第25話 2人でしばしの間

「とまぁこんな感じよ、後は砦の中を兵士達が制圧している砦内に入った時に後方部隊が襲われたって話を聞いて今に至るってな」


アルスさんの話が終わり、


「・・・ハーパーさんは残念でしたね」


「あぁ、それに味方のグリモワールを必死に取り合う事はないよな」


「温い事言ってないの、使える物は使う。あんたも兵士の時に味方が死ぬとその装備を貰ってたでしょ?何が違うのよ」


「いや・・・それはそうだけどよ・・・なんつーか・・・なぁノエル違うよな?」


ナタリアさんの言っている事はもっともだ。僕もいくつも味方の兵士の死体から貰ったものもある。だがアルスさんのその気持ちも分からないではなかった。


「僕はアルスさんの言っている事、分かる・・・気がしますよ。どこかでそのグリモワールを持っている、味方の死を待っているような・・感じがしますよね」


「そう!それだ!やっぱり分かってくれたか!」


僕がどもりながらも口にすると、アルスさんには伝わったようだ。


「兵士上がりのくせに甘ちゃんね二人とも。騎士は特に兵士よりも魔道兵と接することが多いわ、兵士よりも魔道兵がどういう風に優遇されているのかも詳しいの。騎士と言っても皆が裕福なわけではないのだから」


ナタリアさんは冷たくそう言い、立ち上がりながら


「ご飯の支給を貰ってくるわ、今日は豪勢かもしれないわよ」


そういい部屋から出て行った。


「なんだよあいつ、たまにナタリアの感情の変化についていけねーよ」


「・・・まだ会って一週間ですから、お互い知らない事もありますよ」


「そうか・・・なんか長年ずっとこうしてきた感じだったぜ、もう・・・お前たちはスナイプやマールじゃないんだよな・・・」


アルスさんは静かにそういった。状況は違えど、アルスさんは心情的に僕らを少しその二人に重ねていたのかもと思えた。


だが、待って欲しい


「スナイプさん、この砦に入る前に会いましたよ。元気そうでした!」


「は!?スナイプまだ生きてんのか!?」


「え?は、はい・・・なぜ死んだと思ったんですか?」


やはり先ほどの口ぶりで、アルスさんはスナイプさんを死んだと思っていたようだ。


「いやいやあいつ全くみかねーし、この砦制圧で死傷者は隊の半分以上になっちまってるぜ?流石にあいつも無事じゃすまねーだろ・・・。というかあったのか!?なんか言ってたか!?」


