第30話 サイレンス

「8時か・・・やけに静かになってるな」


「そうですね・・・ナタリアさんも戻ってきてないんでしょうか」


「・・・様子を見に行くか」


僕らが部屋で待機と言われたのは6時頃の日が落ちようとした時だった。すでに2時間がたっているにも関わらず、音沙汰もなく音だけ止んでいることに不気味な雰囲気だ。


「そ、うですね・・・」


カチャリと部屋のドアを開け、廊下にでると人の動いている気配はない。


「静かですね」


「静かだな」


アルスさんが廊下に出ていくため、僕も続く。そして向かいの部屋、ウィザードの誰かが使っている部屋をおもむろにノックする


コンコン


「だれだ?」


中から声が返ってくるので、一安心。


「メイジのアルスとノエルです。何か今の状況に報告を受けたか聞きたくて」


「そうか、まってろよ」


カチャリと開かれたドア。中から出てきたのは白髪の老齢の男性。一緒にヤード砦で昇級した、名前は憶えていない人だった。


「どうした?」


「先ほどと変わり、やけに静かになったと思い何か知っている事があればと」


「俺は何も聞いてないが、さっき・・・いや30分ほど前か?お前らみたいな何か知ってるかって聞きにきた連中が5人ほどいたな」


「どこ行ったかしってますか?」


「あぁ、俺は待機と命令があったから待機してる。命令無視はできないからな、あいつらにもそう言ったが俺の言葉なんて聞く耳持たず階段の方へ歩いていったぜ」


特段得る情報は無さそうだと思った時に。


「飯はまだかーー!グランドーー!」


元気よく声を張り上げて出てくる男、静まりかえっている廊下はその男の声が響いていく。


「ウィロス、静かにしろ」


すぐにウィザードの男性が注意を促すが、


「バーグランスさん、もう飯の時間すぎてるぜ?いつまでこの天才魔導士のウィロス様を待たせるのかって話だ」


自分で天才魔導士とは、この自信は少しわけて貰いたい。


「丁度今、こいつらともその話をしていた。だがこの静けさにリーディアもいないのは確かに様子がおかしいな」


ドシドシドシと肩を揺らすようにこちらへ歩いてくるウィロス。髪型は耳上までのおかっぱに体はでかく、アルスさんよりも身長は高い。着ている魔導兵のケープは横へ伸び切っているようだ。


「なんだ?こんなやつら魔道兵にいたか?」


ウィロスは僕らの事が今まで見えていなかったように、話を始める。


「アルスとノエルだ」


それを聞いてアルスさんは、眉間にしわを寄せ明らかに怒っている声のトーンで名前を言うが


「覚えるつもりはないからいい。俺の頭は詠唱を覚えるためだけにつかわねーとな。で、バーグランスさんよグランドか誰かリーディアしらねーか?」


ここまできっぱりと言えると気持ちのいいもんだろうな。


アルスさんもそう言われ黙ってしまう。


「見ていないな。俺も今廊下に出たばっかりだ」


「そうか、腹も減ったし探しにいってみっかな」


ウィロスはそのまま廊下を進む。


「おいウィロス待て。何が起こってるか分からないぞ」


「俺は最強だガハハハ」


バーグランスさんの制止に全く聞き耳を持たず、そのまま階段の方へ進んでいった。


「あいつ、俺達も探しに行ってみるか?」


バーグランスさんは頭をガシガシとかき、僕らに返事を求めた。


「そうしましょう」


「あっ・・・一応、他に、残っている人がいないか、確かめてからでも」


ここで僕は初めて言葉を口にする。


「・・・そうだな、お前たちはメイジの部屋を確認して行ってくれ。俺はウィザードとリーディアを調べる」


僕らはその後、魔道兵の部屋の順に確認し、いたのは2人の魔道兵だけだった。


ウィザード3級のアルテミアさん。若い女性に長い金髪は明らかな貴族感。もう一人はメイジ2級のローランドさん、兵士上がりの人かな?と思わせる30代ぐらい無精ひげをはやしたゴツイ風貌の男性。


