第24話 アルスの場合
割り当てられた部屋は質素なつくりの部屋だが、この砦の規模からしたらいい部屋な様子。この建物の通路に扉が並んでいた為、同じような部屋がいくつもあるのだろう。
4畳ほどの部屋に2段ベッドが2つ。そんな質素な部屋だが、僕とアルスさん、ロッツさんの3人部屋だという。
部屋にはロッツさんの姿は見えないが、先ほどまでいたようなので風呂かどこかに行ったようだと言われた。
余り綺麗だとは言えないベッドに腰掛け、アルスさん達と情報共有を行った。
まず、僕の方から聞きたいという事で先ほど、王子に喋ったままの事をアルスさん達にも伝えた。やはり緊張感がないアルスさん達の方が喋りやすく、見た通りに伝えれたと思う。
「そう・・・マジール様とハンスさんは亡くなったのね」
「はい・・・残念です」
「その人達が持ってたグリモワールはどうしたんだ?」
「その襲ってきたやつらが持って行きましたよ・・・ハンスさんに限っては、殺されるとこをみてましたので一部始終を・・・」
「そうか・・・いや、ノエルが無事でほんとよかったぜ」
あまり何度もしたい話ではないので、これで最後だと思いたい。気分をかえようと昇級する話をだす。
「さきほど、ここに来る前に王子に報告をしてきたのですが。そこで情報提供をしたという事で、昇級させてもらえることになりました。メイジ2級ですよ」
「おいおい!それを早くいえよ!やったなノエル!」
「おめでとう、良かったわね」
「はい、ありがとうございます」
素直に祝福をされ、僕も嬉しい限りだ。僕がつたえる事は終わった、次はアルスさん達から聞く番となった
「次はアルスさん達の話を聞かせてください。塔はボロボロに崩れていたの見ましたよ」
「あー・・いや、そうだな」
「作戦は成功したわ。でもこっちもね・・・ハーパーさんが亡くなったのよ」
「えっ!?」
まさかの事だった。騎士や兵士に守られている中で、アルスさん達が無事でなぜハーパーさんだけと衝撃の事だった。
◇アルス視点◇
遡る事、8時間前。今朝、ノエルと別れた第6部隊の出来事。
「じゃあな、ノエル。今日こそはやってくるからな」
「はい、頑張ってくださいね」
「ノエルも魔力の調節を頭においておくのよ」
ノエルは救護テントの方へ歩いていくのを見送った。つい一週間前までは、おどおどした頼りないやつだったのに今はその魔道兵としての後姿は頼もしさすらあった。
「ナタリア、俺達も準備しておくか」
「一度詠唱してみなさい、そんなに肩に力いれてると噛むわよ」
ナタリアにそう言われ、ボソボソと火炎の詠唱を唱える。
「あー、ほらまた間違ってる。そこは敵を焼き尽くせよ。敵を焼き付くすじゃないの」
「ぐっ・・・」
一度自分がこうだと覚えてしまったら、何度も何度も同じところで間違えてしまう。俺は自分の頭を叩き忘れさせようとした。
「アルス!ハーパー!第六部隊いくぞ!」
戦前に一度は完璧に唱えておきたかったが、今日はそうそうに隊長から出撃の合図が出された。
「うっす!」
「はい」
俺の気合の入った意気込みとは裏腹に、このハーパーという男は常に気だるげにしているが俺は気にしないようにしている。
「いいか、射程距離にはいるまでにある程度詠唱をはじめておけよ。魔道兵は目立つから、狙われるぞ」
「・・・じゃあ、なぜもっと兵士のような防具をせずに目立つように行くのでしょうか」
俺は思った事を口にする。鉄じゃないにしろ、このケープは脱げばいいと思う。それに騎士に守られたら目立つならもっと他の部隊に紛れるようにすればいい思ったのだ。
「バカ!アルス!すいません、ロングレンジ隊長私の教育不足です」
「いや、いい。アルスはまだ一週間かそこらだろ、ゆっくりおしえてやってくれ。だが、今はそんな時間はない。いくぞ」
「はぁー・・・」
「えっはい!」
俺の質問にみなは答えが分かっているような反応。ハーパーにいたってはため息をはき、顔を横に振っていた。
自分の荷物、グリモワールと革の盾を背負い俺達は東側へとむかった
「本当にあんた、盾は装備しておくのね」
