかなかった。


「はぁーはぁーはぁー、誰か水くれ・・・」


「はぁ・・・はぁ・・・」


アルスさんやウィロスもバーグランスさんを抱えての為にギリギリだったのかもしれない。


僕も両手を地面につき、膝立ちのまま動けなくなっていた。


兵士達に支えられ、僕らはそのまま前線から引きづられる様に離れていく。


くるぞ!構えろ!

うあーーぁーー


僕らのすぐ後ろで兵士が戦っている。叫び声も聞こえるのは僕らがなすりつけたようなもんだった。


「はぁ・・・はぁ・・・」


徐々に息が整いつつあったが、頭はグラグラと脈打つリズムに合わせ鈍い頭痛がまだ僕を襲っていた。


僕らは兵士に引きづられ、リーディアが集まる一画へと連れてこられると


「アルス!ノエル!」


僕らを見つけたナタリアさんが、僕らに駆け寄り僕ら2人を両手で同時に抱きしめた。


「・・・やめろ、恥ずかしいだろ」


「ごめんなさい、私が・・・ごめんなさい・・・」


アルスさんの照れた言葉と裏腹に、ナタリアさんは涙声のように謝った。顔は見えないが泣いていそうな雰囲気にアルスさんはたじろぐ。


「な、なんだよ・・・」


僕は何も言葉が出ないまま、痛む頭を我慢しそのままでいると


僕らの下った道にウィロスの魔法よりも更に、広範囲な吹雪が吹き荒れていた。冷気が少し離れた僕達まで届き、熱い夏の夜を涼し気な風が通り抜けていく。


「ぷはぁ!てめーら!俺様を置き去りにしやがって!!」


一息ついたウィロスが、暴れ出しはじめ本当にこの人は元気だと呆れる。


「ウィロス・・・すまない」


グランドさんがウィロスの前にいき、頭を下げていたがウィロスはずっと怒鳴り散らしていた。


僕もウィロスほどではないが、リーディアが何人かいるために置き去りにされたという気持ちが分かり、思うところもあった。


「ナタリア、離せよ。こっちは死に物狂いで走ったんだ、水くれよ」


アルスさんも怒ってはいそうだが、それをナタリアさんにぶつけようとはしていない様子。


「うん・・・」


静かにだがナタリアさんは僕らから離れると、アルスさんはグリモワールを開き水を出し


「ノエル、よくやったな。お前も飲めよ」


「いた、だきます」


流れ落ちる水道のような水に、両手で器を作り3度ほど飲み干した。


体にしみわたるその水の味は、一番美味しく感じた水だった。


そして頭痛を抑えるために、ポーチからドライフルーツとナッツの塊を掴むと口へ放り込む。


「俺にも一口くれ」


「どうぞ」


その様子をみていたアルスさんへも一掴み渡す。


僕らがリーディアに囲まれ、休んでいる所へギレルさんと数人の魔道兵が僕らの方へと歩いてきた。サイレンスの討伐は終わったのだろうか。


「ふぉふぉふぉよく生きとったのぅ、感心じゃわ」


「おい爺さん!何呑気な事言ってんだ、こっちは死にかけたんだぞ!」


「悪かったの、じゃがな王子の身が最優先じゃ魔道兵と行っても兵士じゃ、どちらかを優先させるかは必然じゃて」


ギレルさんにもたてつくウィロスを見ると流石にヒヤヒヤするが、ギレルさんはなんのその、軽く受け流し真っ当な事を言う。


「俺が死んでたら後悔してたからな!」


捨てゼリフを吐くようにウィロスは最後にそういうと、その場にあぐらを組んで座り込んだ。


ギレルさんの横には、ウィザードの名前は知らぬ人が1人、メイジが4人の合計5人。僕とアルスさん、ウィロス、バーグランスさんにアルテミアさんと・・・亡くなったローランドさんは見かけた為に6人だ。


魔道兵は全員で、17人いたはずだが残りの6人はどこにいったのかと思う。ロッツさんの姿も見えないから気が付いたことだった。


「お主らだけかの、砦を出たのは。アルスよ」


ギレルさんは、僕ら4人の中で一番まともに話が出来そうな相手を名指しで選び声を掛ける。


「はい・・・ローランドは俺達の目の前で食われました。アルテミアは部屋に残るといいまだ砦内です。残りの魔道兵はすでに俺達が部屋を出た時にはいませんでした」


「そうか・・・まぁお主らはよく生き残ったわい。置き去りにしたことは申し訳なかったの、じゃがな儂の判断じゃ、リーディア達やボルグ砦の兵士や騎士には何の責任もないからの、恨むならわしじゃ」