「調べにいく必要ありますか?何か事が起きていても、バルグ砦の兵士達で何とかするべきだと思いますが」


「それはそうだが、リーディア達もいないのならそれぐらいは探してもいいだろ」


「リーディア?リーディアなんてほうっておけばよろしいわ、何の役にも立たない連中ではありませんの」


・・・きつい性格だな~・・・そのきつい性格は、そのまま顔に反映されている。


「おい、あんた、教えを乞う立場でリーディアの事悪く言うのはよせよ」


「・・・メイジ3級の分際でわたくしに意見するとはいい度胸ね。ふ~ん、見た所兵士あがりのようだし、庶民の出だから礼儀も知らなそうね」


アルスさんがリーディアをバカにする言葉を吐くアルテミアさんに注意をすると、アルスさんの紋章を確認し、上から下まで見てそういう


「今はよせ、アルテミア」


「まぁいいわ。わたくしはここで待機と言われているので、探したければご勝手に」


アルテミアさんは、長い髪をばさっと右手で払いながら体の向きをかえて部屋へと戻って行った。


「・・・そっちのローランドはどうする」


「俺はいくぜ。ここで一人残っても不安だ」


「そうか、ウィロスは階段を下っていたよな?」


「そうですね、俺達も下へ向かいましょうか」


僕らは階段を降りて行く


「なんでこんな静かなんだ?」


「さぁ、それを俺達も不思議に思っての行動だ」


階段を降りながら、アルスさんとローランドさんの会話を聞いているが・・・静かすぎるようすに、僕はグリモワールベルトから外した。


先頭を行くバーグランスさんもすでにグリモワールを持ち構えている。


階段を降りきるが、人の姿は見えない。廊下には揺らめく松明だけが掲げられている。


「このまま入口に向かうぞ」


「はい」

「はい」

「おう」


この大きな砦に人の姿が見えず、無音のこの空間に、バーグランスさんは小声でささやくように声を掛けてくる。そして僕らも真似をするように小さな声で返事をした。


コツコツコツと足音だけが響かせ、入口の方へ向かっていくと入口のドアの前でウィロスがそこにたたずんでいた。


「どうした」


「うぉ!ビックリさせるなよ」


バーグランスさんがウィロスに声を掛けると、飛び上がる様に驚く。ウィロスでもこういう反応するのかと以外に思う。


「どうした?なんで外にでないんだ?」


ローランドさんがドアに手をかけ開こうとするタイミングで


「やめろ!あけるな!」


ウィロスが開けるなと大きな声で制止した。


だが、すでに開かれていく扉


「は?」


気の抜けた返事をローランドさんはし、ウィロスの方を向くが僕らは扉が開かれた先、外の光景の見ていた。


うごめく無数の黒い影と黄色の点。それが10mほど先で這いずり回っていた。


「し、閉めろ!」


「はやく!」


僕らはその光景をみて、ローランドさんにドアを閉めろと急かすが、当の本人はこちらを見ている為に外の光景が見えていないのだろう。


全く訳が分かっておらず、渋々という感じでゆっくりした動作で視線を前方に目をやり扉を閉めようとしたが、動きが止まった。


「はやくしろ!」


みんなも早くと口を出すが、動けずにいるばかりだった。


すると、いきなり僕らの前からローランドさんの姿が消えた。一瞬の出来事だった。


一気に体を伸ばしたサイレンスは、ローランドさんを丸のみにするように咥え去ったのだ。


次に見た光景は、上体を持ち上げサイレンスの口からローランドさんの下半身がゆっくり飲み込まれていく姿だった。


誰も動けずにいた中で、ウィロスは扉をバタンと勢いよく閉めた。


扉の取っ手には、ローランドさんのものと思わしき右腕が残っていただけだった。


「あいつ、なにしてくれんだよ!」


「な、なんだあの魔物は!」


ウィロスはローランドさんを罵倒し、バーグランスさんはサイレンスを見たことがないようだ。アルスさんも知らなかったため、土地柄で魔物の生息地は異なるのかと・・・僕はドキドキと鳴る心臓を抑えるように、必死に思考をやめないようにした。