「顔近いですよ・・・。スナイプさんの今の隊長は、慎重らしく前線に自らはいかないようで、魔導書にまた遠のいたと言ってましたね」


アルスさんの剣幕に押されながらスナイプさんとの会話を話す。


「そうかそうか、あいつは無事か。あいつにはそのぐらいでいいだろ」


そこまで話すと、アルスさんは落ち着き嬉しそうにそういう。


「スナイプさんは、アルスさんの事を見かけていたそうですよ。・・・ただまだ素直になれないって言って声は掛けなかったそうですが」


「見たなら声かけろよ・・・。いや、あいつらしいか」


「また僕には・・・近況を教えてくれと、言われたので・・・その」


昔からの親友のアルスさんを差し置いて、話をしてよかったのかと思い途中からアルスさんの反応をみてしどろもどろになった。


「くくく、いやそこは気にするな。伝書バトがわりのようで悪いが、俺達の折り合いがつくまでは板挟みかもしれねーが頼むな」


「えっは、はい。僕は全く何とも思ってないですよ」


スナイプさんの近況をもう少し話していると、ナタリアさんが手ぶらで戻ってきた。


「おっどうした?食事は」


「食堂みたいな所で集まって食べるそうよ。これからの方針も話をするみたい」


「戦終わりに、なんつー面倒な話を・・・なんだ、魔道兵はつかれないのか?」


「いいじゃない、食事を並べての話なんだから。食べ物は期待していいと思うわよ」


ナタリアさんの食事に期待というよりも、今はゆっくりとした時間が欲しかったという気持ちは贅沢な悩みなのだろうか


「豪勢なのはいいが、ゆっくりはしたいよな」


「ですね・・・僕も同じ気持ちです」


ともったが、アルスさんも同じ気持ちで一安心。


「なに言ってるのよ、ほら行くわよ。新人は一番に席につく!」


「・・・うげぇ、しかもなんかルールみたいな事いわれるしよ」


「仕方ないですよ・・・行きましょうか」


重い腰を上げて僕らは、戦終わりという宴のような時間に堅苦しそうな場所へと連れていかれようとしていた。


ナタリアさんに連れていかれた場所は食堂のような、長い机が縦に置かれ入口から奥まで真っすぐに伸びている。


その机に椅子が並べられ・・・その上にカゴに入った果物や食器などが並べられていた


その神聖そうな雰囲気にぼくはゴクリと息を飲むが・・・


ゴクリッ


僕の横のアルスさんからも、もっと大きく息を飲む喉を鳴らす音が聞こえた


「なんだよこれ・・・こんな所で食事するのか?」


「ですね、僕マナーも何も知りませんよ・・・」


たかが一介の砦の中にこんな場所がと思う、僕のまだ知らない世界がそこにある。


「何気にしてるの、あなた達みたいに兵士上がりの人が大半なんだからマナーも何もないわよ。雰囲気だけよ、こんなの」


「そうかもしれないが・・・」


ナタリアさんには見慣れた光景のようだ。


「ほら、入口でたってたら邪魔よ。あなたたちは一番手前に座ってなさい」


「おっおう・・・」


ナタリアさんに押され、僕らは席に着く。そのままナタリアさんはどこかへ出ていき、この大きな食堂には僕とアルスさんだけとなった


「なんか本当になれないな、俺達場違いじゃないか?」


「ええ・・・机にシーツまで被せてますよ」


「・・・これ溢したらどうすんだよ」


待つ間に、僕らはこの空間の他愛ない話から始めた。


その後に、もう少し離れてアルスさん達と別行動していた時の話を聞いた。


「いや、最初はよ魔道兵はバレたらおしまいとかって話だったろ?相手に狙われるって言ってたよな?」


「えっと・・・確かそんな話してたような」


前半の作戦の話だろうか、自分に関係ないと思い聞き流していた部分の話しから始まった。


「それなのに、なぜ目立つ服装で行くんだって聞いたら俺をみんなあざ笑うようにしてるんだぜ」


「えっと、そうですね。鎧は着れない理由は聞きましたが・・・ケープは脱いで変装してもいいですよね」


「だろ!普通に思う事だよな!」


「まっまぁまぁ落ち着いて・・・」


間髪入れないアルスさんに落ち着くようにさとし、続ける。


「でよ、いざ戦場につくと矢の嵐な訳。兵士時代と比べ物にならねー矢よ。魔法までは飛んでこなかったが、明らかに魔道兵を狙ってるんだぜ」


「バレバレだったんですね」


「そう!で、いざ魔法を撃とうと思っても射線がないんだよ。顔を出すタイミングもないほど矢がとんでくるんだからな。今回はたまたま塔が高かったから撃てたが、穴がありすぎる作戦だろ」


「さっきはあっさり聞いてましたが・・・それは結構大変ですね。なぜ目立つように動いたか聞いたんですか?」


僕も後方部隊を狙われ大変だったが、やはりアルスさんの方も大変だったんだと改め思う事だ。


「いや、作戦にもよるらしいが今回は目立って相手の気を引くのも魔道兵の役目だったらしいぜ。聞いてたか、これ?」


「え・・・聞いてはないです、僕は・・・・。でも別部隊が後方から攻撃を仕掛けるというのなら、そういうのも役目の様な・・・?」


「・・・さも当たり前にいうなよ。結局そういうことらしいが、いやいや聞いてない事はわからねーよな普通!」


「えっ・・・そうですね。僕らはナタリアさんにもとから詳しくはまだ聞けてないので・・・」


アルスさんが聞いていないだけで、本当は指示がでていたのか不明なので僕らはまだ新人という立場に逃げ出す。


「戦が終わってナタリアに聞いたら、普通に考えたら分かるでしょ?だとよ。どう思うこれ?腹立つだろ」


「えっう~ん・・・そうですね」


アルスさんがいら立ってこの話を始めたのは、愚痴を言いたかったようだ。


その戦場をリアルタイムでは見てはいないが、魔道兵はただ魔法を撃つだけの役割ではないような話だった。


次にアルスさんはハーパーさんの話をする。


「なぁ死人を悪くいうつもりはないが、ハーパーって少し斜に構えているというか、やる気が無さそうだったの覚えてるか?」


「・・・消極的ではありそうでしたね」


「それもナタリアに聞いたんだよ。でも理由があったみたいなんだよ」


「理由?」


「あぁ、魔道兵の部隊は番号が若い順に優れているとされているみたいだぜ、正規軍ではな」


「ふんふん・・・」


「で、俺たち第6部隊ってこの第四皇子の部隊では新設で一番後の番号なわけよ」


「ふんふん・・・」


「ハーパーはもとは第三部隊にいたようだが、それが新設で第六部隊に移動で面白くなかったんじゃないかってナタリアが言っててよ」


「ふんふん・・・」


「そんなこだわりがあったみたいだぜ。でも、このギレル様が率いるこの魔道兵にそんな部隊での優劣はないってナタリアが言ってたぜ、平均をとる様にしているってな」


「そんな事を知らない僕らからしたら・・どうでもいいですが、ハーパーさん・・からしたら格下げのような感覚だったのでしょうか」


アルスさんが自然にギレルさんを様づけしている様子に、違和感を感じるが、アルスさんも心から尊敬をしているのかと思えた。


「みたいだな、魔道兵っておもってたよりもこう・・・分かるか?兵士よりも自由ってのじゃなくて」


「・・・規律やルール、暗黙の了解など・・・多いですよね」


「そう、すっげー縛られてる気がするよな」


「やはりそれはグリモワールの力が強いからでしょうか」


「かもな・・・ってそうだ!俺”火炎”を7回は撃てるんだぜ!普通は3回かやっと4回らしくてよ!その倍以上撃てるのは人よりも魔力が多いってよ!すげーだろ!」


話はコロコロと変わるが、アルスさんとの話はしんみりした話や堅い話よりも、笑って話をしてくれるほうが好きだ。


「えぇ!?それは天才じゃないですか!」


「だろ!ナタリアもこれには珍しく褒めてたな!呪文が完璧なら俺もメイジ2級に昇進するかもだとよ!」


得意気にそういうアルスさんは、座ったまま胸を張った。


「・・・だとしたら、当分先かもしれませんね」


それを僕は少し笑いながら茶化す。


「なんでだよ!ナタリアなしで連続で5回は撃ってたんだぜ!もう完璧だろ!」


「それは・・・どうでしょう。ふふ」


僕らは最初はその場所に飲まれていたが、2人で話をしていると場所なんて関係なく笑い合い話をしていた。しばらくそうしていると、食事の準備をリーディア達が始めた。


その中にナタリアさんもいて、食事を並べている様子に少し気まずい様子もあったが、他の魔道兵も順に席に着き始め、それが普通だと思わせるような態度の為、僕らは食事が始まるまで静かに待つことになった。

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