第20話 襲撃
ノルマが決まり、自分のペースで回復を続けるとやはり一人1~2分程度でおわってしまう。ハンスさんも8分かけていたのを、4分ほどに短縮しているのを見てしまった。
マジールさんとハンスさんよりも早く、20人のノルマが終わり。僕は先に一人壁の隅へと移動する
「おい、そこの魔道兵どうした?」
「・・・20人回復したので、先に休息をと」
僕に声を掛けてきたのは、昨日一番最初に僕についた騎士だ。僕よりうまくグリモワールを使いこなせるといった人。
「お前、兵士や騎士が傷つき、他の魔道兵がまだ回復している中で一人休息しようとしているのか?」
「・・・そういう取り決めをしていますので」
「取り決めとか知るか!怪我人がいるんだぞ!さっさと回復をかけろ!」
騎士が怒声を浴びせられる。
えっ・・・ノルマとはなんだという気持ちになってしまい、マジールさんの方を見るが・・・
マジールさんは詠唱の途中なのか、目をつぶっている。
ハンスさんは口元が少しにやけているのは、今の状況が面白いのだろう
「・・・マジール様かホランド隊長の指示を待ちます」
「貴様・・・」
結局早く終わらせる方が損・・・とは言わないが、公平さをとりもつノルマ制が意味がないものになるのならと僕は騎士の言葉を聞かず、マジールさんを待つことにした
だが騎士はマジールさんの詠唱を待たずに外を飛び出して行ってしまったのだ。仕方がないかと僕も休息の続きを再会した
地べたに座り、水を一口。そのあとにパンを一口に引きちぎり、ドライフルーツと一緒に口の中へ。
・・・
自分の魔法が終えると、更に落ち着いて回りを見渡せる。このテントの中、外は怪我人で騒がしさがある。テントの中にいても外の兵士の呻く声や、兵士達が負傷兵に声を掛けているのが聞こえてきていた。
全部がまとまり、ガヤガヤ、ザワザワといった聞き取れない雑音。
「ん・・・?」
だが、それ以上に外の様子が騒がしくなっている事に気が付いた時は、僕ら救護テントへ火柱が上がった時だった
ボォン!
という大きな爆発音が、僕の目の前で広がった。
その爆発で僕の体は吹き飛ばされ、後ろにあるテントの壁に押し当てられると、その勢いのままテントを巻き付けるようにグルグルと地面を転がる。
体が自然と止まった時には、全身から熱さと痛みが伝わってきた。
キーン
耳鳴りが聞こえているが、それが耳鳴りだと分かるぐらいには意識はある・・・ゆっくりと目を開けるとテントの布越しに赤く光る炎らしきものが見えた
痛む体を這いずる様にテントから抜け出していく。
「ゴホッゴッホ・・・ぐっ」
少し動くと、咳き込み胸が苦しい。熱気を吸ったせいか、体を打ち付けたせいかわからないが呼吸をするのが、すごく苦しいのだ。
やっとの事で這えずりだし顔だけだが外の光景をみようと、何が起こったのかを確認しようとするが・・・僕は目の前に広がる惨状に体の動きを止めた
馬にまたがる騎兵が、20人弱。帝国兵だと一瞬で分かったのは、倒れている王国兵を刺して回っているからだ
「ッ!?」
僕はすぐにのぞかせた頭をテントでまた隠す
えっ・・・なんで・・・前線はどうなってるの・・・なぜ籠城している敵が??