「あぁ、鎧つけてない分体が軽いからな。背負うだけでも安心感がある」
「はぁ・・・まぁ兵士あがりなら最初はそんなもんか」
ナタリアは皮の鎧を身にまとい、いっちょ前に弓を背負っていた。
「お前だって、弓なんか背負って・・・どうせお飾りだろ」
「一応使えるわよ。あんたよりは上手だと思うけどね」
「・・・へー、意外だな。どれぐらいなのか見てやるよ」
「なに余裕こいてるのよ、あんたは魔法でいっぱいいっぱいになってるわよ」
俺達の周りには盾を掲げる騎士が5名配置され、その後ろを隊長、ハーパー、俺、ナタリアで進む。
なだらかな平原にポツンと建つヤード砦。砦の周りには堀が作られ、砦に侵入するには真ん中の桟橋を渡るしかなさそうだ。
すでに兵士達が攻撃をはじめている様子で平原には木の板が並べられ、射手が砦を狙っていた。
スナイプも、この中にいるんだろうな・・・生きていてくれたらいいが・・・
「このまま東の塔を目指していくぞ、昨日の報告によれば塔に敵の魔道兵が配置されているから気をつけろよ」
魔道兵の攻撃は射程距離50~100mほどの距離だ。ピンポイントで人を狙い撃つとなると20~30mが限界だが
今回は的が大きい。
80m付近まで砦に近づいて攻撃するこの作戦、当初80mなんてそんな遠いところからでいいのかと聞いた時はそう思ったが・・・いざ、この戦地に立ち鎧も身に着けておらず、200m付近ですでに味方の兵士が死んでいる姿をみると額に汗が流れる。
トスントスンと騎士がもつ木の板に何本も矢が刺さる音は心臓に悪い。兵士時代によく聞いていた音だがが・・・そんなものより比にならず尋常じゃないほどの矢の嵐を浴びているのだ。
俺達が進む砦までの道は矢で出来た道が作られている。
「アルスそろそろ準備するわ。これからは不用意な言葉は詠唱中断になるから気を付けるのよ」
「・・・あぁ」
矢の嵐をあび、少し移動速度が遅くなってはいたがすでに目標地点まで30mを切っている時だった。ナタリアが詠唱を唱え始め、俺もそれに続いて唱えていく。
この戦果の真っただ中、回りの兵士の怒号によりナタリアの声がかき消され正直聞き取り辛さはあるが、俺は必死にナタリアの言葉だけに集中した。
「ボソボソボソ敵を焼き尽くせ、大いなる炎」
目標地点に入る前に俺は詠唱を終わらせた、右手と左手にもつグリモワールには赤い炎の揺らめきがとどまり、今か今かと魔法名の呼びかけに待っている様子。
俺はすぐにこの魔法を撃ちたくてうずうずしていた。だが、敵の攻撃も更に激しさをまし木の板がいつか割れてしまうのではないかと思える猛攻だった。
俺は意識を切らず、隊長を注視すると・・・隊長の右手に宿る炎を上げた。それは発射の合図だった。
だが・・・この猛攻だ。盾の後ろから攻撃するなんてことはない。少しだが、顔をのぞかせるか右手だけでも出さなければいけないようだ。隊長もそのタイミングを測り板と板の小さな隙間から様子を伺っている。
すると隣のナタリアが俺の腕を小突く。となりをみると指で上とさしていた
ナタリアに指さされ、上をみると塔の屋根の部分が板の上から覗いている。
ナタリアが言おうとしていることが分かり、頷くと。ナタリアはロングレンジ隊長にも上へと指さしている。
ロングレンジ隊長もナタリアの意図が分かり頷くと、ナタリアは板をもつ騎士へと耳打ちをすると、騎士達は板を垂直から45度ぐらい斜めに持ち変えた。
俺達は少し後ろに下がる、狙おうとしている塔が良く見えるようになった。
「ぐ・・・魔道兵はやくしろ!」
だが、何本も刺さった板を支える騎士達がその重さに耐えかねた声を上げた。
「”フレイムバースト”!撃てアルス!」
「”火炎”!」
「”火炎”!」
隊長に続き、ハーパー、俺も同時に魔法を放つ。3つの炎の塊がドゴンという鈍い音を上げ塔へとぶつかる。
「やったか!」
「アルス!予定変更よ!次!」
俺は煙をまとう塔の全貌を、煙が張れるまで見ようとしていたが・・・ナタリアの声でハッとなり隊長達をみると、次の詠唱に入っていた。
くそっ・・・なんだよ!一発撃てばって話じゃなかったのかよ!