「一匹じゃないよな・・・10はいたか?」


「は?てめぇどこに目つけてんだよ。正面だけじゃなく左右にもうようよといただろ。10や20って数じゃねーよ!」


「ぐっ」


アルスさんが喋り始めると、ウィロスはそう答える。言い方はあれだが、ウィロスは冷静に周りが見えているようだ。


「・・・この砦はあの蛇に包囲されているのか?」


「そうだろ、普通に考えて。静かなのはみんな食われたか、俺達を置いて避難したかのどっちかだな」


ウィロスは先ほどと変わり、バーグランスさんへも敬意を払わない喋り方になった。


「どうすんだ?生きてるやつを探すか?」


「は?てめーはアホか、砦内にもすでにサイレンスは忍び込んでるだろ。歩き回ってもさっきのやつみたいに丸のみにされるのが落ちだ」


アルスさんの言葉に全て、喧嘩腰のように反論するがこれがウィロスの基本の喋り方なんだろう。


「じゃあどうすんだよ。ここにいても意味ないだろ」


「だから俺は機会を伺ってたのによ、てめーらが邪魔しちまいやがって」


アルスさんも負けん気の強い性格の為、強く言われると語尾を強くして返す。


「落ち着け、2人とも。ウィロスどうやって出ようとしてたんだ」


落ち着きを一人先に取り戻した、バーグランスさんは2人に声を掛ける。


「・・・魔法をぶちかまして殺すしかないだろ」


先ほどまでの威勢とは違い、少し尻すぼみの言葉に作戦までは考えていなかったようだ。


「何も考えてないのかよ」


「は?ならてめーが案だせよ」


また、わめき出す2人。


僕はその2人を置いて思考にふけた・・・


サイレンスは大きく、家畜や人を丸のみにするが・・・殺せないわけではない。何度も冒険者がサイレンスの亡骸をもって村に証拠として報告にきたのを覚えている。


あのとき・・・冒険者はなんていってたか・・・・


僕は必死に村の出来事を思い出そうとしていた。名も知らぬ冒険者が自慢話のように、サイレンスを仕留めた話を・・・


『サイレンスは火や熱が大好物だ。暖かいものによっていく習性がある・・・逆に冷気を浴びせればたちまち動かなくなっちまうからな、その時に首をバサッさりだ・・・』


そんな事を言っていた・・・


僕は記憶をたどり、冒険者が言っていた事を思い出した。そして思い出したときに


「あっ」


っと声をだしていたのだ。


「どうした?」


「うるせーぞチビ」


思っていたよりも声が出ていたようで、3人が僕に注目していた。


「えっいや・・・サイレンスの弱点というか・・・弱みを思い出しただけで、別になにも・・・」


「いや、何か考えついてるんだろ。聞かせてくれよ」


「ガキ、さっさと喋れ。いいか悪いかは俺が判断してやるからな」


アルスさんとウィロスにそう言われ、チラっとバーグランスさんの方を見ると静かに頷くために、冒険者がサイレンスを討伐した話をした。


「誰か、冷気の魔法は・・・使えませんか」


「俺は深淵だ・・・使えない」


バーグランスさんの持つグリモワールは深淵のグリモワールだった。背表紙が黒い。


「・・・俺も駄目だ」


「だからてめーらとは違うんだよな。俺は”吹き荒れる氷”の使い手だ!」


そしてウィロスが冷気っぽい名前の魔法を自信満々に口にした。


「俺が1匹ずつ殺していくしかないか、結局はな」


「いえ・・・それは効果的ではないですよね・・・」


「じゃあどうすんだよ!」


ウィロスに反論すると怒鳴られる。大きな声だす必要ないだろと思うのに・・・


「・・・火炎で囮を作り、動かなかったやつに冷気の魔法を撃ちこんでその隙に逃げ出すか」


僕が喋るより先に、アルスさんは口する。


「そんなんで上手くいくわけないだろ・・・やっぱアホだぜこいつ」


「いえ・・・僕も同じ気持ちです。恐らく砦の人は先に避難してしまっていると思います。砦内にサイレンスが侵入してみなを食べているのなら・・・もっと争った跡やたいまつの火も食べられているので。砦をでて村までいけば兵士もいますから・・・」


「・・・そうか、だが俺もウィロスがいうように無謀だと思うな。あの数の敵に最初の囮と一撃だけで逃げ切れるとは思えない」


僕とアルスさんの作戦に、ウィロスとバーグランスさんは難色を示す。


「・・・あとは賭けですが・・・”聖なる領域”この魔法を発動中は何人たりとも僕の作る領域に入ることが出来ない防御魔法です。これを使いながら下って行こうと思います。ですが・・・領域ごと丸のみにされる危険もありえそうで・・・」


「”聖なる領域”か・・・それならいけるのか・・・だが、くだりだとしても街まで7分は掛かるだろ・・・そんなに持つのか?」


バーグランスさんは”聖なる領域”を知っているような口ぶりで、質問する。


「・・・それこそ賭けですね」


”聖なる領域”を教わったのは行軍中で、正直最大何分もつかは僕自身も知らないのだ。2分ほどは持つのは把握しているが、それ以上は試せていなかった。セラさん曰く、マジールさんで4分ほど持つと聞く限りでは、大いに勝ちの目がある作戦ではあった。


