第26話 宴

「みな、食事を前に聞いてくれるか」


食事が並び、席についている16名の魔道兵。リーディア達は席につかず端で立っている。その中にはギレルさんの助手ハイマーさん、マジールさんの妹のセラさんやウィロスの担当グランドさん、ナタリアさんの姿もあるが、まだまだ知らない人の方が多い。


ガヤガヤと知り合い同士で喋っていた魔道兵も、話をとめてギレルさんの方へと注目する。


「今回の戦はみな、ようやったわ。だが、マジール、ハンス、ハーパー、メリドリナ、ロトハーツの5人が命を落とした。彼らが安らかに眠れるよう、みなで祈りをささげよう」


ギレルさんが話を始めると、みな黙って両手を合わせ黙とうした。


僕とアルスさんは周りをキョロキョロとしてから、続いたためその様子を見ていたであろうナタリアさんと少し目が合い睨まれていた。


だって知らないだもん・・・。それに僕が知っている人以外にも魔道兵で死んでいる人がいたようだ


「彼らが残してくれた知恵を、次の戦に役立てるように」


ギレルさんのその言葉をもって、黙祷が終わり僕は周りを探りながらゆっくりと目を空けて両手を離した。


「次に、昇格の話をするぞ。バーグランス、ウィロス、ノエル前に」


「おっしゃー!俺だー!」


「えっはい・・」


「ハッ」


ここで呼ばれるとは思ってなかったので、声が裏返ったような返事をして前に出ていく


相変わらず元気のいいウィロスと僕は正反対の位置にいるようだ。


そして50代と思われそうな、白髪に顔にはしわが刻まれたバーグランスという男性が僕の前へと歩いていく。


「バーグランスをウィザード2級へ、ウィロスをメイジ1級、ノエルをメイジ2級へ昇格とする。紋章を」


僕はそう言われ、ケープを脱ぎ始めるが、2人はすでに脱いでおり、ケープを取りに来たリーディアへ渡していた。


少しあたふたとしながらも、獲りに来たセラさんへ渡す。セラさんは僕の様子をみてクスっと少し笑った為に恥ずかしい気持ちになった。


ギレルさんが星型を紋章へ押し当てるのを待ち、またセラさんが僕のローブを渡してくれた。その受け取ったローブに着く紋章には2つの星が並んでいた。


「それと3人には今回の活躍により、金一封を贈る」


続いて、ケープを渡しそのまま僕の横にいたセラさんから小袋を受け取る。軽い重さだが手に持つとチャラっと音がする為何枚かお金が入っていそうだ。


セラさんは僕へ小袋を渡すと下がっていき


「次の活躍も期待しておるからな、下がってよいぞ」


「おう!まかせときな!」


「はぃ・・・」


「ハッ!」


僕はそこまで活躍していないがよかったのかと思ったが、くれた物は貰っておこうと思い頼りない返事をして席に戻った。


「さて、食事が冷めぬうちにあと一つ言わねばな。次は王都に一度戻ることになる。そこで次どの軍に所属するかは未定じゃ。このまま第4王子の部隊のままか、別の王子か、はたまたどこかの砦へと派遣されるか、王都駐屯か。どうなるか分からんが、今日がこのメンバーでは最後の食事となろう。みな今までご苦労じゃった」


えっ・・・・


バラバラになる可能性がある?僕はそう思い隣のアルスさんを見ると、同じように驚いている。周りの人も兵士上がりの人は同じように聞いてないぞという顔をしていた。


「ほれ、話は終わりじゃ。好きに食べて飲んでくれ」


ギレルさんの話は僕にとって重大な話だったが、そこで話は終わりギレルさんも席につくと食事を始めた


「えっアルスさん、聞いてました?」


「いや、初耳だ。兵士の時は何度か王都によることもあったが、そのままだったぞ」


「なにしけた顔してるの、こんなご馳走あんたたち平民は食べる機会がないんだから食べなさいよ」


僕らが手を止めていると、後ろからナタリアさんが僕らのお皿にとりわけ初めた。


「えっそうだな。今は食うか!」


「・・・ですね!」


最初こそ、その場の雰囲気に堅い空気を感じていたが。魔道兵の半分は兵士上がりだ、農村出身の兵士がテーブルマナーなんて知る由もなく、ガツガツと食べる様子に僕らも同じようにがっついた。


シャキシャキの新鮮な野菜や果実は、兵士になってら初めて食べた気がした。特に葡萄なんて甘みのある果実はこの世界にきて初めて食べた物だった。


「あ、あまい・・・」


「う、うめー!この肉!」


「・・・もう少し静かに食べなさいよ」


「いや、食ってみろよ!ほれ!」


僕らの隣で、空になったお皿に盛りつけたりし食事をする様子がないナタリアさん。周りのリーディアも同じようにしていた。


その中でフォークに刺さった一切れの肉をナタリアさんの顔の前に向けるアルスさんだが


「・・・いいの、私は。この食事は今日戦った魔道兵のものなのよ」


ナタリアさんはアルスさんのフォークを無視し、ロッツさんの方へと向かっていった。


「一口ぐらいよくね?食えばこの旨さに魅了されるだろ」


「・・・これも何かルールか何かなんでしょうか」


「またそれか・・・だりー」


アルスさんはナタリアさんが食べなかった肉を、ひょいっと口に入れてそういった。


「何個か果実は取っておいて、後で渡しましょうか」


「ククク、そうだな。女なら果実は好きだろ」


だが、僕の提案に嬉しそうに返事をして、僕らは食事の合間合間でポケットに何個かの果物を忍ばせながら、食事を楽しんだ。


チンチン


グラスに何か食器を当てて音を鳴らすのはギレルさん。


「皆の者、後は自由に楽しんでくれ。今日はご苦労じゃった」


ギレルさんは一足先に食事の席を立ち、その後ろをハイマーさんが続き部屋を出ていく。


それに続いて、他の人も食事を終わらせて後に続いてく。僕ら同様にというか、ウィロスはカゴごと果物をもち部屋から出ていくが、誰もなにも言わないのであれが普通のようだ。