ナタリアがまた詠唱を唱え始めるため、俺も続く。俺の詠唱が終わる前にハーパーは詠唱を終わらせ、2発目をくりだした。
先ほどよりも軽い音が聞こえるが、バラバラ・・・ドサ、ガッラなど崩れ落ちていく音。敵の兵士だろうと思われる声が聞こえる
くずれるぞーーー
にげろーーー
たいひーーー
その声が良く聞こえたのは、矢の猛攻が止まっているからだろう。敵は魔道兵に魔法を撃たせた時点で負けなのだろう。
「・・・大いなる炎”火炎”!」
俺の2度目の魔法。塔の崩れかけ、穴の開いた部分へと炎の塊がとんでいく
さきほどよりも大きく、熱くと念じながら作った魔法だ。その崩れた穴へと吸い込まれるように、俺の魔法は飛んでいく・・・
だが、俺はその直撃をみることなく次の詠唱へと入った。
「・・・大いなる炎”火炎”!!」
そこから無我夢中に3発目、4発目・・・を撃った時に小さな頭痛を感じた。
そこで我に返ると、ナタリアが俺を呼んでいるのが分かった。
「・・ルス!アルス!!」
「えっ?おうなんだよ!」
「もういいの!塔は崩れ落ちたわ!」
「えっ?」
ナタリアの言葉で周囲をみると、騎士や隊長が俺の方を見ていた。
「みなさい。塔どころか城壁にも攻撃して崩れ落ちているのを」
すでに矢は全く飛んできておらず、騎士が板と板の隙間を少しあけて砦を見せてくれた。
塔の上半分は既に崩れ落ち、その瓦礫で下の城壁もいくつも崩れ落ちている。砦の一部の壁は消え去り、そこから砦内に侵入できそうな穴が空いていた。
崩れ落ちた瓦礫が積み重なり、堀を埋めている為に俺が魔法をやめたと同時に兵士達は砦内へと侵入を始めた。
「あんたが魔法辞めないから、兵士達が切り込めなかったじゃないの」
「えっ・・・」
ナタリアに叱責され、我に返っていくが・・・ここ数分間の記憶は飛んでいた。
「アルス、集中するのはいいが、周りを見ることも大事だぞ」
「はいっ申し訳ないです!」
「まぁあれだけの砲撃で東側から徐々に崩れていくだろうな、一人で”火炎”を7発も撃つとは思わなかったけどな」
「えっ俺7発も撃ったのか・・・」
自分では何発うったかは覚えていなかった。2発目以降の記憶がないのだから、3,4発だと思っていた。
「フンっ侵入の邪魔をして、とんだ時間ロスだ」
自分が何発撃ったか教えてもらうと同時に、ハーパーからは嫌味を言われ、そのままハーパーは砦の方へと歩いて行き始めた時だった。
ゴーーーっと音が近づいてくるのが分かった。俺は咄嗟にナタリアを抱き寄せ、勘のままに後ろへと飛んだ。
「ナタリア!」
俺とナタリアが地面に着くまでに、爆発音と板の前に火柱があがる。
ドンッ!
熱風が生ぬるく俺達に漂ってくるが、敵からの魔法は俺達よりも3mほど前に着弾していたようだ。衝撃もなく、前にいる騎士達も板を支えたままな為、被害は無さそうだと思われたが。
「ハーパー!」
隊長がハーパーを呼ぶ。そういえばハーパーは一人前へと歩き始めていた・・・
すぐに確認したかった騎士達だが、火柱が残り火の粉が辺りを舞っている。
「ちょっと・・・いたいわよ・・・」
「あっ悪い」
俺はナタリアを覆いかぶさるように抱いたまま、転がっていた為、重かったようだ。
すぐに立ち上がり、ナタリアに手を貸そうと手を出す。
「・・・いいわよ、一人で立てるわ」
少し顔を赤くしていたが、人の善意を無下にすることもないだろと思う。
「そうかよ。ハーパーさんは無事か」
「・・・いや駄目かもしれん。」
誰かに問うた訳ではないが、隊長がそう答えたと同時に騎士の一人が走って収まりつつある火柱の中へと入って行った。
「えっおいおい大丈夫か?」
「くっそー!先こされたか!」
俺が走っていく騎士を心配する声を掛けると同時に、他の騎士がそう言った。
「あいつ!ふざけるなよ、順番を決めてたんじゃないのかよ!」
他の騎士も次々に愚痴をこぼし、安否確認に行った騎士を罵倒する言葉をかけた。
「・・・なんでみんな文句言ってんだ?あの騎士はハーパーさんを真っ先に助けにいったんじゃないのかよ」
俺は隣にいるナタリアに質問すると
「アルスにはそういう風に見えているのね・・・。見てるとすぐに意味が分かるわよ」
ナタリアからの返事はそれだった。
火の中から出てきた騎士はハーパーを連れてはおらず、グリモワールが握られていた。
・・・
「見えてるわよね。そうよ、騎士達も慈善であなたたちを守ってはいないってこと。グリモワールを手に入れるチャンスはどこにでも転がっているってことよ」
ナタリアは俺の歪ました口を見て、冷たくそう言った。
「そうかよ・・・」
騎士は嬉しそうにグリモワールを開いている様子を俺はただじっと、つまらなく見ていた。
砦は壊れ、城壁にも穴が空いたヤード砦は既に防御態勢を失っていた。
砦を制圧するには、そこから1時間もかからなかったと思う。
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