「おっでも、アルテミアもいればもっと確実になるか」


バーグランスさんもアルテミアさんの事を思い出し、僕らの作戦に乗る気でなりつつあった。


「くそみたいな作戦だが、俺の手がいるってなら貸してやるか」


声高々にこんなに渋々感を出す人も珍しい。ウィロスも勝ち目があると踏んだ時だった。



「・・・ん?暗かったかあそこ?」


アルスさんが僕らが進んできた廊下の先を指さす。


「いえ、たいまつは全部ついてましたよ・・・」


すると、僕らから10個ほど離れたたいまつの火が消えたのだ。


「消えた?」


「!?さ、サイレンッス、で、ですよ!火、食べながら近づいてます!」


「おいおいおい!侵入してきてるじゃねーか!」


「アルス!火炎だ。俺が扉を開けたら火炎を撃て!ウィロスとノエルも詠唱の準備をしろ!俺がやつを見て置く!全員呪文の準備が出来たら手を挙げろよ!」


年の功、長年の戦闘経験。ここぞという時にいち早く指示を出すバーグランスさんの言葉に、みんなグリモワールを開き詠唱を始めた。この時ばかりはウィロスも無駄口を叩かずにすぐに詠唱に入っていたのだ。


ボソボソと隣で喋る、アルスさんとウィロスの詠唱に気が散りそうになるが、僕はグリモワールを読み進めていく


頭が真っ白になり覚えている詠唱は飛んでいる僕に対して、今の状況で記憶している詠唱を唱えるアルスさんとウィロスがすごい人に思えた。


グリモワールを読む目の端で、徐々に壁にかかる松明の火が消えていく様は、僕らの命のカウントダウン。


焦る気持ちとは裏腹に、グリモワールを心の中で読めばいいだけの僕は順調に読み進めていく。


(・・・我を仇なすものがこの地を踏み入れる事を禁ずる)


僕は詠唱を読み上げ、魔法名を発動するまでの待機状態となり手を挙げた。グリモワールから目を離した時には右手とグリモワールに炎をまとわせたアルスさんが、同じように手を挙げていた。