「・・・はい」


「ノエルもようやった、”聖なる領域”をすでにものにしておったようで助かったかの」


「いえ・・・」


僕も文句の一つでもでそうになっていたが、それを抑えるためにそういうので精一杯だった。


「うむ、ナタリアよ。疲れてる様じゃから向こうに連れていってやりなさい」


「はい、行くわよ二人とも・・」


歩きだす後ろを、僕とアルスさんが続き、その後ろに2人の騎士が後ろに続く。一人はグリンデルさん、ヤード砦の後方部隊で生き残った人だ。


ポンっと僕の肩に手を置き


「よくやったな」


そうグリンデルさんは、優しい声色で声を掛けられた。


僕は疲れた顔のまま、口角だけをあげ、グリンデルさんの方を向き頷くのみで返事だけ返した。


徐々に頭痛は収まりを見せていたが、疲れがでていた。


ナタリアさんに連れてこられたのは、農家の1軒屋。ホーリーオーツによくある、実家のような馴染みのある作りにどこか落ち着く。


中ではセラさんともう一人のリーディア、魔道兵の料理長のジェフさんが料理をしていた。


「ノエルさん!」


セラさんが僕を見つけ、駆け寄ってくる。


「セラ、2人に何か食事を先にあげてくれる?ウィロスも時期にくると思うから準備もお願いできるかしら」


だが僕が返事をする前に、ナタリアさんはセラさんに指示を出す様子はナタリアさんの方が少し偉いのかな?と思わされる感じ。


「はい・・」


「セラさんに聖なる領域を・・教えて貰ってたので、助かりましたよ」


心配そうにこちらを見ていた為に、僕はまた口角だけをなんとかあげてそう言った。


するとセラさんは、軽く一礼をするとナタリアさんの指示のもと動き始めたのだった。


「二人とも・・・こっちに座りなさい、疲れてるでしょ」


ナタリアさんに誘導されて、平屋の家の奥へと誘導される。


「ふー・・・」


木の椅子に座りながら、アルスさんは一息ついた。


僕もゆっくりと、座る。もう足が棒のようになっていたのだ。


家の中を見渡すが、グリンデルさんの姿はなく家の中には入ってきていない様だ。


「なんか・・・魔道兵ってそこまで強くないのかって思っちまったな」


「・・・ですね」


アルスさんは先ほどの事を思い出しすように喋り始めた。


「塔や砦を崩せる力があっても・・・魔物1匹にすら怯えて・・・」


「・・・」


そう呟くとアルスさんは黙ってしまった。


僕も特段喋ることがなく、ナタリアさんも声を掛け辛そうにし少し気まずい空気が流れた。


しばらく無言の空間が続いたが、僕らの前に野菜がゴロゴロと入るスープが置かれた。


「どうぞ、食べてください」


セラさんが僕らの前に並べたスープ。湯気が立ち、ニンジンやキャベツ、芋が浮き、チラっと先だけを覗かせるウィンナー。この街にきて携帯食料しか食べていなかったので、僕らはかなりお腹が空いていた事に気が付き食欲をそそられる、そのスープの匂いに僕らはがっついた。


「ハフハフッうめー!」


「はふはふはふ!」


熱さなんて気にせず口に入れていく。小屋の中は料理の熱気と、もとの季節の温度で暑かった。でも僕らは汗をかきながら一心不乱に食事する。


バタン!


「俺の飯はどこだー!」


勢いよく扉が開く音に続き、ウィロスの声。


だが僕らはそんな声も気にせずに食事を続ける。


ドカドカドカと同じようにこちらに歩いてくると、ドサっと僕の隣の椅子に座る。


「なに先に食ってんだよ」


「はふはふはふ、うめーぞこれ」


「おい、早くくれ!」


すぐにセラさんがウィロスにも同じようにスープをもってくると同じようにガツガツと食べ始めた。


咀嚼音と鍋が煮える音。ジェフさんが野菜を切る音以外はこの家の中にはなかった。


「はー・・・くったくった」


「ウィロス、流石に3杯は食いすぎだろ」


「はー?お前誰のおかげで生き残ったと思ってんだよ。俺様のおかげで生き残れたようなもんだぜ、敬意を払えよ」


「は?生き残れたのはノエルのおかげだろ、お前と俺は最初に魔法ぶちかましただけだろ」


「俺が最初に道作ったからだろうが。まぁチビの方はそれなりに役にたったからな、お前はまぁ認めてやるよ」


食事を食べ終わり、アルスさんとウィロスが喋り始めた。ただウィロスの中で一応僕は評価されていたようだ。


「えっ・・・いえ、僕はみんなのおかげかと・・・だれか一人でも・・かけてたら」


「は?なんて言ったこいつ?全くききとれなかったが」


「みんなのおかげだとよ」


「シャキシャキ喋ろ!・・・まぁアルス?お前も2回目の火炎を準備してた所は褒めてやるよ、俺も詠唱の途中までしてたけどな」


「嘘つくなよ!でも、お前の氷の魔法あれ詠唱数何文字だ?やたら遅かったが効果はすごかったな」


「だろ?あれ600文字ほどあるぞ。あの場で間違わずあれほどの詠唱を出来るのは俺ぐらいだろガハハハ」


600!?それをあの土壇場で間違わずに詠唱したのかこの人!?


