第21話 生き残りは…

体は動くことが出来ないが、頭は状況を把握しようと必死に動いていた。なにも知らず気を失っていたらと思うが、そんな気持ちとは裏腹に知っている情報が整理されていく。


さっきの人達は・・・ハンスさんを2人目といった・・・という事はマジールさんも死んでいる。


砦を手放すといっていたのは・・・制圧組は成功したということ・・・さっきの人達は・・・逃げる際にここを襲撃したという事か・・・手薄の後衛部隊を。


騎兵20人弱に、隊長とゼリル・・・と名前だけのエリオットという人


バレていたのは僕かもしれないが、ハンスさんが恐怖に負けて先に出て行ったこと・・・


足音がなくなり、10分ほど経っただろうか。気持ちや状況を整理すると、僕は小さな隙間から外を慎重に確かめ、意を決してテントの残骸から身を出した。


「ぐっ・・いててて・・・」


自分が怪我をしている事も忘れていたようだが、思い出してくると全身が痛く激痛に襲われ始めた


「グ、グリモワールは!?・・・よかった・・・休憩してたおかげか・・・」


爆発の間際、僕は休憩に入りグリモワールをベルトにつなぎなおしていた。


すぐに”癒しの光”を唱え、体に回復を施す


体から痛みが消え去り、僕は視線をテントの残骸へと向ける。


テントの残骸を見て、このテント、いろんな要素のおかげで僕は生き延びたのだと実感する。


そして・・・もう一つの光景が僕の目に嫌でも飛び込んでいた。回復していた時にも目の隅では捉えていたハンスさんの死体。


首と体が別れ、そこには血だまりが出来ている。だが、ハンスさんだけが特別というわけではなかった・・・


槍を胴体に突き刺されたままの兵士。丸焦げになっている誰か分からない人、僕の周りには死体が溢れていたのだ


足から力が抜け、立っている事も適わなくなりそうで膝に手をつく。


だが、それでも持ちこたえることができず尻もちをついた


ドサリと音がしたが、その音だけ。耳鳴りもそういえば治っていたなと思うとあたりが一気に静かになっていた事に気が付いた


本当に今、ここでは僕一人なんだと思わされる静けさ・・・



ガコッ


何かが崩れたか、倒れた音が聞こえた


「・・・だれ・・・い・・・か・・・」


微かに声も聞こえた。


「いますよ!どこです!?」


その声は確かに人の声、助けを求める声だった。


僕は返事をする。するとまた、聞こえる。


「た・・・すけ・・・たの・・・む」


足に力がうまく入らないが、落ちている槍を杖がわりに声の聞こえる方へと進む


「どこですか?今助けますよ!」


「こ・・こ・・・だ・・・」


「どこです!」


声を頼りに近づいていくと、死体が2人積み重なっている下の人の手が動いていた


「み、みつけました!いま助けます!」


上の死体を持っている杖替わりの槍でテコのように浮かせ動かすと、下からでてきたのは2度衝突をした騎士だった


お腹から血が溢れている様子は、上の死体からそのまま貫通するように剣か槍かを刺されたようだ


「まど・・・へい・・・。たのむ・・・たすけて・・・くれ」


「は、はい!すぐに!」


パラララとグリモワールを開き、詠唱を唱え


「”癒しの光”!」


右手に集まる光を魔法名とともに騎士へと向ける


「・・・暖かい」


騎士の唇は青紫から赤色へと戻り、顔は安堵の表情へと変わった。


「・・・まだ痛むと思いますが・・・今はそれで充分でしょう」


「・・・助かった。ふー・・・ありがとう」


騎士は上体を起こし、僕へお礼を述べる


「いえ・・・生きていてくれてよかったです。今この場で僕一人は心細過ぎました」


知り合いというわけではないが、この死体が溢れているこの場所で一人というわけでなくなり、僕は安堵したが・・・今の状況もあまりよろしくないのかと思い


「あっ・・・あの僕を殺してグリモワール奪おうとしないでくださいね・・・」


「・・・するか!騎士道に反するわ!・・・いや、俺の発言した結果か・・・・。数々の非礼をお詫びする、申し訳なかった」


騎士は叫んだせいか、お腹の傷がまた痛んだかの様にお腹をさすりながら頭を下げた


「それなら・・・よかったです」


このやりとりをしている間に足に力も入る様になり、一人という状況でなくなった為に僕の心は余裕が出来始めた


喉も乾いた。休憩の途中だからお腹もすいている。・・・僕の荷物はどこだ?


そんな事も気にする余裕も出始めたために、僕は自分を助けてくれたテントの残骸へと戻ることに


「お、おいどこへ行くんだ」


「・・・自分の荷物を探しにです。魔力も乏しいので何か口にいれて回復しておきたいのです」


「そうか・・・俺もついて行く」


騎士はお腹をおさえながら立ち上がり、僕の後へヨロヨロと着いてきた


「・・・俺達だけなのか」


「多分ですが・・・」


「運がよかったんだな」


騎士はこの地の惨状を目にしながら、静かに喋っていた


「・・・そういえばお互い、名前を知らないよな。俺はグリンデル・タイラーだ」


「僕はノエルです」


騎士なだけはあり家名持ちだ。この人もぼくより偉い立場なのに、魔道兵ということが僕の気持ちを助長し横柄な態度をとっていたのかもと、次からは自制しようと思った。


テントの残骸まで歩きつき、僕はテントの下を探っていく。


「・・・この死体は、同じ魔道兵だろ」


「はい・・・メイジ2級のハンスさんです」


「グリモワールは奪われているな・・・紋章も・・・」


金目の物を欲していた、あの人達は紋章もとっていったようだ


「・・・僕の目の前で殺されました。僕はこのテントの下に隠れていて・・・動くことが出来ませんでした・・・」


「そうか・・・敵を見たなら貴重な情報だ・・・後で報告するといい」


僕は手を動かしながら、グリンデルさんへ見ていたことを打ち明けていた。自分の中では処理できず、誰かに聞いてもらいたかったのだ。


「・・・あった」


僕の背負いカバンは僕と一緒に転がっていたみたいだ。その他に2つ別のカバンも見つけたが、これはマジールさんとハンスさんのだった。


マジールさん達のカバンは中身は見ずに、ギレルさんか他のリーディア達に渡しておこうと確保しておく。


「グリンデルさんも何か食べますか」


「・・・あぁ、助かる」


僕らは砦よりも後方、メインとはいえない戦場で砦制圧完了を聞いたのは日が沈むのと同時の事だった

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