ウィロスの詠唱がまだおわっていない様子だが、すでに壁にかかる松明は僕らの位置まで残り3本となっていた。


隣でまだ、早口でボソボソ続けるウィロス。


そして松明は残り2・・・すでにサイレンスの体は見えていた。


あのサイレンスが、アルスさんの待機状態の火に先に飛びつく可能性もあり、額から汗が流れる。


「くそ・・・・・火よきたれ!」


その事にバーグランスさんも気が付いたのか、基本魔法を使いボウっと炎を出し、バーグランスさんはその炎をサイレンスに投げつけた。


投げつけた炎をパクっと一口で飲み込み、黄色い眼はこちらを見据えた。


その時ウィロスの手が上がる。手には青い小さな霜の結晶がパラパラとあふれだしていた。


「行くぞ!」


バーグランスさんは勢いよく扉をあけ放つと


「”火炎”」


アルスさんが飛び出し勢いよく魔法を行使し、右前方に大きな火柱が上がる。それに群がる様にサイレンス達は移動していく。


僕らも続き扉から出ると、道には動かなかったサイレンスが何匹もいる所へ


「”吹き荒れる氷”!おらーくらえ糞蛇ども!!」


ウィロスが魔法を唱えると、前方に横吹きに降り注ぐ氷がサイレンスを襲う。


サイレンスの表面にはいくつも氷の礫が突き刺さる。その降り注ぐ広範囲の魔法はウィロスの詠唱が遅かったのが納得できるものだった。


「はしれ!・・・火よきたれ・・・ぐあっ!」


僕らの脱出ルートは出来た。そう思った時だった。一番後ろにいたバーグランスさんが火よ来たれの魔法名を唱えたと同時に、叫び声をあげた。


後ろを振り返ると・・・


「どうした!」


ウィロスの声で後ろを振り返ると、バーグランスさんの左腕がグリモワールごと無くなりそこから血が噴き出していた。


僕は驚き声が出そうになるが、必死にとどまった。危うく詠唱が中断しそうになる所。


すでに後ろのたいまつの火は消え、砦内にいたサイレンスは僕らのすぐ後ろにいたのだ。


今ここで”聖なる領域”を使うと、明らかに兵士達がいる場所まで魔力はもたないのは分かっていた。だが・・・この状況は・・・


僕はやむなしに魔法を発動しようとした時だった。


「”火炎”」


僕らと後ろに迫るサイレンスの間に、アルスさんの声に続き火柱があがる。


この状況で、アルスさんは2発目の魔法をすぐに詠唱をはじめていたようだ。


「ウィロス!右を持て!俺が左だ!ノエル先導しろ!」


「くそが!指示すんな!ガキ!いけ!!」


右手を失い、倒れこんでいるバーグランスさんをかつぎ、ウィロスも暴言をはくが同じように担ぐと、僕も走り出した。


ウィロスの氷が刺さるサイレンスは、身動き一つせず体をピクピクと震わせているだけだった。じめんにも氷の礫が落ちている為に走り辛さはあったが、必死に走った。


後ろを振り返ると、バーグランスさんを抱えしっかりと僕についてきてはいたが、アルスさんの放った2発の火柱は鳴りを潜めている。更に暗い夜の帳に黄色い何十個もの目がこちらを見ていた。


「前だけみてろ!俺が魔法の指示を出す!」


ウィロスから怒声を浴びるが、今はその強気な声が頼もしい。


走っていると、ウィロスの氷の礫が地面から消え始めた。魔法の範囲外になってしまったようだ


「そろそろか、ウィロス!」


「まだだ・・・」


「おい、もう迫ってきてるぞ!」


「まだだ・・・ガキまだだぞ!」


正直アルスさんの声に反応したくはなるが、ウィロスはここまでで優秀だと分かっている。


僕もここはウィロスに賭ける事にしたのだ。


「おい!!」


「うるせー!今だ!」


「”聖なる領域”!」


ウィロスの声に、僕らを包むドーム型の領域が現れた。


と同時にキン!とドームに何かがぶつかり弾いた音が聞こえた。


「ガキ!やるじゃねーか!」


さらにキン!っと音が鳴る。


「・・・ヒヤヒヤさせんなよ。間一髪だな」


「ビビりな野郎だな。それにしても、こいつらめちゃくちゃぶつかってくるな」


アルスさんとウィロスの会話に、この弾く音はサイレンスを弾いているようだった。


僕らはその後、坂を下ると兵士達が村で集まっている姿が坂の上から確認できていた。


「部隊編成してるな、このまま兵士達に突っ込むぞ」


「・・・それしかないよな」


「ぐっ・・・」


だがすでに頭痛が始まりだしていた、魔力が切れる兆候だ。


「大丈夫か、ノエル」


「は、はい・・・」


「ガキ!しっかりしろよ!俺は走りながらは詠唱なんてできねーからな!」


今だ止まない弾く音に、ここで魔法を中断するわけには行かない。


頭痛が始まっても、すぐにすぐ魔力が切れるというわけではないのでそのまま走り続けるしかなかった。


丘を下り、キン!と弾く音を響かせながら下ると目前までの場所に街がみえてきた!


「あと少しだ!いそげ!」


「くそ!なんでこのウィロス様が走らなきゃならねーんだよ」


助かった・・・そう思った時だ。兵士達の場所まであと50mほどを切ったあたりで、頭が割れそうになる激痛に襲われた。


「うがぁぁ・・・」


僕はその痛みで、集中力がとぎれ魔法が解けてしまったのだ。


「大丈夫か!」


痛みで足がもつれ、転びそうになったところで後ろから伸びた手に助けられる。


「は、はい!」


「おら!とっとと走れ!」


だが、もう僕らを守ってくれる領域はなくなった・・・もう次に飛びつかれたら誰かは・・・


そんな絶望が頭をよぎったが、僕らの頭上を山なりに超えていく無数の火がかけて行った


「なんだ!?」


「火矢だ!おら!最後まで踏ん張れ!バーグランス!てめぇも足に力いれろ!」


兵士か指揮官の中にはサイレンスの好物を知っている者がいたようだ。火矢を囮に使ってくれているようだった。


火矢の後を追い、更に轟音が響く。前を向いて走っているのに、後ろに着弾した光源で周囲一帯が明るくなった。兵士達に並び、ギレルさんがグリモワールを持つ姿がみえギレルさんの魔法に違いないと思ったのだ。


僕らは最後は転がるように、兵士達の中へ飛び込んだ。グリモワールを奪われるとかそんな事を忘れ、兵士達に囲まれて安心感に包まれたのだ。


僕らが飛び込んだ後ろを、兵士が盾を構えバリケードを作るのが見え、その時にようやく助かったと思えたのだった。

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