「600!?お前、まじで見かけによらず、すごいやつなんだな」


少しアルスさんと心の中の声がハモる。アルスさんも600という字数に驚いていた。


「あっ・・・僕も、アルスさん、こけそうになったところを支えて貰ってありがとうございます。あそこでこけてたら、多分死んでました」


僕も頭痛で集中力が切れた時の事を思い出す。あの場で転べば今はサイレンスのお腹の中だったに違いない。


「あー、それ俺じゃないぞ。ウィロスだ」


「え!?」


だが、あの時声をかけてくれたのはアルスさんだったから、支えてくれたのもアルスさんだと思っていたが、実際に助けてくれたのはウィロスの方だった。


「なんだ?俺じゃ不満か?」


「い、いえ。ウィロスさん、改めてありがとうございました」


「ふん、おせーわ。雑魚どもと思ったが、名前ぐらいは憶えといてやるよ、アルスとノエルだな」


ウィロスはそういい立ち上がった。


「あぁ、今日はお前がいてくれてよかったぜ」


「ぼ、ぼくもです」


「ふん!グランド、俺は疲れた。寝るぞ!」


「はい、寝床も別の場所に用意しているので行きましょう」


ウィロスはグランドさんと共に家を出ていく。嵐の様な人だ。いなくなると一気に部屋は静かになった。


「あいつ色んな意味でやばいやつだな」


「はい、でも助けられたのも事実です。本当、みんながいてくれてよかったです」


「だな・・・誰か一人でもかけてたら脱出出来てなかったな。バーグランスさんも無傷ならよかったがよ」


「・・・ナタリアさん。グリモワールは片手でも使えるんですか?」


アルスさんがバーグランスさんの話題を出したために、部屋の隅でずっと立ったまま俯いていたナタリアさんに声を掛けた。


「えっ、そうね・・・残念ながら魔法は使えないわ。魔法はグリモワールを持たない片手に宿るものだから」


「そうですか・・・ウィザード2級にあがったばかりなのに・・・」


バーグランスさんはグリモワール事、腕を食いちぎられていた。サイレンスの気を散らすために火よ来たれを使ってくれた為に・・・軍人気質で長年やってきただろうに、魔道兵として従軍できなくなったと思うと不憫に思えた。


「そういう場合、グリモワールはどうなるんだ?所有者が死なない限りは、グリモワールは新しい主人をみつけないんだろ?」


「そうよ、そのままよ」


「ふ~ん・・・」


アルスさんはそこまで聞くと黙ってしまった。


部屋の隅にいたナタリアさんが、僕らの机の方までくると頭をさげて


「・・・大変だったわよね、本当にごめんなさい」


また謝罪の言葉を口にする。


「なんでさっきから、ナタリアが謝ってんだ?ずっと申し訳なさそうな顔して」


「あなたちを連れてこれなかったから・・・何人かのリーディアは・・・担当の魔道兵を連れ出したわ・・・」


「・・・そっちの動きはしらないけどよ、もういいだろ。ギレル様もリーディアのせいじゃないって言ってるじゃねーか」


「そ、そうですよ」


今にもまた泣き出しそうな様子にアルスさんは、この話を終わらせようとした。


「で、でも・・・」


だがまだナタリアさんが気にしている素振りを見せるが、アルスさんは立ち上がると


「終わりだ終わり。俺達も悪いが寝かせてくれよ、ノエルは魔力をギリギリまで使ってるからな」


「えっ・・・そうね、案内するわ」


同じように僕も立ち上がり


「おやっさん、今日のスープは格別だったぜ」


「ジェフさん、ご馳走様でした」


「おう!また明日な!」


料理長に挨拶をして、僕らは農家を出ていく。


ナタリアさんに連れていかれると、天幕があり中にはランタン一つとマットが引かれていた。


「ここよ。今日はおつかれさま・・・」


「おう、明日はもうそんな暗い顔してんじゃねーぞ」


「ナタリアさん、おやすみなさい」


「うん・・・」


ナタリアさんはそういい、天幕の入り口を閉じた。


「ナタリアさん大丈夫でしょうか?」


「さぁ・・・ロッツの姿も見えないからな。考えてる事が色々あって不安なんだろ」


「ロッツさん・・・無事ならいいですね・・・」


「捜索も明るくなってからじゃないと無理だろうな・・・今は寝ようぜ・・・明かり消すぞ」


「はい、おやすみなさい」


僕らのリーンの村での夜は更けていった。

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