ヤバイ・・・このままだと・・・僕も同じように殺されてしまう。何とかばれないように・・・そう思っていたが
騎兵たちはゆっくりと、こちらに近づいてきていた。
なんでこっちに・・・
ゴホゴホと先ほどの衝撃を受けた兵士が、ズシャリと刺され断末魔の声をあげる。その様子が見えはしないがはっきりと聞こえてこちらに近づいているのだ。
「さっき、あっちで何か動いた気がしたんだが?」
もう、相手の兵士の会話が聞こえる距離まで迫ってきていた。
「おい、その焦げた布を調べろ。魔法を撃った救護テントだそれは」
「ハッ」
一人の兵士がザッザッザと僕が隠れているテントの残骸へと歩いてきた。少しの隙間からこちらに歩いてきていた兵士の足元が覗いている。
息を殺しているが、体は強張り恐怖で息が漏れてしまいそうだ。
ザッザッザッザそんな足音は死神が近づく音。僕の心臓は勢いよく音を立てる
ウロウロとテントの周りを確かめて僕のすぐ近くで、様子を探る兵士が止まる
「おい、出てこい。素直に従えば殺さないでいてやるよ」
高圧的かつ、あざけるように兵士はそう口にした
バレている・・・
「今か3数えるぞ・・・出てこないなら殺す」
「3・・・」
何か・・・本当に出て行けば殺されない?いや・・・そんな訳があるか・・・
「2・・・」
でも・・・このままではどっちみち・・・殺される・・・
「1・・・ほら、殺さねーから出てこいよ」
なら・・・相手の恩情にかけてみるしかないのかな・・・
ありえない甘い言葉。命の危機に瀕してしまうとそんな判断力も何もなくなってしまう。僕は体を動かそうとしたときだった
「で、でます!出ますので、攻撃しないでください!」
僕ではない声が響いたのだ
僕の隣、すぐ2mほどの距離で、同じようにテントにくるまれている人がいたようなのだ
「今、で、でますので!しょ、しょうしょうお待ちください・・・」
モゾモゾと這いずる音と共に聞こえる、震えるその声・・・ハンスさんだった
ハンスさんが出ていく様子が、小さな隙間から見えていた
「やっぱり隠れてたかよ・・・おっこいつ神聖持ちだぜ!隊長!2人目もいました!」
ドサリと重量感のある音が、馬から降りた音がし、ゆっくりとこちらへ近づいてきた
「おい・・・てめぇらが何度でも回復しやがるから、俺達は砦を失う事になったんだけどよ?どうしてくれんだ?」
「そ、それは・・・私のせいでは・・・お、お怪我があるのなら私が治療させていただきましょう」
「てめぇのせいだって言ってんだろ!治療だぁ?そんなのでチャラになると思っているのか?」
ボコぉっと音と共に僕の視界にはうずくまってハンスさんの背中が広がる
「うっ・・・すいません!すいません!・・・私は・・・商人の息子です・・・親に言えば・・・お、お金払ってくれます・・・」
「・・・それを待てっていってんのか?今すぐ出せよ!おらぁ!」
また殴りつける音がする
「ぐす・・・ずびばぜせん・・・な、なんでもやりばずので・・・」
ドサリと転がったハンスさんが土下座をしながら懇願していた
「駄目だな。お前が魔導士でなければ・・・見過ごすこともあったかもしれねーが・・・金がいるんだよ。で、グリモワールを持ってるってことはそういう事だ」
「ひっ!なんでもじばずから!私が。じっている詠唱をずべておおじえいたしまうぅ!」
胸が苦しくなる会話・・・
「ギャハハ、てめぇメイジ2級が何を知ってんだ?・・・ゼリルやれ」
隊長と呼ばれる男の足にへばりついていたハンスさんは、振りほどかれるように蹴られた。
「ハッ!お前ら押さえつけろ!」
シュルルルと剣を鞘から抜いていく音が聞こえる
「やめ、やべてーーー!なんでもしま・・・お、おがざーー・・・」
兵士2人に押さえつけられたハンスさんの後ろ姿。僕は彼の最後を目にして動くことも何もできなかった。
血しぶきがまい、僕の目の前の土が徐々に赤く染まっていく
「・・・神聖が2つか。もう一人ぐらいいると思ったが。ったくエリオットが戻らねーから砦捨てることになっちまって、かなりの損害だぜ」
「隊長、そろそろ俺達も行きましょう」
「チッ・・・行くぞお前ら。デーン城へ戻るぞ」
徐々に足音が遠ざかっていくのが聞こえるが、僕は震えてその場から出ていくことが出来なかった。
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