他の兵士あがりの人も、大皿や酒を瓶ごと持って部屋を出ていくのだ。


流石にすらっとした貴族上がりか、商人あがりの英才教育組は手ぶらで静かにでていく。


あれだけあった料理は跡形もなく消えて行った。残るは空になった食器と僕らに取り分けられた、食べきれずに残った食事と僕とアルスさんだけだ。


「・・・解散はあっけないな」


「ですね・・・僕らもこれ持って帰りますか?明日の朝にでも食べたらいいですかね?」


「だな、ナタリアもロッツと出て行ってたよな?この食器とか片付けどうすんだよ」


「・・・リーディアの人がやるんでしょう」


「かー・・・ゆすいでやるぐらいはやるか?」


人が3発しか撃てないという火炎を7発も撃ち、ゆっくりしたいと言っていたアルスさんだが、後片付けを手伝うと言い始める


正直疲れているのは僕も同じだ・・・死にかけたのだから。だが、何かぼーっとしているよりも体を動かした方がハンスさんの死に際を思い出さなくていいかと思い


「ふふ、仕方がないので付き合いますよ」


「なんだよ、何笑てってんだ・・・ちゃちゃっとやるぞ」


アルスさんが大きな水球を浮かばせ、僕がその食器をゆすいでいく


20人分ほどの食器だ。かなりの量があるが、アルスさんと会話をしながらの為さほど気にはならなかった。


「なぁ・・・もしかしたら、別の隊もありえるんだよな。次は」


「ですね・・・僕はそれが一番きがかりですよ」


「お前、俺かスナイプと離れても平気かよ?」


「僕もですよ、アルスさん僕やナタリアさんと離れて魔道兵としてやっていけますか?」


「おっ?ノエルいっちょ前に俺の心配かよ、大きくなりやがったな!」


「僕はメイジ2級ですから!」


「おいおいいうようになったな!おら!」


アルスさんは浮かべた水球を僕の顔へとぶつける


「プハッ!びしょびしょですよ!」


「くくく、今日は風呂いらずだな!」


「このー!」


水球を手で弾き、水しぶきをアルスさんへ飛ばす


「やりやがったな!おら!」


僕らは水遊びをしながらも、食器を洗い続けていた。

「ふー、戦終わりだからこれもありだな」


「・・・ありですか?僕は水球の中に丸ごと入れられましたよ」


「魔法を使ってる方の特権だな。でもよ、もし隊が離れてもノエルなら大丈夫そうだな、もう一人前の男だ」


「・・・次はなんですか、言ってる事がさっきと違うじゃないですか」


おちゃらけていたのを、少しトーンを落ち着いて話を始めたアルスさん。


「本当におどおどしていたのが、今はもう遠い昔のようだ。たった三か月前なのによ」


「・・・今もどもりますし、戦場に行くというだけで足はすくみますよ」


「ふふそうか。次も一緒の軍ならいいけど、一人でもお前は大丈夫だって言いたかったんだよ」


アルスさんはそう言って話を締めくくった。


僕はアルスさんには強がって、冗談を言ったが気が気ではない。ただアルスさんが最後に言ってくれた言葉で少し勇気が出たのだ。


そんな時に食堂の扉が開かれた


「ちょっと!あんたたち、部屋に戻ってないから探しにきたけど何してるの!」


ナタリアさんが僕らを探しに戻ってきていた。水球を近くの樽へパシャリと捨てたアルスさんが返事をする


「食器あらってんだよ。もう終わったから戻るぜ。ガミガミ言うなよ、別に悪い事してないだろ?」


「食器を洗う?・・・それはいいけど・・・なんでそんなにびしょ濡れなわけ?」


「少しは遊びならがやる方が捗るんだよ。あっ飯は食ったのか?ほれ林檎」


アルスさんはポケットから忍ばせた林檎を近くにきたナタリアさんへ手渡そうとするが


「えっ・・・だめよ」


「あっ僕もオレンジと葡萄です」


ポケットへ詰めた果実を取り出す


「・・・」


ナタリアさんは遠慮しているようで、受け取ろうとしない。


「で、結局飯は食ったのか?」


「まだよ、後から兵士達と一緒の物を貰いに行くの」


「なら、残り物で悪いがこれ食うか?取り皿からナタリアが取り分けた後手は付けてないぞ」


「そうですよ、このお肉とても美味しかったですよ」


アルスさんが机の物を指さすので、僕も食べてないならと進めた


「それもあなたたちのでしょ?戦った魔道兵の特権なのよ」


「・・・またそれかよ、俺達がいいって言ってんだから食えよ。そんなに縛られて窮屈じゃないのかよ」


頑なに受け取ろうとしないナタリアさんに、アルスさんは頭をガシガシとかいた。


「ナタリアさんも、戦場に立ったじゃないんですか?食べる・・・権利ありそうですが」


「だよな!食えって!なんだそれとも潔癖症か?俺達の残りってのが気に食わないとかか?」


「そ、そうじゃないわ・・・あなた達といると調子が狂うわね・・・」


なぜか困ったように顔を俯かせ、動かなくなったナタリアさん。


僕とアルスさんはその様子に、どうすればいいのか分からなくなってお互いに顔を見合わせた。


すると、また扉がガチャリと開き


「ふぉふぉ小腹がすいたらと思ってきたが、まだ食っておったか」


ギレルさんが扉から戻ってきたのだった。

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